はじめに
今回(2月)のMonetary Policy Report(MPR)に関するパウエル議長の議会証言(上院の銀行・住宅・都市問題委員会)では、金融政策に関してはインフレ抑制が焦点となった。もっとも、質疑の多くは金融監督への対応に関する内容となった。
金融政策の運営
共和党のスコット議員(議長)が、バイデン政権の拡張財政に触れつつ、高インフレが低中所得層に打撃を与えたとの懸念を示したほか、民主党のウォーレン議員(副議長格)も金融引締めへの転換が遅れた点を批判した。もっとも、共和党のケネディ議員は、金融引締めによってインフレを抑制しつつ、景気への打撃を抑えたことを評価する意見もあった。
パウエル議長は、FRBがデュアルマンデートの達成に専念することにコミットする姿勢を示した。また、民主党のウォーノック議員が今回のMPRで人種間の雇用や所得の格差が縮小した点を取り上げたのに対し、インフレは中低所得層に打撃を与える点を確認した。
また、民主党のリード議員やホーレン議員は、トランプ政権による関税引上げに伴うインフレ圧力に懸念を示した。パウエル議長は、自由貿易体制は「ある一国」の対応によって機能していないと指摘した上で、関税政策はFRBの管轄外であるほか、現時点で内容や範囲が不明確でないため、影響を推測できないと説明した。
この間、共和党のクレーマー議員や民主党のコルテス・マスト議員、スミス議員、ギャレゴ議員は、住宅価格の高止まりによってaffordabilityが低下しているとして、FRBの対応を質した。
パウエル議長は、住宅価格が、地方政府による用途規制、賃金や資材価格の高騰、住宅保険料の上昇等によって上昇していると説明した。その上で、長期金利は、政策金利だけでなく、インフレ期待やterm premium等によって変動するため、FRBが直接的に制御することはできないの考えを示した。
さらに、民主党のリード議員の質問に答える形で、政府支援機関(GSE)の役割を確認した一方、今後の改革は議会の責務としてコメントを避けた。また、銀行が自然災害の危険地域での与信を抑制している点を認め、地域経済にマイナスの影響を与えうるとの見方を示した。
なお、共和党のハガティ議員が中立金利の動向を質したのに対し、パウエル議長は、自分を含む多くのFOMCメンバーが、雇用の強さなどを踏まえ、コロナ当時のような低水準ではないと理解していると説明した。一方、共和党のリケッツ議員がQTの目途を質したのに対し、パウエル議長は準備預金を"ample reserve"に必要な水準よりやや多めにする方針を確認しつつ、具体的な金額は準備需要次第として言及を避けた。
パウエル議長は、FRBがデュアルマンデートの達成に専念することにコミットする姿勢を示した。また、民主党のウォーノック議員が今回のMPRで人種間の雇用や所得の格差が縮小した点を取り上げたのに対し、インフレは中低所得層に打撃を与える点を確認した。
また、民主党のリード議員やホーレン議員は、トランプ政権による関税引上げに伴うインフレ圧力に懸念を示した。パウエル議長は、自由貿易体制は「ある一国」の対応によって機能していないと指摘した上で、関税政策はFRBの管轄外であるほか、現時点で内容や範囲が不明確でないため、影響を推測できないと説明した。
この間、共和党のクレーマー議員や民主党のコルテス・マスト議員、スミス議員、ギャレゴ議員は、住宅価格の高止まりによってaffordabilityが低下しているとして、FRBの対応を質した。
パウエル議長は、住宅価格が、地方政府による用途規制、賃金や資材価格の高騰、住宅保険料の上昇等によって上昇していると説明した。その上で、長期金利は、政策金利だけでなく、インフレ期待やterm premium等によって変動するため、FRBが直接的に制御することはできないの考えを示した。
さらに、民主党のリード議員の質問に答える形で、政府支援機関(GSE)の役割を確認した一方、今後の改革は議会の責務としてコメントを避けた。また、銀行が自然災害の危険地域での与信を抑制している点を認め、地域経済にマイナスの影響を与えうるとの見方を示した。
