はじめに
トランプ氏が次期商務長官に指名したラトニック氏に対する米連邦議会(上院商務委員会)の公聴会では、冒頭説明で、規模を問わず米国企業が活性化することがアメリカンドリームの実現に繋がると主張した。
これに対し、質疑応答では、関税を含む通商政策のほか、半導体やAIの競争力強化に加えて、ブロードバンドの普及や暗号資産の扱い等の論点が示された。ただし、ラトニック氏も委員会メンバーに事前説明を行った模様であることに加え、共和党と民主党との間で主要な政策について意見の相違が少ないことが印象に残った。
これに対し、質疑応答では、関税を含む通商政策のほか、半導体やAIの競争力強化に加えて、ブロードバンドの普及や暗号資産の扱い等の論点が示された。ただし、ラトニック氏も委員会メンバーに事前説明を行った模様であることに加え、共和党と民主党との間で主要な政策について意見の相違が少ないことが印象に残った。
通商政策について
通商政策のうち関税政策については、ラトニック氏は、民主党のクロブシャー議員の質問に答える形で、前回のような品目別ではなく、相手国別に輸入全体に関税を課す方法が、相手国にフェアなやり方であると説明した。また、民主党のロチェスター議員などの質問に対し、前回の関税引上げでは除外品目が多すぎたと述べた。
その上で民主党のピーターズ議員の質問に対しては、先行して関税を課す中国、メキシコ、カナダについては、各相手国との間で存在する問題に対応するために関税を活用する考えを確認した。
一方で、長期的な関税政策については、トランプ大統領による商務省とUSTRへの諮問結果を3月末から4月に取りまとめたうえで、これに基づいて運営する考えを示唆した。この点に関してラトニック氏は民主党のロチェスター議員とのやり取りの中で、関税政策を活用することでサプライチェーンを米国内に回帰させることが重要と主張した。
これに対し、民主党のピーターズ議員や共和党のカーティス議員が、関税引上げに伴う国内物価や輸入業者への影響を質したのに対し、 ラトニック氏は、これからよく調査するとの慎重な姿勢を見せた。
このほか、出身地域の経済特性を反映して、民主党のシャッツ議員が太平洋での漁獲調整に不満を表明したほか、共和党のサリバン議員もバイデン政権の多数の大統領令がアラスカの漁業を制限したと批判した。
また、共和党のフィッシャー議員やモラン議員は、前回の事例にも参照しつつ、関税引上げに対する相手国の報復関税が、米国の農産物輸出に影響を与えるとの懸念を示した。
これらの懸念に対してラトニック氏は、先に述べたように商務省とUSTRとが共同で関税政策の長期的な運営を検討する中で、この点もきちんと調査すると回答した。
その上で民主党のピーターズ議員の質問に対しては、先行して関税を課す中国、メキシコ、カナダについては、各相手国との間で存在する問題に対応するために関税を活用する考えを確認した。
一方で、長期的な関税政策については、トランプ大統領による商務省とUSTRへの諮問結果を3月末から4月に取りまとめたうえで、これに基づいて運営する考えを示唆した。この点に関してラトニック氏は民主党のロチェスター議員とのやり取りの中で、関税政策を活用することでサプライチェーンを米国内に回帰させることが重要と主張した。
これに対し、民主党のピーターズ議員や共和党のカーティス議員が、関税引上げに伴う国内物価や輸入業者への影響を質したのに対し、 ラトニック氏は、これからよく調査するとの慎重な姿勢を見せた。
このほか、出身地域の経済特性を反映して、民主党のシャッツ議員が太平洋での漁獲調整に不満を表明したほか、共和党のサリバン議員もバイデン政権の多数の大統領令がアラスカの漁業を制限したと批判した。
また、共和党のフィッシャー議員やモラン議員は、前回の事例にも参照しつつ、関税引上げに対する相手国の報復関税が、米国の農産物輸出に影響を与えるとの懸念を示した。
これらの懸念に対してラトニック氏は、先に述べたように商務省とUSTRとが共同で関税政策の長期的な運営を検討する中で、この点もきちんと調査すると回答した。
半導体やAIの競争力
議長のクルーズ共和党議員とRanking Member (副議長格)のキャントウェル民主党議員がともに戦略物資や技術の競争力の重要性を強調したこともあって、多くの議員がこの問題を取り上げた。
まず、民主党のキャントウェル議員やクロブシャー議員、キム議員は、バイデン政権が実施した投資支援策の評価を含めて半導体政策を質した。これに対し、ラトニック氏は民主党の政策は良い初期投資になったとの見方を示した。
一方、共和党のウィッカー議員は支援策の執行が不十分と指摘したほか、ルミス議員も、日本政府が資金面を含む支援を明確にしたことで半導体企業の誘致に成功したのに、米国は環境や労働の規制の多さが投資の支障になっていると批判した。
これに対しラトニック氏は、半導体生産に関するサプライチェーンを米国に回帰させることが必要との考えを示したうえで、指摘された課題は詳細を調査した上で適切な対応を行うと回答した。
一方、DeepSeekの出現もあって、AIの競争力も論点となった。
共和党のスーン議員はバイデン政権がAIの脅威だけを過剰に重視していたと批判したほか、フィッシャー議員は中国が57分野の戦略技術で米国より優位にあるとの懸念を示した。さらに、 ヤング議員は中国政府がR&Dに巨額の資金を投入している点を指摘し、バッド議員も、AIに関する対中競争に勝利するための方策を質した。
これらの議論に対してラトニック氏は、米国がサイバー空間の世界標準を確立したように、AI技術についても世界標準を策定することが米国の競争力につながるとの考えを示した。また、AIに関する規制緩和に同意し、世界標準は「light touch(規制にに傾斜せず、民間の発意に沿う)」なものとすべきと述べ、インターネットの成功がその先例であるとした。
