石破首相と植田日銀総裁の初会談
10月2日夕刻に、石破首相は植田日銀総裁と会談を行った。就任翌日に首相と日銀総裁が会談を行うのは異例なことだ。会談の実施と、その後に植田総裁、石破首相の記者団への発言を受けて、日銀追加利上げ観測は後退し、円安が進んだ。
会談後に植田総裁は記者団に対して、「政府と日銀は緊密に連携することで一致した」と語ったうえで、「首相から金融政策について指示はなかった」とした。石破首相は今までも繰り返し、金融政策は日銀が判断するものであるとの認識を示し、日銀の独立性を尊重する姿勢を強調してきた。そうした姿勢は会談でも基本的には維持されたと考えられる。
他方で石破首相は、政府はデフレ脱却を最優先としていることから、デフレ脱却がまだ達成されない中では、金融緩和姿勢が維持されることへの期待を表明している。同様な主旨の発言は、赤沢・経済財政担当大臣や加藤財務大臣からも出されている。赤沢・経済財政担当大臣は2日に、「石破首相が日銀の利上げに前向きとの見方は必ずしも正しくない」、「(日銀の利上げは)慎重に判断していただきたい」と述べた。加藤財務大臣は、「金利上昇を前提に考えるべきではない」と発言し、利上げを警戒する発言をしている。
日本銀行としては、政策金利を引き上げてもなお金利の水準は低位にあり、大幅な金融緩和の状態は変わらないことを政府に説明していくだろう。日本銀行は、物価上昇率のトレンドが上昇し、2%の物価目標達成に近づいていく確度が高まれば、それに応じて金融緩和の度合いを調整していく、との従来からの方針を撤回するとは考えにくい。ただし植田総裁は「見極めるための時間は十分に」として、しばらく利上げは行わない姿勢を示した。
他方、会談後に石破首相は、「政府としてあれこれ指図をする立場にはない」としつつ、「個人的にはそのような(追加利上げを行うような)環境にあるとは思っていない。追加の利上げをできる状況ではないと思っている」と記者団に語っている。この石破首相の発言を踏まえると、日本銀行の追加利上げのハードルは上がっていると考えられる。
こうした政府側からの日本銀行に対する発言は、石破首相が自民党総裁選に勝利した直後に利上げ観測から円高が進み、株価が大きく下落したことへの対応という可能性もあるだろう。また、目先に迫る衆院選挙に向けた短期集中型の政策アピールという側面もあるかもしれない。政権の基本スタンスは、選挙を終えてからでないと明確には読めない可能性もあるのではないか。
ただし、利上げ観測が後退すれば、再び円安傾向が強まり、それが物価高懸念を高め、国民生活を圧迫してしまう可能性もあるだろう。それは、政府の物価高対策の効果を削いでしまいかねない。そうした点にも配慮した、慎重な情報発信も必要なのではないか。
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