膨張を続ける予算規模(2025年度予算概算要求):自民党総裁選で財政健全化を争点に
2025年度予算概算要求が過去最大に
各省庁が2025年度に必要な予算額を示す概算要求が、8月30日に締め切られた。一般会計総額は117兆円超と、過去最大となった。総額は4年連続で110兆円を超え、2年連続で過去最大を更新する。財務省が9月上旬に集計結果を公表するが、これに基づき年末までに2025年度予算案をまとめる。要求段階で金額を示さない「事項要求」も多くあり、歳出圧力はさらに強まりそうだ。
概算要求では、日銀の利上げを受けた国債の利払い費の膨張、防衛費増額を受けた防衛費の拡大、高齢化に伴う医療や年金などの社会保障費拡大の3つが特徴的だ。
財務省は国債の元利払いである国債費を28.9兆円とした。過去最大だった前年度予算比+7.0%となる。日銀の利上げを受けて、想定金利を2.1%と前年度予算から0.2%引き上げたことが国債費を押し上げる。想定金利は2024年度予算では17年ぶりに1.1%から1.9%に引き上げられた。今後の金利動向によっては、2025年度予算案の想定金利は2.1%からさらに引き上げられる可能性も残されている。
防衛省は前年度予算比7.4%増となる8.5兆円を要求した。政府は2022年末に2023年度から5年間に総額43兆円となる防衛費増額を決めたが、それがこの概算要求の増額に反映されている。
政府は2025年度予算の概算要求基準で、社会保障費の自然増を4,100億円と見込んだ。他方、少子化対策では医療・介護分野の費用の節減分を財源にあてると決めている。今後の予算編成過程、歳出削減がしっかりと進められるか注目される。
経済産業省は脱炭素に向けた薄型の次世代太陽電池や洋上風力発電、蓄電池などの国内供給網の整備で2,555億円を求めた。財源はGX経済移行債を発行して後に賄う計画だ。また同省は先端半導体の量産化を目指す国策ベンチャー「ラピダス」への支援加速も目指しており、秋の補正予算、あるいは年末の予算編成で議論される。
国土交通省、厚生労働省、経済産業省、農林水産省などは、家計や企業の関心が高い物価高対策などを事項要求した。事項要求が相次いだ背景のひとつが長引く円安や物価上昇である。
日銀金融政策正常化で「金利上昇と財政悪化の悪循環」に陥るリスクも浮上
岸田政権の下では、歳出を大幅に拡大する3つの施策が行われた。防衛費増額、GX投資拡大、少子化対策だ。そのいずれにおいても歳出拡大が先行し、財源確保には曖昧さが残されたままだ。今回の2025年度概算要求でも、こうした歳出増加の影響が色濃く反映されている。
日本銀行の金融政策正常化によって、長期金利上昇のリスクが生じている。国債発行拡大が金利上昇につながれば、それが利払い費の増加を通じて国債費を膨らませ、金利上昇と財政悪化の悪循環に陥るリスクもある。この点から、今まで以上に歳出抑制を通じた財政健全化が必要な状況になっているが、今回の概算要求を見る限り、そうした動きはみられない。
歳出抑制と財政健全化の機運が削がれている背景には、2025年度プライマリーバランス(PB)黒字化目標達成の見通しが政府から示されたこと、税収が上振れていることがあるのではないか。しかし、2025年度PB黒字化目標達成については、かなり不確実性が高い。また、近年の税収増加は円安・物価高による一時的な側面も大きいが、物価高は歳出金額も拡大させるため、財政改善効果は大きくない。
新政権は本気の財政健全化を
9月の自民党総裁戦後には今年度補正予算が編成される可能性が高いが、後に衆院選挙を睨んで巨額の景気対策がそこに織り込まれ、財政悪化がさらに進む可能性もある。新たな首相が、今年度補正予算と来年度予算編成にどのような姿勢で臨むかを注視しておきたい。
現時点で総裁選に出馬を表明した候補者の中では、石破氏と河野氏は財政再建の方向性を明確に打ち出している。他方、小林氏は「財政よりも経済を優先」との姿勢を打ち出しており、財政健全化の姿勢は強くないとみられる。出馬が予想される候補者の中では、高市氏は明確な積極財政論者だ。
財政悪化は、将来への負担を高めることで中長期の成長期待を低下させ、経済の潜在力を低下させてしまう。また、財政リスクの上昇は長期金利の上昇、通貨価値の下落などを通じて経済を不安定化させる。次期政権には、お題目にとどまらない本気の財政健全化策をしっかりと進めていって欲しい。
(参考資料)
「膨張予算にデフレの残影 来年度要求最大の117兆円超 金額先送り多数/予備費なお高水準」、2024年8月31日、日本経済新聞
「概算要求、117兆円規模 過去最大の見通し 来年度予算」、2024年8月31日、朝日新聞
「25年度予算:目立つ、額なしの項目 次期首相の対策にらみ 概算要求」、2024年8月31日、毎日新聞
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