このほかラトニック氏は、米国には多数の優秀な大学があるとして技術開発力に自信を示した一方、DeepSeekは米国の技術や半導体を使用した可能性が高いとの見方を示し、知的所有権の問題には関税引上げだけでは不十分で、輸出規制の活用が必要とした。
これらの問題を含めてラトニック氏は、米国が中国などの海外でdisrespectされていることが問題の本質であると主張し、 reciprocity(相互主義)の原則の下で、米国と相手国が各々の国内で平等な扱いを受ける必要があると主張した。
まず、民主党のキャントウェル議員やクロブシャー議員、キム議員は、バイデン政権が実施した投資支援策の評価を含めて半導体政策を質した。これに対し、ラトニック氏は民主党の政策は良い初期投資になったとの見方を示した。
一方、共和党のウィッカー議員は支援策の執行が不十分と指摘したほか、ルミス議員も、日本政府が資金面を含む支援を明確にしたことで半導体企業の誘致に成功したのに、米国は環境や労働の規制の多さが投資の支障になっていると批判した。
これに対しラトニック氏は、半導体生産に関するサプライチェーンを米国に回帰させることが必要との考えを示したうえで、指摘された課題は詳細を調査した上で適切な対応を行うと回答した。
一方、DeepSeekの出現もあって、AIの競争力も論点となった。
共和党のスーン議員はバイデン政権がAIの脅威だけを過剰に重視していたと批判したほか、フィッシャー議員は中国が57分野の戦略技術で米国より優位にあるとの懸念を示した。さらに、 ヤング議員は中国政府がR&Dに巨額の資金を投入している点を指摘し、バッド議員も、AIに関する対中競争に勝利するための方策を質した。
これらの議論に対してラトニック氏は、米国がサイバー空間の世界標準を確立したように、AI技術についても世界標準を策定することが米国の競争力につながるとの考えを示した。また、AIに関する規制緩和に同意し、世界標準は「light touch(規制にに傾斜せず、民間の発意に沿う)」なものとすべきと述べ、インターネットの成功がその先例であるとした。
このほかラトニック氏は、米国には多数の優秀な大学があるとして技術開発力に自信を示した一方、DeepSeekは米国の技術や半導体を使用した可能性が高いとの見方を示し、知的所有権の問題には関税引上げだけでは不十分で、輸出規制の活用が必要とした。
これらの問題を含めてラトニック氏は、米国が中国などの海外でdisrespectされていることが問題の本質であると主張し、 reciprocity(相互主義)の原則の下で、米国と相手国が各々の国内で平等な扱いを受ける必要があると主張した。
その他(ブロードバンドの普及と暗号資産の扱い)
クルーズ議長をはじめとする多くの共和党議員だけでなく、ローゼン氏のような民主党議員も含めて、ブロードバンドに利用可能な周波数帯域の拡大を主張した。広大な国土を有する米国の場合、日本のように光回線を稠密に整備することが難しいだけに、モバイルによるブロードバンドの普及は重要な課題とみられる。
ラトニック氏は、ブロードバンドの普及が地方経済の活性化などを通じて経済効果を持つことを認め、議員の主張に理解を示しつつも、軍事目的のために一定の周波数帯域を占有している国防総省との調整が必要であることも付言した。
このほか、民主党のキャントウェル議員などが暗号資産の問題を取り上げた点も興味深かった(商務省はCFTC等を通じて、この問題に関係しうる)。ラトニック氏は、100%準備が重要との考えを示してステーブルコインの意義を強調したほか、現在の枠組みでもKYC等の徹底は可能と説明した。
また、民主党のヒッケンルーパー議員が、ロシアが経済制裁の回避のために暗号資産を活用していると批判したのに対しても、米ドルの現金よりも暗号資産の方が資金の流れを捕捉しやすいとの考えを示した。
ラトニック氏は、ブロードバンドの普及が地方経済の活性化などを通じて経済効果を持つことを認め、議員の主張に理解を示しつつも、軍事目的のために一定の周波数帯域を占有している国防総省との調整が必要であることも付言した。
このほか、民主党のキャントウェル議員などが暗号資産の問題を取り上げた点も興味深かった(商務省はCFTC等を通じて、この問題に関係しうる)。ラトニック氏は、100%準備が重要との考えを示してステーブルコインの意義を強調したほか、現在の枠組みでもKYC等の徹底は可能と説明した。
また、民主党のヒッケンルーパー議員が、ロシアが経済制裁の回避のために暗号資産を活用していると批判したのに対しても、米ドルの現金よりも暗号資産の方が資金の流れを捕捉しやすいとの考えを示した。
プロフィール
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井上 哲也のポートレート 井上 哲也
金融デジタルビジネスリサーチ部
シニアチーフリサーチャー
内外金融市場の調査やこれに関わる政策の企画、邦銀国際部門のモニタリングなどを中心とする20年超に亘る中央銀行での執務経験と、国内外の当局や金融機関、研究機関、金融メディアに構築した人脈を活かして、中央銀行の政策対応(”central banking”)に関する議論に貢献。そのための場として「金融市場パネル」を運営し、議論の成果を内外の有識者と幅広く共有するほか、各種のメディアを通じた情報と意見の発信を行っている。2012年には、姉妹パネルとして「バンキングパネル」と「日中金融円卓会合」も立ち上げ、日本の経験を踏まえた商業銀行機能のあり方や中国への教訓といった領域へとカバレッジを広げている。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。