はじめに
トランプ氏が次期財務長官に指名したベッセント氏に対する米連邦議会(上院金融委員会)の公聴会では、冒頭説明で、経済安全保障の強化、米ドルの国際通貨としての地位の維持、歳出の抑制を通じた財政の健全化、2017年に導入した減税策の延長、規制の幾分の緩和、関税引上げを主要な政策課題として提示した。
これに対し、質疑応答では、上記の減税策や通商政策の運営が焦点となり、ベッセント氏は全体としてトランプ氏のアジェンダに支持を表明した。ただし、この間に委員会メンバーに個別説明を行った模様であり、微妙なテーマには即答を避けるなど、総じて慎重な対応ぶりが目立った。
これに対し、質疑応答では、上記の減税策や通商政策の運営が焦点となり、ベッセント氏は全体としてトランプ氏のアジェンダに支持を表明した。ただし、この間に委員会メンバーに個別説明を行った模様であり、微妙なテーマには即答を避けるなど、総じて慎重な対応ぶりが目立った。
減税策の運営や効果
委員長のクラポ氏をはじめ、多くの共和党議員は、減税策の延長によって4兆ドル強の税負担が軽減されるだけでなく、恩恵の6割程度が低所得層に及ぶほか、中小企業の活動を支援し、経済活動を押し上げるとの主張を展開した。
同時に、グラスリー氏やジョンソン氏など複数の議員は、2017年に減税策を導入した際も、CBOの想定ほどには歳入が減少せず、財政赤字はむしろ歳出側の問題であると指摘した。また、 ランクフォード氏やデインズ氏からは、税制の安定や税額還付の活用が企業活動の活性化に有効との指摘もみられた。
これに対し、Ranking Member(副委員長格)のワイデン氏やサンダース氏を含む多くの民主党議員は、減税策の延長が所得格差を一層拡大するとの懸念を示し、一部の超富裕層がマクロ的に見た所得の大きな部分を占めている現状を指摘した。
この点に関しては、ベネット氏等も、財政赤字の肥大化は将来世代の負担増になるとの指摘を展開したほか、2017年の減税では期待された「トリクルダウン」は生じなかったと主張した。さらに、スミス氏は財政赤字の拡大が、インフレ圧力を通じて、むしろ低所得層に打撃となりうるとの懸念を示した。
これらの議論に対して、ベッセント氏は、共和党議員の主張に概ね同意しつつ、トランプ政権はあくまでも中低所得層の所得の改善を目指していることを強調したほか、2017年の減税策によって中間層の所得が顕著に増加した事実を指摘した。
また、超高所得層については、自らの努力によって地位を獲得したのであり、税制の歪みによるものではないと説明したが、民主党議員のワイデン氏が取上げた所得の捕捉の問題には理解を示し、財務省として徴税が重要である点を確認した。
なお、民主党のウォーレン議員が、連邦債務上限を取り上げ、円滑な引上げが実現しない場合の米国債のデフォルトリスクを指摘したのに対し、ベッセント氏は連邦債務上限は財政赤字に対するブレーキの意味合いを有しているとした一方、トランプ氏が廃止を示唆している点について、トランプ氏と協力する意向も示唆した。
同時に、グラスリー氏やジョンソン氏など複数の議員は、2017年に減税策を導入した際も、CBOの想定ほどには歳入が減少せず、財政赤字はむしろ歳出側の問題であると指摘した。また、 ランクフォード氏やデインズ氏からは、税制の安定や税額還付の活用が企業活動の活性化に有効との指摘もみられた。
これに対し、Ranking Member(副委員長格)のワイデン氏やサンダース氏を含む多くの民主党議員は、減税策の延長が所得格差を一層拡大するとの懸念を示し、一部の超富裕層がマクロ的に見た所得の大きな部分を占めている現状を指摘した。
この点に関しては、ベネット氏等も、財政赤字の肥大化は将来世代の負担増になるとの指摘を展開したほか、2017年の減税では期待された「トリクルダウン」は生じなかったと主張した。さらに、スミス氏は財政赤字の拡大が、インフレ圧力を通じて、むしろ低所得層に打撃となりうるとの懸念を示した。
これらの議論に対して、ベッセント氏は、共和党議員の主張に概ね同意しつつ、トランプ政権はあくまでも中低所得層の所得の改善を目指していることを強調したほか、2017年の減税策によって中間層の所得が顕著に増加した事実を指摘した。
また、超高所得層については、自らの努力によって地位を獲得したのであり、税制の歪みによるものではないと説明したが、民主党議員のワイデン氏が取上げた所得の捕捉の問題には理解を示し、財務省として徴税が重要である点を確認した。
なお、民主党のウォーレン議員が、連邦債務上限を取り上げ、円滑な引上げが実現しない場合の米国債のデフォルトリスクを指摘したのに対し、ベッセント氏は連邦債務上限は財政赤字に対するブレーキの意味合いを有しているとした一方、トランプ氏が廃止を示唆している点について、トランプ氏と協力する意向も示唆した。
関税引上げとその効果
共和党議員のコーニン氏を含む両党の複数の議員が、中国の通商政策が自由でフェアという原則を満たしていないと批判したが、具体的な論点はいくつかに分かれていた。
まず、民主党議員のワイデン氏などは、トランプ政権がクリーンエネルギーに対する支援を放棄することは、米国企業の国際競争力を毀損するとの懸念を示した。また、エネルギー問題では、民主党議員のワーナー氏等がロシア産の石油に対する政策の適否を取り上げたほか、共和党議員のバラッソ氏も、トランプ氏のEnergy dominanceの議論を引用しつつ、エネルギー生産の強化による安全保障の重要性を指摘した。
これらの論点に関して、ベッセント氏は、中国がクリーンエネルギーを標榜しつつ石炭に依存している点の矛盾を指摘したほか、ロシアに対する制裁の強化は、交渉のテーブルに着かせる上で重要である一方、米国内でのエネルギー価格は、国内生産の増強によって抑制しうるとの考えを示した。
