4-6月期GDPは予想を上回るも個人消費の低迷はなお続く:円高・株安の影響、南海トラフ地震への警戒の影響、先行きの政治・政策の不確実性の影響にも注目
4-6月期の成長率は事前予想を上回った
内閣府は8月15日(木)に、日本の4-6月期GDP統計を発表した。実質GDPは前期比+0.8%、年率+3.1%と、前期の同-0.6%から2四半期ぶりに増加に転じた。事前予想の平均値である前期比年率+2.3%程度を上回る成長となった。
ただし、前期の前期比年率-0.6%と均してみると、依然、日本経済は低成長が続いていると考えられる。7-9月期は再び前期比でマイナスあるいはゼロ近傍の低成長となることが考えられる。2024年年間ではほぼ0%の成長となるだろう。日本経済は脆弱であり、外的ショックがあれば、比較的容易に景気後退局面に陥るのではないか。
実質個人消費は今年1-3月期まで、4四半期連続で前期比マイナスとなった。これは、リーマンショック後の2009年1-3月期以来であり、1980年まで統計を遡ってもこの2回しかない。そのくらい、個人消費の基調は弱いのである。円安によって増幅された先行きの物価高騰懸念が、異例な個人消費の弱さをもたらしている。
4-6月期の実質個人消費は、前期比+1.0%と5四半期ぶりの増加となった。春闘での高い賃上げを反映して、実質雇用者報酬が前期比+0.8%と上振れたことが、実質個人消費の改善につながった面もある。
個人消費の基調的な弱さはなお続く
しかしそればかりでなく、実質個人消費の増加には、年初の自動車メーカーの認証不正問題の影響で1-3月期の個人消費が落ち込んだことの反動という側面がある。6月にも新たな認証不正問題が発生したが、1-3月期と比べるとその影響は小さかった。
この影響を除くと、個人消費の基調は弱いままであることが月次統計などに示唆されている。厚生労働省が8月5日に発表した6月毎月勤労統計で、実質賃金は前年同月比+1.1%と27か月ぶりにプラスとなったが、それは、変動の激しいボーナスなど一時金を含む「特別に支払われた給与」が前年同月比+7.7%と上振れたことによる一時的な側面が強く、7月分では再びマイナスに戻る可能性がある。
9月以降は、実質賃金の前年比上昇が定着していくことが予想される。しかし、実質賃金の水準は既に大きく下落しており、その下落分を取り戻すにはなお時間がかかる。そのため、個人消費の低迷は続くだろう。
金融市場の動向が経済に影響
円安進行は企業収益を増加させ、株価を押し上げてきた面がある。他方、円安は個人の先行きの物価高懸念を増幅し、異例な個人消費の弱さを生み出したとみられる。円安が、企業収益の拡大・株高と個人消費の低迷という日本経済の2極化を生んだのである。
この先、円安が緩やかに修正されていけば、個人の先行きの物価高懸念が緩和され、個人消費の回復を助けるのではないか。
他方、円高が急速に進行し、それが株価の大幅下落を伴う場合には、個人消費を含めて景気全体には逆風となりやすい。足もとでは、急速に円高・株安が進んだ。そうした金融市場の動揺が長引く場合には、年末にかけての国内景気は下振れる可能性が高まるだろう。
さらに、米国景気の悪化に伴い円高・株安が進む場合には、企業の先行きの不確実性が高まり、設備投資、雇用、賃金の抑制につながる。それは、物価と賃金が相乗的に上昇していくとの期待を大きく損ねることになるだろう。
地震への警戒、備えも個人消費の逆風に
また8月8日に、宮崎県の日向灘を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生したことを受け、気象庁が南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)を発表したことも、先行きの大型地震に対する不安、警戒から個人の消費行動に影響を与え、経済活動の委縮につながる可能性があるだろう。
今回の地震はお盆直前に生じたことから、帰省や夏休みの旅行を控える動きも出た。南海トラフの対象地域では、旅館・ホテルの宿泊のキャンセルが増加している。地震と津波の発生に備えて、閉鎖される海水浴場も出ている。また、花火大会などのイベントの中止も聞かれるところだ。
東日本大震災後に生じた旅行関連支出の落ち込みを参考に概算すると、旅行・観光消費は3か月間で1,964億円減少する計算となる(コラム「南海トラフ地震への警戒が経済に悪影響:旅行関連消費は1,964億円程度減少も」、2024年8月13日)。
この1,964億円は、年間名目GDPの0.04%程度と、日本経済を即座に冷え込ませるほどの規模ではない。しかしながら、円安によって増幅された物価高懸念が個人消費を長らく低迷させ、さらに足元では株価の大幅下落によって日本経済の先行きに不安が高まっている中、個人消費活動を一層委縮させる要因になるだろう。
また今後も地震が頻発し、南海トラフ大規模地震への警戒が強まれば、旅行関連を中心に個人消費を控える傾向は、上記の試算以上に強まり、そして長引く可能性も考えられる。
さらに、岸田首相の総裁選出馬見送りによる先行きの政治および政策の不確実性の高まりも、企業や個人の経済活動を一時的に委縮させる可能性があるだろう(コラム「岸田首相が総裁選に不出馬:岸田政権の経済政策の評価と次期政権の課題」、2024年8月14日、「自民党総裁選候補者の顔ぶれと経済政策姿勢」、2024年8月14日)。
予想以上に上振れた4-6月期の実質GDP、実質個人消費も、7-9月期には再び厳しい環境に置かれることになるだろう。
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