なお、共和党のハガティ議員が中立金利の動向を質したのに対し、パウエル議長は、自分を含む多くのFOMCメンバーが、雇用の強さなどを踏まえ、コロナ当時のような低水準ではないと理解していると説明した。一方、共和党のリケッツ議員がQTの目途を質したのに対し、パウエル議長は準備預金を"ample reserve"に必要な水準よりやや多めにする方針を確認しつつ、具体的な金額は準備需要次第として言及を避けた。
金融監督の運営
共和党のスコット議員(議長)やブリット議員は、シリコンバレーバンク(SVB)の破綻に際してFRBによる監督対応が遅延したとの考えを示したほか、関係者が処分されていない点を批判した。
パウエル議長は、SVBの破綻が金利リスクや流動性リスクの不適切な管理という初歩的な問題であったとの理解を示したうえで、その後は銀行に関する監督マニュアルの改訂を含めて様々な措置を講じたと説明した。その上で、共和党のルミス議員の質問に答えて、今後もSVB問題に関する情報を議会と共有するとした。
この間、両党の議員が取り上げたのは消費者金融保護局(CFPB)の問題である。いわゆるDott-Frank法により、それまで各機関に分散されていた金融消費者保護を専担するために設立された同機関は、トランプ政権によって任命された暫定局長によって、事実上業務停止の状態になっている。
民主党のワーナー議員(副議長格)は、既に預金詐欺やクレジットカード手数料の引上げ等の問題が生じているとの懸念を示したほか、ウォーノック議員もCFPBが収奪的取引の防止等で役割を果たしたと評価した。
また、コルテス・マスト議員は、資産100億ドル以上の銀行だけがCFPBの監督対象である点を挙げて、CFPBの機能停止がこうした金融機関への監督低下に繋がると主張した。これに対し、 パウエル議長は、資産100億ドル未満の銀行(州法銀行)にはFRBが監督権限を有し、責務を果たすと説明したが、銀行規模によって監督にギャップが生じる可能性を認めた。
これに対し、共和党のリケッツ議員は、CFPBがなくても各州の当局が金融消費者保護を適切に運営しうるとの考えを示したほか、ハガティ議員は、CFPBが組織上はFRB内に置かれているにも関わらず、予算の執行についてFRBの監督が及ばない点を問題視した。
金融監督に関しては、銀行に対するいわゆるBasel IIIの適用や暗号資産への対応、気候変動への対応も取り上げられた。
このうちBasel IIIは、共和党のスコット議員(議長)が、金融サービスのコスト上昇やアクセスの低下を招くとして批判したほか、 ラウンズ議員も米銀の国際競争力に対する影響に懸念を示した。 パウエル議長は、最終案(end game)の実施にコミットする方針を確認し、実現に楽観的であるとの見方を示した。もっとも、新体制での通貨監督庁(OCC)や連邦預金保険公社(FDIC)との協議が必要であることも認めた。
暗号資産については、同じくスコット議員が銀行に対する参入規制が厳しい点を批判した一方、民主党のワーナー議員はステーブルコインへの規制を質した。パウエル議長は、FRBが金融技術革新について議会と協力しつつ促進すると説明したほか、ステーブルコインは大きな可能性があるため適切な枠組みが必要とした。
最後に気候変動については、共和党のスコット議員(議長)は、FRBが気候変動対応に関わることは、政治的な独立性を損なうことにつながるとして批判した。
パウエル議長は、SVBの破綻が金利リスクや流動性リスクの不適切な管理という初歩的な問題であったとの理解を示したうえで、その後は銀行に関する監督マニュアルの改訂を含めて様々な措置を講じたと説明した。その上で、共和党のルミス議員の質問に答えて、今後もSVB問題に関する情報を議会と共有するとした。
