米大統領選TV討論会:ハリス氏は予想よりも健闘か
ハリス氏に大きな失点なく
ABCニュース主催の米国大統領候補TV討論会が米国時間9月10日夜、ペンシルベニア州で行われた。民主党のハリス氏、共和党のトランプ氏は互いに譲らず、激しい論戦を繰り広げた。
全体としては一方的な優劣は付かなかったような印象であるが、重要なのは、ハリス氏にほぼ失点がなかったということではないか。事前には討論やインタビューの経験が少ないハリス氏のディベート力に不安を持つ向きも少なくなかったが、実際にはトランプ氏に引けを取らない強い姿勢を見せつけた。ハリス氏は予想外に健闘したと言えるのではないか。
トランプ氏は、前回大統領選挙で不利に働いたとされる、討論会で相手の発言中に口をはさむ態度を今回は控えた。また、女性や非白人に関わる形でハリス氏を個人攻撃することも控えた。周りの意見を受け入れたためだろう。
他方ハリス氏は、多くの論点についてよどみなく発言していた。事前の準備の成果なのだろう。
トランプ氏からは多くの失言
討論では、お互いに「嘘つき」と非難しあう場面が多かった。事実に基づかない発言は両氏から出されたが、失点と言えるような発言はトランプ氏から多く出てきた。
例えば、「スプリングフィールドでは、移民がペットの犬を食べている」との発言だ。移民問題をクローズアップさせる狙いの発言だが、司会者から「当局はそうした事実はない」とたしなめられた。また、「移民の流入のせいで、米国内で重大な犯罪率が上昇している」との発言についても、司会者から事実ではないとの指摘を受けた。
トランプ氏は、米国以外の国では犯罪率が低下する一方、米国では犯罪率は上昇しており、それは、犯罪を引き起こす人が移民として米国に流入しているからだ、としたが、これも事実に基づかない、そして移民の人権を損ねるような問題発言だ。刑務所や精神科病院にいた移民が、メキシコと接する国境を越えて米国内に入り込んでいるとの発言についても同様だろう。
中東問題では、「ハリスはイスラエルを嫌っている」と決めつけ、「ハリスが大統領になれば、イスラエルはなくなる」と過激な発言をした。それ以外には、「自分が大統領になれば24時間でウクライナ戦争を停止する」との発言の根拠を司会者に問われ、トランプ氏はその回答をはぐらかした。
トランプ氏が負けた場合の不安
2020年の前回の大統領選挙については、不当な選挙によって自身の勝利が覆されたと強調した。前回の選挙では、コロナ問題を受けて郵便投票が増えたことが、不正を助長した、と主張していた。郵便投票では、二重投票のリスクがあるというのがその根拠だった。今回の討論会では、不法移民が投票権を得ていると主張した。根拠は示していない。大統領選挙で敗れた場合、トランプ氏はそれを根拠に、再び選挙結果を受け入れない可能性が十分にある。
前回の大統領選挙では、バイデン氏の勝利が確定してからも2週間余りトランプ氏が敗北を認めなかったことで、新政権の準備が遅れてしまった。
7月のトランプ氏とバイデン氏のTV討論会でも、トランプ氏は選挙結果を受け入れることを明言しなかった。今回も同様だった。敗者が選挙結果を受け入れなければ、民主主義の根幹が崩れてしまう。また、政治空白が生じる可能性もあり、米国のリーダーシップを損ねることにもなるだろう。
ハリス氏の戦略
講演会での発言などと同様に、ハリス氏は、移民2世、非白人、中間層出身という自身のバックグラウンドを政策と重ねる形でアピールした。経済政策では、低所得者向け税控除、低所得者向け住宅購入支援、物価押し下げなど、すでに打ち出していた、中間所得層支援と物価高対策を柱とする独自の経済政策を、改めて強調した。
他方で、トランプ氏の富裕者減税と追加関税による国民負担増加の政策を強く批判した。ハリス氏は、この独自の経済政策案と中絶問題の2つに絞って、トランプ氏と対峙していく戦略だろう。
またハリス氏は、自身の政策は未来志向であり、「ページをめくるべき時」と何度も強調する一方、トランプ氏の政策は「過去のもの」とするイメージ戦略をとった。
またハリス氏は、互いに攻撃ばかりするのではなく、政策をしっかりと論じあうことの重要性を説き、大統領候補としての器の大きさを見せようとした。
「バイデン、ハリスは国を破滅させる」、「第3次世界大戦が近づいている」と根拠なく民主党の経済政策、移民政策、外交政策を批判するトランプよりは評価できるように思うが、そうしたハリス氏の姿勢、戦略を有権者がどのように受け止めたのかについてはよく分からない。
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