岸田首相が総裁選に不出馬:岸田政権の経済政策の評価と次期政権の課題
岸田政権の経済政策は分配重視から成長重視に軌道修正された
岸田首相は14日、9月の自民党総裁選に出馬しないことを突然発表した。政治資金問題で生じた政治不信の責任を取ること、自分が身を引くことによって活発な総裁選となり、新たな自民党という形を作ってほしいと願うこと、モンゴルの首相との電話会談を行ったことで、外交日程を一区切り付けることができたこと、などを理由に挙げた。
それでも、この時期に総裁選不出馬を突如発表したことの説明としては十分に納得性のあるものではなかった。内閣支持率が長く低迷を続ける中、総裁選に出馬しても自民党内の支持は得られない、との判断があった可能性もあるだろう。
2021年10月に発足した岸田政権は、経済政策面でアベノミックスへの評価を避ける一方、小泉政権時代の規制緩和策などを「新自由主義」として批判し、左派色の強い経済政策をまずは打ち出した。「新しい資本主義」を掲げ、「成長と分配の好循環」を強調した。その際に重視していたのは、賃上げを通じた所得再配分政策だった。賃上げ重視の姿勢は、その後も一貫して続いた。
しかし、日本経済が抱える問題の解決には、パイの配分を変える分配政策ではなく、パイの拡大を図る成長戦略の方が重要だ。当初、分配政策重視で始まった岸田政権の経済政策も、途中から成長重視へと軌道修正された。この点は評価できる点だ。
また、岸田政権は株式市場も取り込んだ成長戦略を進めた。個人の資金を積極的に株式市場に呼び込み、企業の成長と個人の資産所得増加の好循環をはかる「資産所得倍増計画」を打ち出した。その延長線上に新NISA制度の創設や資産運用立国プランなどがある。この点も評価できる。
日銀の独立性を尊重し正常化を支持したことや成長戦略は評価できる
岸田首相は記者会見で自らの政策を振り返り、30年続いたデフレ経済に終止符を打つための賃上げ、投資の促進、エネルギー政策の転換、少子化対策などを成果として挙げた。このうち賃上げは分配の変化を生じさせるだけであり、成長を促す政策とは言えない面があるが、少子化対策は重要な成長戦略の一環でもある。少子化対策、GX投資などは、岸田政権の経済政策面での成果と言えるだろう。ただし、児童手当の拡充に重点を置く少子化対策は、出生率に与える好影響は不確実であり、これで終わらせてはならないだろう。
あまり注目はされていないが、岸田政権の経済政策の中で最も評価できるのは、今後本格化させる予定であった労働市場改革、外国人材活用、ポストコロナのインバウンド戦略などの成長戦略であり、これらは、次の政権もぜひ引き継いでほしい。
また、日本銀行が金融政策の正常化に踏み切ることを、岸田政権は支持したとみられ、これも評価できる点だ。岸田政権は日本銀行の独立性を重視する政権であり、岸田政権でなかったら、日本銀行はまだマイナス金利政策を解除できていないかもしれない。
岸田政権の政治基盤の弱さが財政健全化を阻んだか
他方、岸田政権は、財政健全化には目立った成果を挙げていない。岸田首相自身は財政健全化を重視する姿勢と推察されるが、旧安倍派など保守層に阻まれてその政策は思うように進まなかったのではないか。防衛費増額の財源確保については依然決着しておらず、このままでは国債発行の増額を招くだろう。また、少子化対策でも、当初検討された増税による恒久財源確保の案は見送られた。
さらに、支持率低迷の打開も視野に入れて今年は定額減税を実施したが、これは目的や経済効果が不透明な、人気取りの政策として、むしろ岸田政権の評価を下げてしまった面があるだろう。それは財政悪化ももたらした。
財政健全化など岸田首相が本来進めたかった政策は、政治基盤の弱さが足を引っ張り、保守層の反対で実現できなかった。また、岸田首相自身が世論、支持率を気にするあまり、自らバラマキ的な政策を打ち出してしまった面もあるのではないか。
成長戦略、財政健全化、日銀の独立性重視を次期政権は引き継いでほしい
このように岸田政権の経済政策は功罪入り混じるものであるが、全体としては及第点だったと言えるのではないか。
次期政権には、労働市場改革などの成長戦略を引き継いでもらいたい。他方、岸田政権が成し遂げられなかった財政健全化は、日本経済の潜在力を高めるという成長戦略の一環として進めていって欲しい。政府債務の増加は将来世代の負担増と需要の低迷を招くとの懸念から、成長期待を損ね、経済の潜在力を低下させてしまうのである。
さらに、日本銀行の独立性を尊重し、正常化を側面から支えることも、経済、金融市場の安定の観点から重要であり、次期政権にも大いに期待したいところだ。
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