自動車業界レポートウェビナー(2024/2/28開催)アーカイブ配信はこちら
執筆者プロフィール
システムコンサルティング事業本部
笹川 葵生:
2021年NRIに入社。主に自動車領域で、サービス/システムの企画構想支援、システム開発のPMO、IT人財育成支援などのコンサルティング業務に従事。
システムコンサルティング事業本部
橋本 実奈:
2022年NRIに入社。自動車業界のITマネジメント支援、システム企画構想支援などのコンサルティング業務に従事。
目次
はじめに
こんにちは。野村総合研究所システムコンサルティング事業本部の笹川、橋本です。私たちは、自動車業界を中心としたサービスやシステムの企画構想、開発のご支援を行っています。
今回は、アメリカや中国で先行しているロボタクシー※サービスについて、消費者の利用意向やニーズを明らかにするためにグローバルアンケート調査を実施し、ロボタクシーサービス普及に向けた課題や取り組み方針を考察しました。
- ※
自動運転レベル4以上の技術を用いた、ドライバー不要で運行可能なタクシーのこと
調査概要
調査時期 | 2023年11月 |
---|---|
調査対象国 | 日本、アメリカ、ドイツ、中国、インドネシア、タイ |
調査方法 | ウェブアンケート |
調査対象 | 年代(20代/30代/50代/60代)および性別(男性/女性)を均等割付 |
有効回答者数 | 3,120名 (1カ国520名×6カ国) |
消費者のロボタクシーサービスに対する意向調査を目的とし、2023年11月に、日本、アメリカ、ドイツ、中国、インドネシア、タイの20代から60代までの合計3,120名(各国520名)を対象としたアンケートを実施しました。
調査結果
①ロボタクシーの利用意向は、先進国(日本、アメリカ、ドイツ)では低く、新興国(中国、インドネシア、タイ)では高い
各国の利用意向の違いを明らかにするため、ロボタクシーサービスの利用意向について調査しました。
その結果、日本、アメリカ、ドイツでは「利用したい」と回答した人の割合は4割未満でしたが、中国、インドネシア、タイでは7割以上となり、先進国と新興国で大きな差があることがわかりました(図1)。
特に先進国では、「知らない・関心がない」と回答した割合が全体の4~5割に及び、ロボタクシーサービスの認知度が不十分であることがうかがえます。
図1:ロボタクシーの利用意向
Q.今後ロボタクシーを利用したいと思いますか。
②ロボタクシーの技術やサービスの先進性に関心が高い
ロボタクシーサービスを利用したい理由についての調査では、「新しい技術・サービスに興味があるから」という回答が、アメリカを除く5か国ではトップ、アメリカでは2番目に多い回答となりました(図2)。この結果から、消費者はロボタクシーの先進性に魅力を感じているということがわかりました。
既に利用意向がある人に対する継続的な需要確保のためには、単なる目新しさに終わらないように、これまでにないようなサービス価値の提供が重要だといえます。ロボタクシーの先進性をアピールしつつ、他のメリットも併せて訴えていく必要があるでしょう。
図2:ロボタクシーを利用したい理由
Q.ロボタクシーを利用したいと思う理由の中で最も当てはまるものをご回答ください。
③ロボタクシーを利用したくない人は、安全性に不安を感じている
ロボタクシーサービスを利用したくないと回答した人に対して、その理由を尋ねたところ、すべての国で「自動運転技術の安全性に不安を感じるから」という回答が最も多く、全体の6~8割を占めました(図3)。
ロボタクシー事業者にとっては、利用意向がない人に対して安全性への不安を解消していくことが課題であるといえます。
図3:ロボタクシーを利用したくない理由
Q.ロボタクシーを利用したくないと思う理由の中で最も当てはまるものをご回答ください。
④ロボタクシーを見たり利用したりしたことのある人の方が、安全性に対する不安が低い
ロボタクシーの利用経験が安全性への不安感にどのような影響を及ぼすかを確かめるために、ロボタクシーサービスを「利用したくない」と答えた人が挙げた理由を分析しました。
その結果、ロボタクシーを「利用したことも見たこともない」人よりも、「利用したことはないが見たことはある」または「利用したことがある」人の方が、「自動運転技術の安全性に不安を感じるから」を挙げた人の割合が小さく、安全性への不安感が低いことがわかりました(図4)。
このことから、ロボタクシーの安全性への不安を解消する方法として、消費者とロボタクシーの接点を増やすことが有効であると推察されます。
図4:ロボタクシーを利用したくない理由
Q.ロボタクシーを利用したくないと思う理由の中で最も当てはまるものをご回答ください。
⑤既存のタクシーやライドシェアに対しては、運賃の高さや配車までの時間に不満を感じている
既存のタクシーやライドシェアに対するロボタクシーの競争力向上の手がかりを見つけるべく、既存タクシーやライドシェアに対する不満について調査しました。