なお、共和党議員のヤング氏は海外企業による米国企業の買収審査において、不偏性や中立性が維持されるかどうかを質したほか、複数の議員が、reciprocityの観点から、米国企業による中国への直接投資が過小である点を問題視した。
これに対しベッセント氏は、トランプ氏が日本製鉄による買収案件に反対している点に言及しつつ、不偏性や中立性の原則を確認した。
一方、民主党議員のワイデン氏や共和党議員のヤング氏などは、関税の引上げに伴う米国内のインフレ圧力が低所得層や中小企業に与える影響に懸念を示した。また、民主党議員のウェルチ氏のように、地元(バーモント州)の経済にとって、カナダに対する関税引上げに懸念を示す向きもあった。
これに対し、ベッセント氏は、過去の関税引上げによる推計によれば、10%の引上げに対して国内物価への波及は4%に止まり、残りは、消費者による購買品目の変更(代替効果)と輸出国側での価格引下げ(market pricing)によって吸収されるとの見方を示した。
その上で、中国が米国産の農産物購入のコミットメントを適切に遂行していないことを問題視し、その実施を迫ることが重要との見方を示した。なお、ベッセント氏の家族は農場を経営しており、状況はよく理解しているとして、地域経済の活性化のために地域金融機関の役割が重要と指摘した(ベッセント氏によれば、金融業界で最初の仕事は銀行アナリストとのことであった)。
まず、民主党議員のワイデン氏などは、トランプ政権がクリーンエネルギーに対する支援を放棄することは、米国企業の国際競争力を毀損するとの懸念を示した。また、エネルギー問題では、民主党議員のワーナー氏等がロシア産の石油に対する政策の適否を取り上げたほか、共和党議員のバラッソ氏も、トランプ氏のEnergy dominanceの議論を引用しつつ、エネルギー生産の強化による安全保障の重要性を指摘した。
これらの論点に関して、ベッセント氏は、中国がクリーンエネルギーを標榜しつつ石炭に依存している点の矛盾を指摘したほか、ロシアに対する制裁の強化は、交渉のテーブルに着かせる上で重要である一方、米国内でのエネルギー価格は、国内生産の増強によって抑制しうるとの考えを示した。
なお、共和党議員のヤング氏は海外企業による米国企業の買収審査において、不偏性や中立性が維持されるかどうかを質したほか、複数の議員が、reciprocityの観点から、米国企業による中国への直接投資が過小である点を問題視した。
これに対しベッセント氏は、トランプ氏が日本製鉄による買収案件に反対している点に言及しつつ、不偏性や中立性の原則を確認した。
一方、民主党議員のワイデン氏や共和党議員のヤング氏などは、関税の引上げに伴う米国内のインフレ圧力が低所得層や中小企業に与える影響に懸念を示した。また、民主党議員のウェルチ氏のように、地元(バーモント州)の経済にとって、カナダに対する関税引上げに懸念を示す向きもあった。
これに対し、ベッセント氏は、過去の関税引上げによる推計によれば、10%の引上げに対して国内物価への波及は4%に止まり、残りは、消費者による購買品目の変更(代替効果)と輸出国側での価格引下げ(market pricing)によって吸収されるとの見方を示した。
その上で、中国が米国産の農産物購入のコミットメントを適切に遂行していないことを問題視し、その実施を迫ることが重要との見方を示した。なお、ベッセント氏の家族は農場を経営しており、状況はよく理解しているとして、地域経済の活性化のために地域金融機関の役割が重要と指摘した(ベッセント氏によれば、金融業界で最初の仕事は銀行アナリストとのことであった)。
インフレと金融政策
質疑を通じて減税策や関税政策によるインフレ懸念が示されたほか、民主党議員のハッサン氏はインフレ見通しを質した。ベッセント氏は、トランプ政権の下でインフレ率は2%に収斂していくとの楽観的な見通しを示したほか、インフレ率は金融政策の運営も含めた多様な要因に依存するとの見方を示した。
また、民主党議員のマスト氏がトランプ氏のスタンスに懸念を示したうえで、FRBによる金融政策の独立性は維持されるかを質した。ベッセント氏は、昨年9月の金融政策決定に際して民主党議員がホワイトハウスに圧力をかけたとする報道に言及したが、委員長に発言を制止された。その上で、金融政策の独立性の重要性を確認した。
また、民主党議員のマスト氏がトランプ氏のスタンスに懸念を示したうえで、FRBによる金融政策の独立性は維持されるかを質した。ベッセント氏は、昨年9月の金融政策決定に際して民主党議員がホワイトハウスに圧力をかけたとする報道に言及したが、委員長に発言を制止された。その上で、金融政策の独立性の重要性を確認した。
プロフィール
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井上 哲也のポートレート 井上 哲也
金融デジタルビジネスリサーチ部
シニアチーフリサーチャー
内外金融市場の調査やこれに関わる政策の企画、邦銀国際部門のモニタリングなどを中心とする20年超に亘る中央銀行での執務経験と、国内外の当局や金融機関、研究機関、金融メディアに構築した人脈を活かして、中央銀行の政策対応(”central banking”)に関する議論に貢献。そのための場として「金融市場パネル」を運営し、議論の成果を内外の有識者と幅広く共有するほか、各種のメディアを通じた情報と意見の発信を行っている。2012年には、姉妹パネルとして「バンキングパネル」と「日中金融円卓会合」も立ち上げ、日本の経験を踏まえた商業銀行機能のあり方や中国への教訓といった領域へとカバレッジを広げている。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。