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日本の自動車リサイクルの現在地と今後の展望

2024/05/20

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執筆者プロフィール

システムコンサルティング事業本部
社会ITコンサルティング部
村川 友章:

大手外資系ベンダを経て、2014年にNRIへ入社。大規模システムの構想~開発、DX推進、IT組織改革などのITコンサルティング業務に従事。中央官庁をはじめ、自動車リサイクル/道路/鉄道などの社会インフラ領域の業務経験を多く有する。

システムコンサルティング事業本部
社会ITコンサルティング部
稲辺 拓也:

ITベンダにて鉄道会社向けの大規模システム開発を経て、2022年にNRIへ入社。公益団体や電力会社のシステム調達支援およびプロジェクトマネジメント支援業務に従事。

システムコンサルティング事業本部
社会ITコンサルティング部
松野 駿平:

2021年にNRIへ入社。中央官庁をはじめ、地方自治体や電力会社等におけるDX推進、調達支援、プロジェクトマネジメント支援業務等に従事。

はじめに

日本は年間約300万台(2022年時点)*1の使用済み自動車(ELV:End-of-Life Vehicles)を排出しており、国内リサイクル率は96%*2という世界トップクラスの水準にあります。しかし、自動車の電動化や環境保護意識の高まりを背景に、自動車リサイクルのさらなる高度化が求められています。今回は、日本の自動車リサイクルの現状と課題について解説し、さらには欧州の先進的な取り組みを参考にしつつ、将来の展望を探ります。

日本における自動車リサイクルの仕組み

かつて、自動車リサイクルには、ELV不法投棄や地球環境に悪影響を与えるカーエアコン冷媒(フロン類)の不適切な処理など、多くの問題が発生していました。これらの問題に対処するため、2005年1月に自動車リサイクル法が施行され、自動車の所有者、メーカー、リサイクル事業者の役割が明確化されました。これにより、ELVは環境に配慮した方法で適切に処理される体制が整いました。
自動車リサイクルを適正かつ円滑に進めるため、自動車リサイクルシステム(JARS)というプラットフォームが構築され、公益財団法人自動車リサイクル促進センター(JARC)によって運営されています。このシステムは、自治体とも連携しながらELVのリサイクルプロセス全体を管理しています。
このシステムと法律の下で、日本は高いリサイクル率を維持し、電気自動車(EV)の普及やサーキュラーエコノミー*3の推進など、新しい時代の要求に応えるために、自動車リサイクルの高度化が進められています。

変わりゆく日本の自動車リサイクル

EVの普及によって、車載用リチウムイオン電池(LiB)など、新たなリサイクル対象が増えています。同時に、回収が困難な樹脂やガラスなどの素材リサイクルへの要求も高まっています。これらの変化に応じ、日本では自動車リサイクルの更なる高度化を目指す取り組みが始まっています。
LiBは発火リスクがあるため、廃車時の安全な回収とリサイクルが義務化されており、解体後を含む適正な処理状況の管理が求められています。また、LiBはレアメタルを多く含んでいるため、これらの資源の回収と再利用がより重要視されています。樹脂やガラスなどの素材リサイクルに関しては、事業採算性に課題があるため、経済的インセンティブを付与することで回収と再資源化の促進を目指す政策が、経済産業省と環境省により推進されています。
このような社会の変化に対応したリサイクルの実現を目指すべく、日本の自動車リサイクルシステムでは、LiBのトレーサビリティ管理や、素材リサイクルの高度化に取り組む事業者へインセンティブを付与するための機能開発が進められています。しかし、これらの取り組みは主に廃車やリサイクルフェーズ(静脈側)で行われており、生産フェーズ(動脈側)との連携はまだ十分に進んでいない現状があります。一方、欧州ではバリューチェーン全体を見渡した抜本的な改革の検討が進められており、これらの施策について次章で解説します。

