次期政権に引き継がれる防衛増税:議論は迷走を続けるか
2年間棚上げされた防衛増税の議論
2025年度税制改正で最大の注目点となるのは、防衛増税の扱いだ。それは、新政権の財政政策スタンスを占う試金石にもなるだろう。ただし、昨年、一昨年に続いて、今年も増税を通じた防衛費増額の財源確保の議論は先送りされる可能性が高まっている。
政府は2022年末に、防衛力の抜本的な強化のための防衛費増額とその財源確保を決めた。2023~27年度の総額を43兆円程度と定め、必要な追加財源を14.6兆円と見込んだ。
その財源には法人、所得、たばこの3税で2027年度までに1兆円強を賄う増税策が含まれた。法人税は主に大企業を対象に税額に4.0~4.5%の付加税を課す。所得税は税額に1%の付加税を課す一方、復興特別所得税の税率を1%引き下げて課税期間を延ばす。たばこ税は1本当たり3円相当を段階的に引き上げる。
しかし、増税を通じた財源確保について、自民党内から予想以上に強い反発が出たため、2022年末の与党税制大綱には、防衛増税の実施を盛り込むことができず、防衛増税は「2027年度に向けて複数年かけて」と書かれた。そして開始時期については「2024年以降の適切な時期」、とだけ記された。その後1年間、防衛増税の議論は棚上げされ続けた。
そして2023年10月には、岸田首相が2024年度からの増税を実施しない考えを表明した。政府が定額減税実施の方針を決めたことで、それとは逆方向となる増税の議論を行うことが難しくなったのである。
総裁選出馬の茂木幹事長は防衛増税の停止を打ち出す
防衛費増額は2023年度から27年度までの5年間の計画であることから、2024年度に増税が実施できなかったことで、残りは3年間しかなくなった。「複数年かけて」の増税実施となると、2025年度~27年度、あるいは2026年度~27年度の2つしか選択肢はない。
宮沢税制調査会長は、どちらになるとしても、「予見可能性といった意味からも今年の年末に決めるべきだ」、と2023年に述べていたが、それは実現しなかった。予見可能性の観点からは問題はあるが、2025年度税制改正大綱に防衛増税実施の方針を盛り込み、2026年度から実施する以外に「複数年かけて」の増税実施の道はない。
仮に、2025年度税制改正大綱にも増税実施を盛り込むことができなければ、2026年度の税制改正大綱に増税実施を盛り込み、2027年度に一気に1兆円強の増税を実施するしかなくなる。
防衛費増額とその財源確保の枠組みを定めた岸田首相が退陣を決めたことで、防衛増税の議論はさらに混迷することになった。年末の2025年度税制改正大綱に、増税実施の時期が盛り込まれる可能性は低いだろう。
9月4日に自民党総裁選に立候補することを表明した茂木幹事長は、子育て支援金の保険料上乗せ負担とともに、防衛増税を停止する考えを打ち出した。
防衛費増額で規模先にありきの議論のつけ
このままだと、増税による恒久財源の確保ができないまま、2027年度にかけて防衛費増額が進められていくことになる。その場合、増額分はなし崩し的に国債発行で賄われることになるのではないか。また、政府が閣議決定した防衛増税を何年経っても実施できない事態となれば、政府に対する信認も損なわれかねない。
どうしても増税による恒久財源確保ができないということであれば、歳出、つまり防衛費増額を再度見直し、縮小を図ることも検討すべきではないか。
岸田首相は当初、防衛費増額の「中身、規模、財源」を一体で決めるとしていた。実際には規模先にありきで議論が進み、財源確保が後回しになったことが現在の混乱を生んでいる。
防衛増税の議論がここまで迷走したのであれば、防衛費増額を抑制する縮小均衡も選択肢とすべきではないか。自民党総裁選でも、防衛増税について責任ある議論がなされることを期待したい。
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