米大統領選でトランプ敗北時に再び生じる混乱のリスク:勝っても負けてもトランプリスク
トランプ氏は敗北を受け入れない可能性を示唆
バイデン米大統領は8月7日のCBSのインタビューで、11月の大統領選後に平和的な権限移譲が行われるかどうかについて、「トランプ氏が敗北した場合は、全く確信を持てない」と強い懸念を示した。大統領選挙では、トランプ氏が当選した場合に国際情勢や経済、金融市場に与える不確実性が懸念されているが、トランプ氏が負けた場合でも、実は大きな不確実性がある。
トランプ氏は、「われわれが負ければ流血の事態が起きる」、「また選挙が盗まれたことになる」などと発言している。2020年の前回の大統領選では、敗北したトランプ氏が結果を受け入れず、それが支持者らによる連邦議会襲撃事件につながった、と考えられている。
またトランプ氏は今年6月下旬に行われたCNN主催の大統領選TV討論会で、今年の選挙結果を受け入れると明言することを拒否したうえで、公正かつ合法で良い選挙であれば受け入れる、と語った。
国民の間では、トランプ氏が選挙で敗れても、その結果を受け入れないことを懸念する向きは多い。6月下旬に実施されたCNNの世論調査によると、トランプ氏が選挙で敗北した場合に、負けを受け入れると考える人の割合は28%にとどまる。他方、71%は負けを受け入れることの疑念を持っている。
2020年の大統領選挙では政権移行の準備開始が2週間遅れた
前回2020年の大統領選挙では、世論調査の結果に基づき、事前にバイデン氏がトランプ氏を破るとの見方が広くなされていた。トランプ氏は選挙前から、自らが敗北した場合にはその結果を受け入れずに、裁判で争う可能性を強く示唆していた。トランプ氏は、新型コロナウイルスの感染拡大で2重投票など不正の温床となる郵便投票が増えることによって、選挙結果が民主党に有利となるような不正が横行する、と繰り返し主張していた。
2020年11月4日の大統領選挙では、バイデン氏が当選を確実にしたが、予想通りにトランプ氏は選挙で不正が行われたと主張し、その結果を受け入れなかった。選挙が終わってから2週間余り経過した11月23日に、トランプ氏がようやく政権移行手続きを容認する姿勢に転じ、バイデン氏も閣僚候補らの最初の人事を発表した。それでも選挙結果は不正によるもので受け入れないという姿勢は、今でも続けている。
2000年の大統領選挙でも、最高裁の判断に委ねられ、結果が1か月も確定しなかったことがある。ただしその際には、民主党のゴア候補が、混乱を収束させるために最終的には自ら敗北を受け入れた、という経緯がある。2000年の大統領選挙では、実際に得票数が拮抗していたことが、選挙結果の確定に時間を要した理由であった。
民主主義の信頼を損ね金融市場に混乱を生じさせるリスクが再び
今回の選挙で仮に、得票数に明確な差があるなかで敗北しても、不正を理由に前大統領が敗北を容易に認めないとすれば、民主主義の根幹をなす選挙制度の信頼性は再び大きく傷つくことになるだろう。
また、選挙結果が確定しない時期が長引けば、国内は混乱し、海外勢力がそれに付け込んで米国に介入を試みる可能性も出てくるだろう。こうした混乱を警戒して、2020年の大統領選挙が近づく中、金融市場ではリスク回避の傾向が強まった。今回も選挙が近づくと同様なことが金融市場に生じる可能性がある。米国株の大幅安やドルの急落など、金融市場に大きな混乱が生じ、その影響は米国にとどまらず、世界に広がる可能性も考えられる。
金融市場はトランプ氏が勝っても負けても、トランプリスクを意識せざるを得ない。
(参考資料)
「平和的権限移譲「確信ない」=トランプ氏敗北なら―バイデン氏」、2024年8月8日、時事通信ニュース
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