自民党総裁選:『小石河』有力3候補の経済政策
小泉氏が総裁選立候補を正式表明
小泉元環境大臣は9月6日、自民党総裁選挙に立候補することを正式に発表した。予想された通り、政治面、経済面、社会面それぞれで「改革」を強く打ち出し、改革を加速させるとした。政治改革、規制改革、選択肢拡大の「3つの改革」を、2025年に断行するとしている。改革を強調するのは、父親の小泉元首相を彷彿とさせる。
一方、「長年、議論ばかりを続け、答えを出していない課題に決着をつけたい」として、「決着」もキーワードに掲げた。総理・総裁になったら1年以内に実現する改革と中長期を見据えた改革の方向性を説明するとし、そのうえで「できるだけ早期に衆議院を解散し、中長期の改革プランについて国民の信を問う」と明言した。
政治とカネの問題を受けて党から議員に支給される「政策活動費」を廃止するとともに、国会議員に支給される旧「文書通信交通滞在費」(現在の「調査研究広報滞在費」)の使い道を公開し、残った金額の国庫への返納を義務付ける考えを示した。また、「政治資金問題の当事者となった議員は、国民への説明責任を果たし選挙で信認を受けるまで要職に起用しない」と述べている。
憲法改正をめぐっては、自衛隊を明記することを問う国民投票を実施したい、という意向を示した。「選択的夫婦別姓」については、それを認める法案を国会に提出する方針を示した。
エネルギー政策では「使える電源はしっかりと使う」とし、原子力発電所の再稼働や新増設も容認する考えを明らかにした。
経済政策では岸田路線を継承
経済政策では、賃上げや「貯蓄から投資」など岸田政権の経済政策を「基本的に引き継ぎたい」と話した。
また聖域なき規制改革を進めるとして、労働市場改革を訴えた。解雇規制を見直すことで人材の流動化を促し、成長分野のスタートアップや中小企業に人材が流れる仕組みをつくるとする。他方、失業者増加を防ぐため、大企業にはリスキリングや再就職支援を義務づける、と説明した。この労働市場改革は、岸田政権が推進しようとしてきた政策の一つである。
また規制改革では、一般のドライバーが有料で人を運ぶ「ライドシェア」を全面的に解禁する考えを示している。解雇規制の見直しは若干踏み込んだ感はあるものの、驚くほどラディカルな改革は、経済政策案には盛り込まれなかったとの印象だ。
他方で小泉氏は、「物価高の影響を受けている低所得者や中小企業への支援にも取り組む」と発言している。仮に首相になれば「直ちに経済対策の検討を指示する」とも語った。
規制改革という保守的で右寄りの政策を掲げる一方、弱者救済の経済対策というリベラルで左寄りの政策も打ち出すという、総花的な側面が見られた。
「小石河」揃い踏みも浮き彫りになる違い
小泉氏、石破氏、河野氏の3氏は、2021年の前回の総裁選では互いに協力関係にあり、「小石河連合」と呼ばれた。小泉氏の総裁選立候補表明によって、今回は3者ともに候補者に名乗りを上げる、揃い踏みとなった。3者はともに、経済政策面で「改革」の印象が強い。
ただし、石破氏は規制改革などを必ずしも強くは打ち出していない。他方、河野氏は5日に公約を発表したが、経済政策では労働市場改革を打ち出した。河野氏は継続的な賃上げのためには労働市場改革が必要だと主張し、雇用流動性を高めるため解雇時の金銭補償ルールの必要性を訴えた。労働市場改革を規制改革の柱に据えるのは、小泉氏と同様である。
他方、財政政策、金融政策といったマクロ経済政策については、小泉氏の主張は明らかではない。ミクロの規制改革を推進する一方、マクロ経済政策が明確でないのは、小泉氏の後ろ盾ともされる菅前首相の政権時とも似ている。
しかし、石破氏と河野氏はこの点で共通している。石破氏は、アベノミックスの功罪を議論し、積極的な金融緩和と財政拡張の弊害を指摘する。財政健全化を進める観点からも、財政経済諮問会議の発展的な見直しを主張する。
河野氏も財政健全化の推進を主張し、経済・財政や社会保障の推計や見通しを適正にする「独立財政機関」の設置を提案している。エコノミストなど政府と独立した外部の有識者での構成を想定しているという。
また、大幅な金融緩和を修正し、それを、物価高をもたらす円安阻止につなげていくとの考えで、石破氏と河野氏は共通している。
3者の経済政策が最終的にどのように相互に影響を与え合うのかに注目
このように、共通の領域を持ちながらも、異なる領域も相応にあるというのが、小石河3者の経済政策だ。現時点では3者は競合関係にあるが、総裁選の最終局面や選挙後には再び協力関係を持つ可能性もある。特に石破氏と小泉氏との間では、その可能性は小さくないだろう。
この3人の中から総裁が選出される可能性が小さくないことを踏まえると、各者が打ち出している経済政策が、この先どのように相互に影響を与え合い、最終的に新政権の経済政策の形成へとつながっていくのかは、今後の大きな注目点である。
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