そろそろSDGsのその先を考えるべきタイミング
現在、私たちがよく耳にするSDGs1の期限が迫っている。SDGsを中心とする国際社会共通の目標・行動計画である「持続可能な開発のための2030アジェンダ:The 2030 Agenda for Sustainable Development」は、2016年から2030年までの15年間を対象に、発展途上国だけでなく先進国も含めて持続可能でよりよい世界を目指すために取り組むべき課題を網羅したものである。環境・社会・経済の三側面を調和させる「トリプル・ボトムライン」の思想を基盤とし、17のゴールと169のターゲットを設定した。
SDGsの期限である2030年まで残り約4年となった現在、次の目標・行動計画を検討するタイミングになりつつあり、2024年9月の国連未来サミットでは、次期目標に関して国家間交渉を2027年9月から始めることが採択された。現国連事務総長は2026年末に退任するため、2027年1月に就任する次期国連事務総長の元で本格的な検討が始まることが推測される。
ところで、以前、このSDGsの前にMDGs2という目標があったことをご存じだろうか。国連が2000年に採択したMDGsは、2001年から2015年までの15年間を対象に、主に発展途上国における貧困や飢餓、初等教育、母子保健、感染症対策など、基本的な人間開発課題の解決を目的として設定された。8つのゴールと21のターゲットで構成されたMDGsは、世界中の国や国際機関、NGO、企業が協力し、一定の成果を上げたと評価されているものの、環境問題やインクルージョン3など、より広範な課題は十分にはカバーされず、それは現行のSDGsへと引き継がれた。
そして現行のSDGsを引き継ぐ次の目標として、2031年以降の目標・行動計画は「Beyond 2030 Agenda」や「Post SDGs」等と呼ばれ、国内外でさまざまな議論が始まりつつある。現行のSDGs検討時は、策定のおよそ3年前から骨組みの提言が始まっていたことを踏まえると、まさに今が次のアジェンダを検討するタイミングとなっているのである。国連や各国の政策担当者、専門家コミュニティーでは、「現行SDGsを延長・拡張すべきか」「全く新しい枠組みに転換すべきか」という二つの方向性が検討され、2027年9月の第3回国連SDGサミットで国家間交渉が正式にスタートする予定となっている。
図 国連による開発目標の歴史と今後

出所)各種公開情報を基にNRI作成
Post SDGsの議論で注目される新しいテーマとは
Post SDGsとなる新たな国際目標に関する議論で注目されるのは、まずGDPを超える新たな指標(Beyond GDP)やウェルビーイング、幸福や文化等の重視などがある。それらに加え、約15年前のSDGs検討時には想定されていなかったデジタルやAI、格差是正、移民や難民、労働力不足や高齢化対応、宇宙や深海などの新たなテーマが議論されている。
特にPost SDGsの議論で注目されるのは、根本的な思想となるBeyond GDPである。詳しくは別コラムで紹介するが、これは経済的な生産・消費の量だけでなく、人々の幸福感(主観的ウェルビーイング)、社会関係資本、公平性と包摂性、将来世代への配慮などを組み込んで社会の進歩を測定する考え方である。
また、現行のSDGsを検討していた2013年頃にはほとんど議論されなかった領域として、デジタル技術やAIの活用、宇宙や深海の利用、超高齢化社会への対応、移民・難民、文化資本の保護なども挙げられている。加えて、SDGsの達成状況があまり良くない分野では目標や指標の強化が提唱され、社会実装を促進する制度設計等も重点テーマになっている。
SDGs時代のグリーン経済に留まらず、今後は多彩な経済圏の登場へ備えるべき
現在のSDGsはグリーン・エコノミー(環境経済)に大きな注目が集まった。地球温暖化や生物多様性等の課題に取り組む事業機会が創出され、大きな経済圏を形成したと言えるだろう。そこで次のPost SDGsでは、パープル・エコノミー(労働力不足・ケア経済)やオレンジ・エコノミー(文化・創造経済)などの多彩な経済圏やライフ・エコノミー(環境・社会・経済の統合)などの新たな経済圏が新しい社会課題解決の舞台となることが想定されている。
今はまだ「Beyond 2030 Agenda」や「Post SDGs」という言葉が一般には浸透していないが、国際的には議論が活発化しており、この数年の動向は2031年以降の世界秩序や経済モデル、企業の事業活動の方向性を決定づける可能性がある。MDGsからSDGsへの移行期に海外企業が果たした役割を思い起こせば、日本企業も国際目標の形成段階で積極的に関与することで、2031年以降の世界で新たな事業機会の獲得と社会的価値の創出を両立させることが可能になるだろう。
この「Beyond 2030 Agenda研究会」は、2031年以降のSDGsの国際目標を見据え、NRIの専門家が関連する動向を分かりやすく解説するものである。中長期的な社会産業の姿を洞察し、民間企業にとっての新たな事業機会を見いだす上でも、ぜひ参考にしていただきたい。
- 1持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)
- 2ミレニアム開発目標(Millenium Development Goals)
- 3インクルージョン(inclusion)とは、「包摂的」「包括的」を意味する言葉であり、どんな人でも排除されないという考え方。SDGsの中では「誰一人取り残さない(No one will be left behind.)」として示されている。
プロフィール
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谷山 智彦のポートレート 谷山 智彦
政策・戦略研究室
2002年慶應義塾大学総合政策学部卒業、2004年同大学大学院修士課程修了、2010年大阪大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。2004年に野村総合研究所に入社後、主に不動産・インフラ分野に関する調査研究及びコンサルティング業務に従事。2017年11月よりビットリアルティ株式会社(現:KDX STパートナーズ株式会社)の取締役に就任し、2020年3月より同社取締役副社長として不動産分野におけるデジタル戦略を推進。2023年4月より未来創発センターに所属し、2025年4月よりシニアチーフリサーチャー(現職)。
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岩崎 千恵のポートレート 岩崎 千恵
政策・戦略研究室
神戸大学経営学部卒業後、野村総合研究所入社、システムリサーチ本部配属。
金融IT関連本部、システムコンサルティング本部等において、資産運用や金融商品取引に係る金融ITサービスの企画・開発、銀行・証券向けコンサルティングに従事した後、野村ホールディングス、野村證券出向を経て、2014年4月より現職。専門は社会・金融関連制度分析。 -
中田 舞のポートレート 中田 舞
経営コンサルティング部
京都大学大学院農学研究科修了、2017年野村総合研究所入社。主に企業のサステナビリティ経営推進を専門として、ビジョン策定・経営計画の立案・実行、統合報告書や非財務情報の開示、経営戦略やビジネスモデルに基づく人的資本・自然資本の課題特定と施策強化などのプロジェクトに従事。
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磯谷 允亨のポートレート 磯谷 允亨
エネルギー産業コンサルティング部
2023年、東京大学経済学部経営学科卒業。同年、野村総合研究所入社。
入社以来、コンサルティング事業本部にてGX(グリーントランスフォーメーション)領域を中心に、戦略立案、ルール形成支援、新規事業立案等のコンサルティング業務に従事。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。