&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

はじめに

海外経済に関する下方リスクが若干低下したことに加えて、これまでの利下げの効果が確認できたこともあって、FOMCメンバーの意見は、前回(12月)の時点で、経済見通しと政策判断の双方の面で概ね収斂していたようだ。

経済情勢の評価

FOMCメンバーは、米国経済が緩やかな拡大を続けるとの見方で概ね(generally)一致した。

このうち家計の支出については、労働市場の強さ、所得の増加、良好なセンチメントといった要因によって今後も支えられるとの期待を示し、消費関連企業によるクリスマスシーズンの売上げへの楽観的な見方に言及する向きも多かった。ただし、数名(some)のメンバーは、自動車販売のデータが軟化している点を指摘した。

加えて、住宅投資が金利低下によって拡大を続けているとの指摘も見られた。金利低下に関しては、執行部説明の中でも、モーゲージだけでなく、自動車ローンや消費者ローンでも明確化しており、家計の活動を下支えしていることが示唆されている。

これに対し企業活動については、貿易摩擦と海外経済の停滞が設備投資と輸出の弱さに影響し、鉱工業生産への影響も含めて今後も停滞が続くとの見方も示した。もっとも、数名(a few)のメンバーは、貿易を巡る不透明性に対応するため、企業がサプライチェーンの分散化や新たな技術開発に投資する動きをみせている点を指摘し、設備投資の下支えになる可能性を示唆した。

また、多くの(a number of)メンバーは、米国の産業構造を反映して、エネルギーと農業の両部門に対する影響を特に取り上げ、前者については原油価格の低迷と低収益性、資金調達環境の悪化、後者については、外需の低迷と資金調達環境の悪化といった要因をそれぞれ指摘し、困難な状況にある点を強調した。

デュアルマンデートと先行きのリスク

まず、労働市場については、多様な視点(various participants)から、低位な失業率が今後も維持されるだけでなく、望ましくない副作用(賃金の加速的な上昇)を伴うことなく、更なるタイト化が可能との見方が示された。

もっとも、この点には異論もあり、数名(a few)のメンバーがslackが実質的に消滅したと指摘したほか、2名(a couple of)のメンバーは、2月から反映される雇用統計の改定に伴って、雇用者数の増加ペースが鈍化する可能性が高いと指摘した。

また、多くの地区連銀総裁は、各地域の企業が質の高い労働力の確保に依然として苦労している点を指摘し、少なくとも一部の産業では賃金上昇圧力が強いことを説明した。もっとも、2名(a couple of)のメンバーは、企業が賃金上昇を回避するために、労働代替的な技術に投資するなど、多様な対応を図っていることも指摘した。

物価に関しては、景気拡大の継続と経済資源の稼働率の高さを背景に、2%目標に収斂していくとの見方で概ね(generally)一致したが、海外の経済と物価の弱さを主因に、そうしたシナリオへのリスクも指摘された。また、景気拡大にも拘らずインフレ率が平均して2%を下回っている点を踏まえて、経済のグローバル化やイノベーションの影響を指摘する向きもみられた。

その上で、米国経済のリスクに関しては、多くの(many)メンバーが下方に傾いているとの評価を維持しつつ、米中摩擦の緩和の兆しやno-deal Brexitのリスクの一層の低下、さらには海外経済の成長の安定化の兆しといった点で、リスクの度合いが幾分低下したとの見方を示した。加えて、多くの(a number of)メンバーは、海外経済の動向に関わらず、国内経済が底堅さを見せている点を指摘した。

この点に関しては、米国債のイールドカーブの形状の変化をもとに、米国経済が今後に景気後退に陥る可能性が顕著に低下したとの計量分析を示す向きもみられた。もっとも、アルゼンチンや、ブラジル、フランスとの間での貿易摩擦や香港情勢の不安定化など、新たなリスク要因の出現も指摘された。

政策判断

12月のFOMCは金融政策の現状維持を決定した訳であるが、多くの(a number of)メンバーは、そうした状況の下で、これまでの政策決定(利下げ)やこれに関するコミュニケーションの効果を見極めることができるとの判断を示した。加えて、こうした政策を当面維持することで、海外経済の動向による国内への影響を軽減しうる点を確認したようだ。

もっとも、インフレ率が2%を下回る状況が続いている点には幅広く(generally)懸念が示され、足元では一時的な要因が作用している可能性を認めつつも、各種の指標からみて長期のインフレ期待が低すぎることを問題視した。

また、数名(a few)のメンバーは、低金利を長期に亘って維持することに伴う、金融市場での過剰なリスクテイクの問題を提起した。これらのメンバーは、次の景気後退を深刻化する点で、低金利政策の継続は最大雇用の維持とは整合的でないと主張し、金融不均衡の抑制のために、マクロプルーデンス政策を積極的に活用すべきとした。

金融政策の見直し

12月のFOMCでは14回に亘って実施したFed Listensの内容を検討した。なかでも、景気の長期的な拡大が幅広い層への雇用機会を提供していることを確認した点は、現在の緩和的な金融政策の維持に対しても有力な根拠を提供している。

もっとも、Fed Listensの参加者からは、マクロの雇用統計が示すほどに労働市場はタイトではないとか、次の景気後退で状況は変化するといった懸念も示された。こうした分配の問題は、物価や金利に関しても指摘された。つまり、総じてインフレ率が低い下でも、退職者は医療費や処方箋薬の価格上昇、勤労者は住居費や光熱費、食費の上昇に不満を示した。また、企業は低金利を歓迎したが、退職者は金利収入の減少に懸念を示した。

もちろん、こうした問題に金融政策のようなマクロ的手段で対応することは難しいし、景気拡大を維持する下で政府が様々な対策を講ずることが重要になる。ただし、2%のインフレ目標に疑問が生ずることは無視しえない問題と捉えられ、その合理性をより明確に伝えることの重要性について幅広く(generally)合意された。

プロフィール

  • 井上 哲也のポートレート

    井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニアチーフリサーチャー

    

    内外金融市場の調査やこれに関わる政策の企画、邦銀国際部門のモニタリングなどを中心とする20年超に亘る中央銀行での執務経験と、国内外の当局や金融機関、研究機関、金融メディアに構築した人脈を活かして、中央銀行の政策対応(”central banking”)に関する議論に貢献。そのための場として「金融市場パネル」を運営し、議論の成果を内外の有識者と幅広く共有するほか、各種のメディアを通じた情報と意見の発信を行っている。2012年には、姉妹パネルとして「バンキングパネル」と「日中金融円卓会合」も立ち上げ、日本の経験を踏まえた商業銀行機能のあり方や中国への教訓といった領域へとカバレッジを広げている。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。