9月の利下げ幅で見方が分かれる(米国8月雇用統計):米国景気減速・円高で日銀利上げは後ずれも
事前予想を下回った米国8月雇用者増加数
米労働省が9月6日に発表した米国8月分雇用統計では、雇用者増加数が事前予想を下回ったことから、金融市場では景気減速への懸念が強まった。しかし、賃金上昇率や失業率は事前予想よりも良かったことや、雇用者増加数も相応の増加基調を維持したことから、事前予想を大幅に下回った前月7月分雇用統計発表後のように、景気後退懸念が一気に強まり、株価急落など金融市場を大きく混乱させるには至らなかった。
6日のダウ平均株価は景気減速懸念から下落したが、下落幅は410ドルと著しく大きくはなかった。またドル円レートは、米国の利下げ観測の高まりを受けて、一時1ドル141円70銭台まで円高が進んだ。米国では9月に利下げが実施されることはほぼ確実であるが、今回の雇用統計を受けて、利下げ幅を巡る見方は分かれている。
8月の非農業雇用者増加数は前月比14.2万人増と、事前予想の16万人程度を下回った。さらに6~7月の雇用者数が下方修正されたことで、過去3か月の雇用者増加数の月間平均は11.6万人となった。これは、労働市場に中立的な月間約20万人の増加ペースを明らかに下回っている。雇用統計以外でも、求人広告件数の低下など、雇用関連の統計には総じて弱さが目立ってきており、雇用増加ペースの低下、労働市場の軟化はもはや疑いのない状況に至っている。
他方、8月の失業率は前月の4.3%から4.2%へと低下し、事前予想通りとなった。また時間当たり賃金は前月比+0.4%と、事前予想の同+0.3%を上回った。そのため、労働市場が急激に悪化しているとの懸念を高めるまでにはならなかった。
9月の利下げ幅では見方が分かれる
雇用者増加数が事前予想を下回った今回の雇用統計を受けて、金融市場では米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測が一段と強まった。9月17~18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げ実施は、雇用統計発表以前からほぼ確実視されていたが、統計発表後には、利下げ幅が通常の0.25%ではなく0.5%になるとの観測がやや強まった。
金利スワップ市場では、9月のFOMCで0.5%の利下げが行われる確率は、統計発表前の30%台から、統計発表後には約50%へと高まった。9月の利下げ幅は、0.25%と0.5%の間で見方が大きく分かれることになったのである。
他方、年末までの利下げ幅の合計の見方については、統計発表前の1.1%程度から統計発表後は1.2%へと幾分高まった。年末までには3回のFOMCが開かれるが、毎会合で利下げを実施される上に、3回のうち1回以上が0.5%の利下げ幅になると予想されているのである。
FRBはブラックアウト期間に入り、9月17~18日のFOMCまでは金融政策を巡る情報発信はなされない。利下げ幅が0.25%になるか0.5%になるかを巡って、それまでの間に市場の観測は揺れ動き、金融市場のボラティリティが高まる可能性があるだろう。
9月は0.25%の利下げか
現時点では、9月の利下げ幅は0.25%となる可能性を見ておきたい。現時点で確認されうる所では、利下げの初回から0.5%で始めるほど米国経済の減速は深刻ではないと考えられるためだ。また、FRBが大幅な利下げを実施することで、景気減速が思いのほか深刻ではないか、との市場の憶測を強め、金融市場の動揺を招くことを避ける観点からも、0.5%の利下げにはFRBは慎重なのではないか。
ただし、それ以降については、経済指標が下振れれば、年内は連続した利下げが実施され、その中に0.5%幅の利下げが含まれる可能性は考えられる。
米国経済の減速傾向が強まれば日銀の追加利上げは後ずれも
日本と米国の金融政策が逆方向に動く、という異例の事態が進んでいくもと、2022年以降に急速に進んだ円安は、この先着実に修正されていくとみられる。現時点では緩やかな円高基調を予想するが、米国経済の減速が予想外に進み、FRBの利下げ観測が強まれば、急速な円高基調となるだろう。その場合は株価の下落を伴う形で、日本経済にも打撃となる。
今年3月以降の日本銀行の金融政策正常化は、米国経済の堅調と円安進行という外部要因に後押しされた面があるが、これらが変化し、米国経済の減速とFRBの大幅利下げ観測が強まり、円高のペースが強まれば、日本銀行の追加利上げペースは今までよりも低下するだろう。
現時点では、日本銀行は来年1月に追加利上げを実施すると見ておきたいが、米国情勢が変化すれば、その時期がさらに後ずれする可能性も出てくるだろう。
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