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石破新政権の人事案:刷新感よりも安定感重視か:経済政策は岸田路線継承とアベノミクス脱却のパッケージ

2024/09/30

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30日に党役員人事、1日に閣僚人事を正式決定

9月28日に自民党の新総裁に選出された石破氏は、党役員と閣僚の人事を進めており、ほぼ固まりつつある。早期の解散総選挙を意識して党一体感を優先し、刷新感よりも安定感を重視した布陣になったとみられる。

総裁選候補者を積極的に登用することで、党内の結束を重視する姿勢をアピールする。また、党内に大きな影響力を持つ、菅元首相、岸田首相の意向にも配慮しているのではないか。

党役員人事は30日(月)に、新閣僚人事は1日(火)に正式に発表される。党運営の要である幹事長には、旧森山派会長の森山総務会長が起用される見込みだ。豊富な政治経験や幅広い人脈を持つ森山氏を幹事長に据えることで、安定した党運営を行い、早期の解散総選挙に備える意向ではないか。

他方、選挙対策委員長には総裁選を戦った小泉元環境大臣を起用する方針が固まった。早期の解散総選挙を主張してきた小泉氏を選挙対策委員長に据えることで、選挙準備を迅速に進めるとともに、小泉氏を支持する若年・中堅層の支持を取り付ける狙いがあるだろう。現在の対策委員長である小渕優子氏は組織運動本部長に起用される見通しだ。

総務会長には麻生派の鈴木財務大臣、国会対策委員長に旧森山派の坂本農林水産大臣、政務調査会長には旧岸田派の小野寺元防衛大臣を充てることが固まった。

副総裁には重鎮である菅前首相が内定と報じられている。麻生副総裁の後任となるが、党内のパワーシフトを象徴する人事となる。ただし、麻生氏は最高顧問となり、一定の配慮がなされる。

総裁選では第1回投票で1位となった高市経済安全保障担当大臣に総務会長のポストを示したが固辞された、と報じられている。高市氏は、閣僚ポストも固持したとも報じられている。また、高市氏同様に保守の代表格で、総裁選挙では旧安倍派からも支持された小林前経済安全保障相は、党広報本部長のポストを石破氏から打診され、固辞したと報じられている。閣僚ポストも固持したとされる。

特に高市氏は、次の総裁選を睨み、反石破の姿勢をアピールする狙いがあるのかもしれない。旧安倍派がそうした動きにどの程度同調し、反石破の勢力となっていくのかは、今後の政局を見るうえで注目されるところだ。

石破政権の経済政策は岸田路線継承とアベノミクス脱却のパッケージ

石破氏は28日の総裁選後の記者会見で、経済政策では岸田路線を継承する考えを表明した。賃上げ、物価高対策などを主に念頭に置いているとみられるが、バラマキ的な政策に陥らないかどうかは今後注目される点だ。また、労働市場改革、資産運用立国実現プランといった岸田政権の成長戦略も継承する考えだろう。これに地方創生を軸に据えた成長戦略で、石破新政権は独自色を加えるのではないか。

他方で石破氏は、アベノミクスの功罪を検証すべきとしてきた。アベノミクスの第1の矢である金融緩和、第2の矢である積極財政には否定的と考えられる。石破氏の経済政策は岸田路線の継承とアベノミクスからの脱却のパッケージと理解できるのではないか。

こうした経済政策の実効性を考えるうえで、閣僚人事は重要となる。成長戦略を担うのは、金融担当大臣、厚生労働大臣、経済産業大臣、地方創生担当大臣などだ。他方、アベノミクスの第1の矢、第2の矢の修正に関わるのは、金融担当大臣、財務大臣である。

財務大臣に加藤氏との観測も

財務大臣には、総裁選候補となった旧茂木派の加藤元官房長官が起用される見込みだ。加藤氏は総裁選挙中に、「自身にはアベノミクスの精神が流れている」と発言していた。さらに積極財政姿勢も見せていた。総裁選挙候補者を登用して党の結束を図る狙いが石破氏にあるとしても、アベノミクス支持を公言していた加藤氏を財務大臣という最重要ポストに据える場合、アベノミクスの見直し、財政健全化を主張してきた石破氏の姿勢を踏まえると意外感がある。

ただし、加藤氏は旧安倍派ではなく、全体的に保守色は強くないことや、総裁選では第1回投票で最下位であり、党内での影響力が必ずしも大きくないことにも配慮して登用したことも考えられる。いずれにせよ、財政政策を巡って首相と財務大臣の間に何らかの軋轢が生じるかどうかは、今後の注目点の一つだ。

仮に現在と同様に、財務大臣が金融担当大臣を兼務する場合には、このポストは日本銀行の金融政策とも関わってくるが、加藤氏は、石破氏と同様に日本銀行の金融政策正常化、利上げは支持する立場と考えられ、両者の間に大きな違いはないだろう。

利上げに否定的なのは、総裁選候補者の中では高市氏であり、その他は旧安倍派の一部だろう。石破政権は、財政規律の回復と、物価高圧力を高める円安を抑制する観点から、金融緩和状態はなお維持しつつも、金融政策の正常化、追加利上げを進める日本銀行の方針を支持する姿勢である。

抜擢色は強くないか

それ以外の閣僚人事では、官房長官は旧岸田派の林氏が続投、環境大臣には麻生派の浅尾慶一郎・参議院議院運営委員長、経済再生担当大臣に石破氏の側近である赤澤亮正・財務副大臣、経済産業大臣に麻生派の武藤容治氏、農林水産大臣に谷垣グループから無派閥に転じた小里泰弘氏、厚生労働大臣に旧茂木派の福岡資麿・参議院政策審議会長、経済安全保障担当大臣に、旧森山派の城内実氏、文部科学大臣に麻生派から無派閥に転じた阿部俊子氏、外務大臣には、石破氏の側近である岩屋・元防衛大臣、復興大臣には麻生派から無派閥に転じた御法川国会対策委員長代理、法務大臣に菅氏に近い牧原秀樹氏、デジタル大臣には石破氏に近い平将明氏、防衛大臣には谷垣グループから無派閥に転じた中谷元氏、子ども政策に無派閥の三原じゅん子氏、をそれぞれ充てる見込みだ。国土交通大臣は、公明党の斎藤氏が続投する方向だ。

石破氏は、自らに近い人物と無派閥色が強い人物を閣僚に多く登用する可能性が考えられる一方、麻生派、旧岸田派、旧森山派から幅広く登用し、党の結束に配慮している。

他方で、若手、女性の積極登用という抜擢人事的な色彩は強くない。閣僚で最も若いのは福岡氏の51歳だ。女性閣僚は阿部氏と三原氏の2名であり、現在の5名から大幅に減る。抜擢人事よりも、政治資金問題で揺れた自民党を立て直し、安定感を重視した布陣によって、選挙を乗り切る意図が感じられる人事案となった。

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