その結果、中国を除く5か国で「運賃が高い」と回答した人が最も多く、不満の高さが明らかになりました(図5)。また、中国では「配車時間までの時間」についての不満が最も多く、他の国でも運賃の高さに次いで2番目に多い不満点となりました。
ロボタクシーは将来的にこれらの不満を解消することで、既存のタクシーやライドシェアに対する優位性を示すことができるのではないでしょうか。
図5:既存タクシー・ライドシェアに対する不満
Q.既存のタクシーやライドシェアに対する不満について、最も当てはまるものをご回答ください。
⑥ロボタクシーに期待する新たな乗車体験は国によって異なる
消費者がロボタクシーにどのようなサービスを求めているのかを明らかにするために、ロボタクシーサービスに期待する新たな乗車体験について調査しました。
その結果、ロボタクシーサービスに対するニーズは各国で異なることがわかりました(図6)。具体的には、日本、ドイツ、タイでは「車椅子やベビーカーが乗降可能な大きなドア」が、アメリカ、中国、インドネシアでは「横になって眠れるリクライニングシート」がトップ回答となりました。
このように、ロボタクシーに期待される乗車体験の内容は国によって異なるため、各国のニーズに合わせたサービス戦略が重要になるでしょう。
図6:ロボタクシーに期待する新しい乗車体験
Q.今後、ロボタクシーにおいて下記のような新しい乗車体験が実現する可能性があります。
最も魅力的に感じるものをご回答ください。
調査結果から得られた示唆
ここからは、調査結果を踏まえて、ロボタクシーサービスの課題と解決方針について論じていきます。
まず、ロボタクシーサービス普及のためには、消費者の利用意向に合わせて異なるアプローチをとることが重要です。具体的には以下の二つのアプローチが考えられます:
- ロボタクシーサービスを利用したいと考えている人に対するアプローチ:継続的に利用してもらうための戦略
- ロボタクシーサービスを利用したくない、または知らない・関心がない人に対するアプローチ:新たな顧客層を開拓するための戦略
次に、それぞれのアプローチにおける課題と解決方針について考えていきます。
<ロボタクシーサービスを利用したいと考えている人に対するアプローチ>
アメリカを除く5か国で利用したい理由のトップが「新しい技術・サービスに興味があるから」であること(調査結果②)から、消費者はロボタクシーの先進性に魅力を感じているということがわかりました。
継続的な需要確保に向けては、単なる目新しさに終わらないよう、既存タクシーにはないロボタクシーならではのサービス価値の明確化が課題となるでしょう。
特に新興国では利用意向が高いこと(調査結果①)から、優先して取り組むべき課題といえます。
この課題に対する解決方針として、ロボタクシーに期待する新たな乗車体験(調査結果⑤)や既存タクシーやライドシェアに対する不満(調査結果⑥)の結果を踏まえると、各国ニーズに合わせたサービスの提供・宣伝や利用しやすい運賃設定が課題解決の要となります。
<ロボタクシーサービスを利用したくない、または知らない・関心がない人に対するアプローチ>
各国で利用したくない理由として最も多い回答が「安全性に対する不安」であること(調査結果③)から安全性への不安緩和が課題となります。
また、知らない・関心がない人に対しては、認知度の向上が課題となります。特に先進国では利用意向が低いこと(調査結果①)から、優先して取り組むべき課題といえます。
これらの課題に対する解決方針として、ロボタクシーを見たり利用したりした人はそうでない人に比べて安全性への不安感が低い傾向にあること(調査結果④)から、ロボタクシーとの接点を増やすことが効果的だと考えられます。
具体的には、ロボタクシーを街中で走らせてロボタクシーを見る機会を増やしたり、乗車体験イベントや割引キャンペーンなどで実際にロボタクシーを利用してもらう機会を増やしたりすることで、認知度の向上と安全性の不安緩和につなげることができるでしょう。
このように、ロボタクシーサービスの普及に向けては、消費者の利用意向に応じた課題や各国ニーズを踏まえた戦略が必要です。
おわりに
今回のアンケート調査では、ロボタクシーの消費者ニーズに着目しました。実際のサービス展開には、収益性や自動運転技術に関する課題が未だ山積しており、苦戦する事業者も少なくない状態です。
しかし、事業者と消費者の両方の視点から課題に対処する戦略を採用することで、既存のタクシーやライドシェアなどに対する優位性を確立し、ロボタクシーサービスの普及を促進することが可能です。
弊社では、自動車領域におけるサービス/システム企画構想支援、開発支援等を行っています。自動車業界の変革に対する打ち手の検討や、取り組みの推進についてお困りのことがございましたら、お気軽にご相談ください。
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