9月米雇用統計上振れで0.5%利下げ観測が後退:1ドル149円の円安で石破政権の日銀金融政策についての発言に変化が生じるか
9月雇用統計は全般的に上振れた
米労働省が4日に発表した9月分米雇用統計は、予想以上に堅調な労働市場の状況を示す内容となった。これを受けて米連邦準備制度理事会(FRB)が11月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.5%の大幅な利下げを連続で行う、との観測が後退し、為替市場ではドル高円安が進んだ。
9月の非農業部門雇用者数は前月比25.4万人増加となり、事前予想の平均14万人増を大幅に上回った。これは過去6か月で最大の伸びである。また、過去2か月分の増加幅もそれぞれ上方修正された。その結果、7-9月期の雇用者増加数の月間平均は18.5万人と、4-6月期の14.7万人を上回った。
また、失業率は4.1%と前月の4.2%から低下した。時間当たり賃金は前月比+0.4%と、大きく上振れた前月の同+0.5%を下回ったものの、事前予想の同+0.3%を上回った。
求人件数、中小企業の採用意欲など、幅広い指標に注目すれば、雇用の増加ペースが鈍化傾向にある可能性は高いとみられるが、それは急速なものではなく、緩やかなペースで進んでいることを、今回の雇用統計は示唆したのではないか。
一時1ドル149円まで円安が進む
9月のFOMCで、FRBは4年半ぶりの利下げを実施したが、それは0.5%と通常の0.25%を上回る大幅な利下げとなった。これは、雇用情勢の悪化に先手を打つ狙いがあったと考えられる。
しかし今回の雇用統計を受けて、0.5%の大幅利下げは行き過ぎだった、との見方も浮上している。さらに、次回11月のFOMCでも0.5%の大幅利下げが連続して行われるとの観測は大きく後退した。統計発表前には11月のFOMCで0.5%の利下げが行われる確率は金融市場に30%程度織り込まれていたが、統計発表後には10%未満にまで低下した。
そして大幅利下げ期待の後退は、為替市場でドル高円安傾向を強めることになった。統計発表直前には1ドル146円台半ばで推移していたドル円レートは、統計発表直後に148円台半ばまで2円程度ドル高円安が進み、一時は1ドル149円ちょうどの水準にまで達した。
FRBの利下げ観測は揺るがない
しかし、FRBの金融緩和が続くとの見方は維持されている。米シカゴ地区連銀のグールズビー総裁は雇用統計について、「素晴らしい」と評価した上で、こうした報告がさらに続けば、米経済が完全雇用と低インフレの状態にあるとの自信が高まる、との見方を示した。それでもグールズビー氏は、雇用市場は幅広い指標から見て冷え込んでおり、インフレ率がFRBの目標をアンダーシュートする兆候さえあると指摘した。そして、政策金利は大半の当局者が想定する均衡水準をはるかに上回っており、今後12~18か月で大幅に引き下げられる必要がある、と話している。
雇用統計を受けてダウ平均株価は大幅に上昇し、前日比341ドル高となった点が注目される。従来であれば、強めの経済指標の発表は、FRBの利下げ期待を後退させ、株価にはマイナスに働くことが多かった。しかし、FRBの利下げ姿勢は変わらないとの強い期待が市場に形成される中、強めの経済指標は米国経済の悪化懸念を緩和させ、株式市場にはプラス要因に働くようになっている。
円安を受けて日本銀行の金融政策に関する政府の発言に変化が生じるか
日本銀行は9月の金融政策決定会合で、追加利上げを急がない姿勢を明らかにした。その際に理由として挙げたのは、円高による物価見通し上振れリスクの後退と米国経済の下振れリスクの2つだった。今回の雇用統計によって、この2つの追加利上げの制約要因がともに和らいだことになる。
他方で、石破新政権が日本銀行に追加利上げに慎重な姿勢を期待する発言を繰り返したことで、追加利上げのハードルは一定程度上がったとみられる。雇用統計を受けても、こうした政治的な要因によって追加利上げは当面制約を受けるとの観測は大きくは変わらず、日本銀行が年内に追加利上げを行う可能性は引き続き低いと考えられる。
ただし、為替市場が円安に振れ、再び物価高圧力が高まることは、国民生活を圧迫する。選挙を目前にして、政府としてもそれは望ましいことではない。為替市場が再び円安に振れていることを受けて、日本銀行の金融政策に関する政府の発言に変化が生じるかどうかに注目しておきたい。
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