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自民党総裁選候補者の顔ぶれと経済政策姿勢

2024/08/14

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金融政策正常化と地方創生を掲げる石破氏

岸田文雄首相は14日、9月の自民党総裁選に出馬しない意向を突如表明した。これを受けて、総裁選では日本の新しいリーダーが選ばれる。現時点で立候補を明確に表明した人物はまだいないが、想定される主な候補者は、石破茂元防衛相、河野太郎デジタル相、茂木敏充幹事長、上川陽子外相、小泉進次郎元環境相、小林鷹之前経済安全保障担当相、高市早苗経済安全保障担当相、の7人である。

このうち、現在の政府の政策姿勢が最も大きく変わる可能性があるのは、高市氏が選ばれた場合だろう。

日本経済新聞とテレビ東京が7月26〜28日に実施した世論調査では、党総裁にふさわしい人とする回答で最も高いのは石破氏の24%だった。高市氏は8%、茂木氏と小林氏は1%にとどまった。

石破氏は、経済政策を巡って円安を「円弱」だと指摘して、その是正を訴える。金利を上げる必要性があるとも主張している。少子化対策として所得格差の解消が重要だとも唱えてきた。

8月7日に発行した新著「保守政治家 わが政策、わが天命」(講談社)では、「異次元の金融緩和」の長期化で国の財政と日銀の財務が悪化したとして、マクロ経済運営の危機に備えた新たな組織を設置すべきだとの考えを示した。

また、金融緩和、財政出動、成長戦略を柱とした「アベノミクス」に関しては、「功罪についてきちんと評価すべき時期が来た」と強調している。異次元の金融緩和には円高・株安基調だった日本経済を円安・株高にシフトさせるなど一定の効果があったが、10年続けたことで国や日銀の財務悪化に加え、超低金利下で企業も「やすきに流れた面があったのではないか」と疑問を呈した。

こうした発言は、日本銀行の金融緩和の正常化を支持し、また財政健全化を志向するものと考えられる。

また、今後の経済政策の柱の一つとしては、従来強調してきた「地方創生」を挙げている。中小企業や地方に「高付加価値の商品やサービスを生み出す潜在力がある」として情報技術(IT)や人工知能(AI)を利用したイノベーションや起業、移住などを進めていくべき、との考えを明らかにした。地方経済活性化、経済の潜在力引き上げ、都市一極集中の是正などの考えが浮かび上がる。

原発再稼働反対の姿勢を事実上修正した河野氏

河野氏は、従来改革派のイメージが強いが、他方で、原発再稼働反対の姿勢が、総裁への道を厳しくしているとも評価されてきた。そうした河野氏は7月31日に、「電力需要の急増に対応するために原発の再稼働を含め、様々な技術を活用する必要がある」と語り、今までこだわってきた「脱原発」の方針を事実上軌道修正した。膨大な電力を必要とする人工知能(AI)やデータの時代になったことを、軌道修正の理由に挙げている。

これは、総裁選出馬を視野に入れた軌道修正と見られている。太陽光など再生可能エネルギーを重視し原発ゼロをめざすとのこれまでの主張は、河野の首相就任が不安視される一因となっていた。

河野氏は最近、円安を阻止のために日本銀行が金利を上げるべきとの主旨の発言を行った。日本銀行の正常化を支持する姿勢ではあるが、日本銀行の独立性を尊重する姿勢を欠いている面があるのではないか。

他方で、河野氏の政策手法には強引な面があるとも指摘される。たとえば河野氏が進めるマイナンバー行政では、2024年12月に紙の保険証の新規発行をやめ、マイナカードに保険証機能を載せた「マイナ保険証」に原則移行すると決めたが、これには強引との反発もある。また、防衛相時代に地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備断念を事前の十分な根回しなく突如発表したのも強引だったとの評がある。

上川氏、茂木氏、小泉氏、小林氏の各政策

上川氏は米ハーバード大卒の国際派だ。もし総裁選で勝てば、日本初の女性首相となる。上川氏は女性活躍に尽力してきたことで知られている。また法務大臣在任中には、16人の死刑執行に署名したことで、活動家らから非難を浴びている一方、高く評価する声もある。

茂木氏も米ハーバード大出身の国際派で外務大臣も務めた。最近、円安阻止のために日銀は金融政策を正常化させる方向性を明確にすべきだとの考えを示した。河野氏と同様に、この発言は、日本銀行の正常化を支持する姿勢ではあるが、日本銀行の独立性を尊重する姿勢を欠いている面があるのではないか。

また茂木氏は、日本でのライドシェア全面解禁を唱えており、日本政府に規制緩和を改めて促すなど、規制緩和重視派の側面をのぞかせている。

小泉氏は小泉純一郎元首相の次男であり、環境対策に積極的だ。再生可能エネルギーを推進し、石炭火力発電に対する政府の支援を批判している。タクシー運転手不足の解消に向けライドシェアアプリの導入を提言するなど、規制緩和重視派の側面もある。

小林氏は最近のテレビ番組で、「日本の経済力をどうやって高めるのかが課題だ」と話した。「経済力を高めることで技術力や防衛力が高まり、それによって外交力も高まる。外交力が高まれば日本の国益にかなうルール形成が可能になってまた経済が豊かになる」と強調する。経済力強化が外交も含めた国力全体の強化につながるとの考えだ。

高市氏は積極財政、大規模金融緩和を支持か

高市氏は保守派として知られている。高市氏は原発のさらなる活用を主張する一方で、太陽光パネルによる環境破壊に懸念を示している。2021年に出馬した総裁選では、安倍元首相の大規模金融緩和政策への支持を表明した。

また高市氏は積極財政派としても知られている。国の資金で民間のビジネス展開を支援し、経済を成長させ増税を回避できると主張する。インターネット番組では、「必要なところにお金をかけて税収が増える形をつくっていくことが大事だ」と語った。

靖国神社への参拝を続けている高市氏が総裁に選ばれた場合、韓国との最近の関係改善が危ぶまれ、中国との関係を一段と悪化させる可能性もあるだろう。

冒頭でも指摘したように、高市氏以外の6人が総裁に選ばれ首相となっても、岸田政権の政策を大きく転換するものではないように思われるが、高市氏の場合には、大きな変化が生じる可能性があるのではないか。

外交、安全保障政策では右寄り、強硬姿勢が強まるだろう。また経済政策では、積極財政姿勢が強まる一方、日本銀行の利上げには批判的となる可能性も考えられる。日本銀行の正常化を制約する可能性もあるだろう。これは、円安要因になるのではないか。

高市氏が選ばれるのか、あるいはそれ以外の人物が選ばれるのかが、総裁選を巡る金融市場での大きな注目点の一つとなるのではないか。

(参考資料)
「異次元緩和の長期化で財政悪化、経済危機に備え新組織設置を-石破氏」、2024年8月7日、ブルームバーグ
「岸田首相の不出馬表明で自民総裁選び本格化へ、想定される有力候補」、2024年8月14日、ブルームバーグ
「自民総裁選、経済政策で前哨戦 ライドシェア・経済安保」、2024年7月29日、日本経済新聞電子版

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