はじめに
FRBは今回(12月)のFOMCで50bpの利上げを決定し、利上げペースを鈍化させた。もっとも、同時に公表したdot chartでは、メンバーの大多数が2023年末の政策金利を5%超と予想するなど、利上げの最高到達点の見通しも前回(9月)対比で上方修正した。
経済情勢の判断
パウエル議長は、冒頭説明で、住宅投資や設備投資など金利感応度の高い領域は減速しているが、消費の底堅さを中心に米国経済が緩やかな拡大を続けている点を確認した。また、労働市場では、雇用の増加ペースがやや鈍化したが、需給の不均衡が残存するなど強い状況が維持されていると評価した。
FOMCメンバーによる新たなSEPによれば、実質GDP成長率の2023~25年の見通しは+0.5%→+1.6%→+1.8%と、前回(9月)対比で2023~24年が各々0.7ppおよび0.1ppの下方修正となった。これに対し複数の記者が景気後退のリスクを質したが、パウエル議長は2023年は低成長だがマイナス成長ではないとの見方がFOMCメンバーのコンセンサスであると説明した。
また、別の複数の記者は労働市場への影響を取り上げた。まず、新たなSEPが2023~25年の失業率を4.6%→4.6%→4.5%と予想し、前回(9月)対比で各々0.2ppの小幅な上方修正になった点について、パウエル議長は利上げの最高到達点の引上げによると説明した。また、景気減速でも長期失業率(FOMCメンバーの推計は4.0%)からの乖離は小幅に止まると指摘した。
物価情勢の判断
パウエル議長は、インフレ率に鈍化の兆しがみられるが、物価目標に向けての収斂は不十分との理解を確認した。また、家計や企業、市場のインフレ期待は安定しているが楽観すべきでなく、 FOMCは総じて物価の上方リスクを意識していると説明した。
FOMCメンバーによる新たなSEPによれば、コアPCEインフレ率の2023~25年の見通しは+3.5%→+2.5%→+2.1%と、前回(9月)対比で2023~24年が各々0.4ppおよび0.2ppの上方修正とな った 。 なかで も 2023年はPCE 総合イン フ レ率の見通 し(+3.1%)を上回ることが注目される。
質疑では複数の記者がインフレ率の減速に対する評価を取り上げた。パウエル議長は、供給制約の緩和に伴い財価格は明確に減速しているほか、来年にかけて住居費も減速するとの見込みを示した一方、住居費を除くサービス価格の減速には不確実性が残るとし、理由として賃金上昇の減速が明確でない点を挙げた。
また、別の記者が労働供給の問題を取り上げたのに対し、 パウエル議長は、FRBの推計によれば、コロナ前の構造が維持された場合に比べて約330万人分の労働供給が不足していると説明し、主たる背景として早期退職の増加やコロナによる死亡といった構造要因が大きいとの見方を示した。
一方、中国がゼロコロナ対策を大きく見直すことについては、サプライチェーンの面から供給制約を緩和する面と、中国の内需増加をもらたす面の双方があるため、結果として米国の物価に与える影響は大きくないとの見方を示した。
この他、別の記者は、インフレ圧力が持続的かつ構造的であることを踏まえて、物価目標を引き上げる可能性を質したが、パウエル議長は、長期的な検討課題とはなりうるが、現時点では2%目標の達成に注力すべきと回答した。
政策判断
パウエル議長は、冒頭説明で、今回(12月)のFOMCが利上げペースを鈍化させた理由について、政策金利が既に引締め領域にあり、既往の利上げが迅速であっただけに、波及効果の時間的ラグを考慮しつつ、経済や物価への波及を評価することが適切との考えを確認した。
一方、今回(12月)のdot chartによれば、2023~25年の年末の政策金利の予想値(median)は、5.1%→4.1%→3.1%となり、前回(9月)対比で各々0.5pp、0.2pp、0.2ppの上方修正となった。
しかも、2023年末は5.125%が明確に多数派であるだけでなく、 19名中17名が5%超を予想している。今回(12月)の利上げによって、FFレートの誘導目標は4.25~4.5%になったので、さらに75bp以上の利上げを示唆することになる。
これに対し、2024~25年末の政策金利の予想は、当然ながら大きくばらついており、medianのみに着目することは適切ではない。それでも、2024年末は4%前後に予想のウエイトがあるほか、 2025年末も大半は2%代後半から3%台に分布し、いずれもFOMCメンバーの推計による中立金利(2.5%)を上回っている。
パウエル議長は、これらの点に関して、物価目標に対する持続的な収斂の動きに確信が持てるまでは、金融政策を十分に引き締め的な状況に維持することが必要との考えを確認した。 これに対し複数の記者が、今後は25bpづつといった小幅な利上げに移行するのか質したが、パウエル議長は、今後は経済データに依存する(data dependent)との方針を確認したほか、今や利上げペースよりも政策金利の最高到達点が重要と回答した。
別の記者は、利上げの継続に関わらず金融市場で長期金利が軟化するなど、金融環境のタイト化が意図通り進んでいない可能性を指摘した。これに対しパウエル議長は、金融環境はより長い目で評価すべきであり、従前に比べてタイト化していると反論した。一方で、FOMCメンバーが利上げの最高到達点の見通しを順次引き上げてきた点も付言し、金融環境の重要性も認めた。
さらに別の複数の記者は利上げに伴うトレードオフを取り上げた。 パウエル議長は、今回(12月)のSEPが2023年はプラス成長を維持するとの見通しを示している点に言及しつつ、更なる利上げによっても景気後退を招くわけではなく、労働市場が強いだけに雇用に対する影響も限定的との見方を示した。
その上で、物価上昇圧力の低下には総需要の抑制が必要である点を確認したほか、政策金利の最高到達点を引上げたにも関わらず、インフレ率の見通しも同時に上方修正している点に注意を示した。
このほか質疑応答では、インフレ率が減速することによる実質金利の押上げ効果も取り上げられたが、パウエル議長は、経済や物価の見通しは当然にそうした効果を考慮していると回答した一方で、実質金利の正確な把握には困難さが伴う点も付言した。
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