第2次石破内閣の発足と首相記者会見:「103万円の壁」対策の着地点はなお見えず
原点に返って政治改革、党改革に取り組む
石破自民党総裁は11月11日、衆議院本会議で行われた総理大臣指名選挙の決選投票を経て、第103代の総理大臣に選出された。その後閣僚人事が行われ、第2次石破内閣が発足した。
同日夜には石破首相は、記者会見に臨んだ。その冒頭では、「原点に返って政治改革、党改革に取り組んでいく」とし、政治活動費の廃止も含めた見直し、旧文通費の使途公開、残金返還の検討、政治資金をチェックする第3者機関設置などをできるだけ早期に実現し、政治とカネの問題で不信感を強める国民の理解を得る考えを示した。
他方、多くの野党が求める政党への企業献金の禁止については、慎重な見方を示した。企業献金については、最高裁でも合憲の判決がなされている一方、政治資金に占める政党助成金の比率をさらに高めると、政党が過度に国家権力に依存することになり問題、との見方を石破首相は示した。
次に石破首相は、今後の優先課題について、1)厳しさを増す安全保障への対応、2)治安・防災への対応、3)経済の活力回復、の3点を挙げて、それぞれ説明した。
第1の点については、自衛官が十分に確保できていないことを問題とし、防衛力の人的基盤強化を経済対策に盛り込むとした。また、サイバー攻撃対策の法案を可決させる考えも示した。トランプ次期大統領とはできるだけ早期に会談をする考えを示した。トランプ次期大統領には、日米ともに国益となるような提案をしていきたい、と述べた。
第2の点については、闇バイト問題への対応を進めるとし、また防災対策強化のために、防災庁の設置の準備を進めているとした。
地方創生を日本経済活性化の起爆剤に
第3の経済政策について、石破首相は地方創生を強調した。地方に眠る高い潜在力を持つ資源を呼び起こし、日本経済全体を活性化させる起爆剤にする、との考えを示した。自らが掲げる「地方創生2.0」は、地方だけでなく国全体の政策であり、また社会政策でもあるとした。地方交付金を倍増し、自治体がそれぞれ知恵を出して各地の生産性高める努力をし、個性的な地域をつくることを期待したいと説明した。また地方創生の有識者会議を立ち上げる考えも示した。そこでは多くの女性、30代を委員とし、年末には基本的な考えを示したいとした。
また、賃金上昇が物価上昇を安定的に上回る状態をつくることを目指すとし、賃上げの実感を中小企業、地方に広めたいとした。さらに最低賃金の引上げや来年の春闘での高い賃上げ率持続に向けて、労使との協議を行うとした。
AI・半導体分野に2030年度までに10兆円以上の公的支援を行うと明言した。他方、その財源は赤字国債では賄わないとしたが、その意味するところはよく分からない。
「103万円の壁」対策で着地点は見えない
国民民主党との政策協議で注目を集める「103万円の壁」問題への対応については、それを掲げた国民民主党が衆院選で多くの国民の支持を得たことを尊重する考えを示し、前向きに取り組む姿勢を示した。
しかし、国民民主党と自民党、あるいは与党の政調会長、税調会長の間でまずは議論するとだけ述べ、議論について具体的な内容には触れなかった。
「103万円の壁」問題、あるいはガソリン税のトリガー条項の凍結解除など、国民民主党が求める政策について与党と国民民主党の間の議論は進んでおらず、着地点もいまだ見えていないとの印象だ。政府は経済対策を11月22日までに閣議決定したい考えとされるが、国民民主党との間で短期間に合意に至るかどうかは不確実だ。
衆院で過半数の議席を失った与党の政策決定プロセス、あるいは今後の国会審議は、今までとは全く異なるものとなり、第2次石破内閣は、まさに手探りの状況が続くことになる。
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