この間、両党の議員が取り上げたのは消費者金融保護局(CFPB)の問題である。いわゆるDott-Frank法により、それまで各機関に分散されていた金融消費者保護を専担するために設立された同機関は、トランプ政権によって任命された暫定局長によって、事実上業務停止の状態になっている。
民主党のワーナー議員(副議長格)は、既に預金詐欺やクレジットカード手数料の引上げ等の問題が生じているとの懸念を示したほか、ウォーノック議員もCFPBが収奪的取引の防止等で役割を果たしたと評価した。
また、コルテス・マスト議員は、資産100億ドル以上の銀行だけがCFPBの監督対象である点を挙げて、CFPBの機能停止がこうした金融機関への監督低下に繋がると主張した。これに対し、 パウエル議長は、資産100億ドル未満の銀行(州法銀行)にはFRBが監督権限を有し、責務を果たすと説明したが、銀行規模によって監督にギャップが生じる可能性を認めた。
これに対し、共和党のリケッツ議員は、CFPBがなくても各州の当局が金融消費者保護を適切に運営しうるとの考えを示したほか、ハガティ議員は、CFPBが組織上はFRB内に置かれているにも関わらず、予算の執行についてFRBの監督が及ばない点を問題視した。
金融監督に関しては、銀行に対するいわゆるBasel IIIの適用や暗号資産への対応、気候変動への対応も取り上げられた。
このうちBasel IIIは、共和党のスコット議員(議長)が、金融サービスのコスト上昇やアクセスの低下を招くとして批判したほか、 ラウンズ議員も米銀の国際競争力に対する影響に懸念を示した。 パウエル議長は、最終案(end game)の実施にコミットする方針を確認し、実現に楽観的であるとの見方を示した。もっとも、新体制での通貨監督庁(OCC)や連邦預金保険公社(FDIC)との協議が必要であることも認めた。
暗号資産については、同じくスコット議員が銀行に対する参入規制が厳しい点を批判した一方、民主党のワーナー議員はステーブルコインへの規制を質した。パウエル議長は、FRBが金融技術革新について議会と協力しつつ促進すると説明したほか、ステーブルコインは大きな可能性があるため適切な枠組みが必要とした。
最後に気候変動については、共和党のスコット議員(議長)は、FRBが気候変動対応に関わることは、政治的な独立性を損なうことにつながるとして批判した。
DOGEの影響
このほか、民主党のワーナー議員はDOGEの影響を取上げ、マスク氏が財務省に企業や個人のデータの開示を求めたことを念頭に、FRBが保有している取引情報にも開示圧力が高まる可能性を指摘した。また、アルソブルックス議員は、地元の預金者の間で個人情報へのアクセスに不安の声があると指摘した。
パウエル議長は、FRBは政府当座預金の受払において財務代理人として機能しており、歳入や歳出に関する詳細な内容を把握している訳ではないと説明した。
パウエル議長は、FRBは政府当座預金の受払において財務代理人として機能しており、歳入や歳出に関する詳細な内容を把握している訳ではないと説明した。
プロフィール
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井上 哲也のポートレート 井上 哲也
金融デジタルビジネスリサーチ部
シニアチーフリサーチャー
内外金融市場の調査やこれに関わる政策の企画、邦銀国際部門のモニタリングなどを中心とする20年超に亘る中央銀行での執務経験と、国内外の当局や金融機関、研究機関、金融メディアに構築した人脈を活かして、中央銀行の政策対応(”central banking”)に関する議論に貢献。そのための場として「金融市場パネル」を運営し、議論の成果を内外の有識者と幅広く共有するほか、各種のメディアを通じた情報と意見の発信を行っている。2012年には、姉妹パネルとして「バンキングパネル」と「日中金融円卓会合」も立ち上げ、日本の経験を踏まえた商業銀行機能のあり方や中国への教訓といった領域へとカバレッジを広げている。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。