自動車リサイクルにおける欧州の動向

欧州では、製品のライフサイクル全体のトレーサビリティを確保する「デジタル製品パスポート(DPP)」の導入が推進されています。この取り組みは、製品の使用材料、リサイクル性、利用履歴などを一元管理し、動脈側から静脈側までの製品のライフサイクル全体にわたるトレーサビリティを保証することを目的としています。DPPの導入は、EU加盟国全体の適用法令である「欧州バッテリー規則」や「エコデザイン規則」に基づいており、製品の持続可能な開発とリサイクルプロセスの進化につながっています。
DPPの最初のターゲットは「バッテリー」であり、そのトレーサビリティの高度化を通じて、バッテリーの修理、二次利用、リサイクルプロセスを促進し、資源の有効活用を目指しています。DPPの対象をバッテリーから樹脂などの他の素材にも拡大する検討が進められています。製品やサプライチェーンに関するデータを収集し、製品ライフサイクル全体で共有することにより、資源循環の促進が期待されています。
一方で、欧州でのDPP対応は企業にとって義務であるため、データ保管のためのサーバー費用など、半永久的に発生するコストは企業にとっての大きな課題となっています。この課題に対処するためには、助成金で補填するなどの国家レベルでの支援体制の整備を検討することも重要です。ドイツでは、バッテリーパスポートの開発に総額820万ユーロを助成して、自国内企業を支援しています。
欧州におけるDPPのようなデータ連携システムは、日本の自動車リサイクル業界においても、部品や素材のリサイクル率をさらに向上させるために重要です。ELVとなった段階だけでなく、製品ライフサイクルの初期段階における動脈側の情報(部品情報や構成素材など)を静脈側と共有することで、静脈側がより高度で効率的な解体・破砕・素材選別への対応が可能となり、持続可能なリサイクルへの鍵となります。

日本の自動車リサイクルの今後の展望

欧州では、自動車メーカーがリサイクル事業者と直接契約もしくは自社でリサイクル工場を所有しているため、動脈側と静脈側が密接に関係しており、DPPのような双方での情報連携が実現しやすい環境となっています。対照的に、日本のリサイクル事業者は、57,000社*1に及び、その大半が小規模事業者であること、さらに欧州のような自動車メーカーとの強い連携がありません。そのため、リサイクル事業者にとって、自動車メーカーと密な情報連携の仕組みを構築していくためには、技術的、経済的な障壁が高いといえます。
そのような課題がある中で、現在の日本における自動車リサイクルシステムは、ELVの管理だけでなく、自動車メーカーから数多くのリサイクル事業者へ解体マニュアルなどの情報提供を行っています。このシステムを通じて、数多くのリサイクル事業者はこれらのマニュアル情報に簡単にアクセスできます。つまり、このシステムは静脈側の多くのリサイクル事業者との接点を有する特性を持ったシステムであり、将来的にも、動脈側と静脈側が更に連携を強化していく上で非常に重要なシステムになると考えます。欧州では、DPP導入時に、多くの周辺システムも一からの開発を迫られましたが、日本では、自動車リサイクルシステム等の既存のシステムを活用することで、導入の障壁を低減することが可能となり得ます。
現在、日本でも欧州のようにDPP実現に向けた構想・検討が進められています。経済産業省を中心として進められているウラノス・エコシステムがこれに当たります。ウラノス・エコシステムは、自動車産業だけに留まらず、様々な製品のサプライチェーンに適用していくことを想定した共通データ連携基盤の構想です。
今後の日本の自動車リサイクルの発展・高度化に向けては、このウラノス・エコシステムを介したDPP実現が鍵になってきます。自動車メーカーが保有する製品設計データや部品・素材データ等の動脈側の情報と、リサイクル事業者が保有する部品回収データ等の静脈側の情報が、ウラノス・エコシステムを通じて相互に共有され、DPPが目指すサプライチェーン全体におけるデータの繋がりを生み出していくことになると考えます。
つまり、ウラノス・エコシステムを介して、自動車メーカーからの製品設計データや部品・素材データがリサイクル事業者へ共有されることにより、より高度な解体・素材選別を実施できるようになります。また、リサイクル事業者からの部品回収データや素材回収データがウラノス・エコシステムに連携されることで、リサイクル部品・素材が動脈側で効果的に再利用されるという「資源循環」が促進されます。この循環スキームの構築により、自動車リサイクルは更なる高みへと進化することが期待されます。

おわりに

今回は、日本の自動車リサイクルの現況と、欧州の最新動向を踏まえて将来への展望について解説しました。サーキュラーエコノミーをより高度に実現するためには、製品開発から廃棄に至るまで、すべてのプロセスにわたって部品や素材の情報を一元的に管理することが不可欠です。この目標を達成するために、日本ではウラノス・エコシステム構想でのDPP実現が鍵になってきます。
しかしながら、日本のリサイクル事業者の大半は小規模事業者である中で、このDPPに対応していくことはコスト面でも技術面でも難易度が高いと推察されます。この課題に対して、「自動車リサイクルシステム」は静脈側の多くの事業者をつなぎ、現在の自動車リサイクル率の高さを支えている世界でも稀な存在であり、このシステムを有効に活用していくことが将来の日本のDPP実現と今後のリサイクル進展につながるのではないかと考えています。

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執筆者情報

  • 村川 友章

    システムコンサルティング事業本部 社会ITコンサルティング部

  • 稲辺 拓也

    システムコンサルティング事業本部 社会ITコンサルティング部

  • 松野 駿平

    システムコンサルティング事業本部 社会ITコンサルティング部

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