&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

はじめに

金融政策の現状維持を決定した1月のFOMCでは、今後の高い不確実性が意識され、今後の政策金利の変更には慎重に対処すべきとの考え方が共有された。

物価情勢の評価

FOMCメンバーはインフレ率が過去2年に顕著に減速した点を確認した。また、多くの(a number of)のメンバーは2024年平均のインフレ率が年前半の高インフレに影響された点を指摘したほか、ほとんど(most)のメンバーは足元でインフレ目標への収斂が進展したと評価した。

もっとも、ほとんど(most)のメンバーは、インフレ率が持続的に目標に収斂するとの見方を支持するには更なる証拠が必要と指摘した。その上で、住居費とコアサービス価格の上昇率がともに鈍化した一方、金融や保険のように非市場性のサービス価格の上昇が高止まっているほか、コア財価格の上昇率の鈍化が停滞していることを指摘した。

今後についてFOMCメンバーは、インフレ率は2%目標に収斂するがその進捗は不透明とした。インフレ率を抑制する要因としては、賃金上昇の鈍化、長期インフレ期待の安定、企業の価格設定力の低下、引締め的な金融スタンスを挙げた。一方で、インフレ率を押し上げる要因として、通商政策や移民政策の変更、消費の強さを挙げたほか、多くの地区連銀総裁は地元企業が関税引上げのコストを価格に転嫁しようとしていると報告した。

経済情勢の評価

FOMCメンバーは、労働市場が依然として力強く、FRBの最大雇用の目標に概ね整合的であると評価した。具体的には、2024年第4四半期のNFP増加数平均が17万人に達したほか、失業率が低位に維持されている点を指摘したほか、未充足求人や離職率、転職数が労働市場の安定と整合的とした。

今後についても、適切な金融政策の下で労働市場の強さが維持されるとの見方を示しつつ、関連指標の動向を注視すべきとした。

経済活動についてFOMCメンバーは、消費を中心に想定以上に力強い状況にあると評価した。

このうち消費は、労働市場の強さや高水準の純資産、実質賃金の増加に支えられていると評価した一方、数名(several)のメンバーは中・低所得者における金融面でのストレスが消費を抑制していると指摘したほか、数名(a few)のメンバーは消費者信用や自動車ローンの延滞増加に言及した。

企業活動については、2024年中に設備や無形資産への投資が増加したが、第4四半期に減速したと指摘した。その上で、数名(some)のメンバーは、供給面の改善(労働供給、設備投資、生産性)が企業活動の拡大を支えていると評価した。また、多く(many)のメンバーが、地元企業からの情報やサーベイの結果をもとに、企業のマインドが新政権による規制緩和や減税への期待もあって好転していると報告した。

先行きのリスク

大多数(vast majority)のメンバーはデュアルマンデートの達成に向けたリスクは上下に概ねバランスしていると評価した。もっとも、2名(a couple)のメンバーは、現時点では、インフレ目標の達成に関するリスクの方が、最大雇用の達成に対するリスクより大きいとの見方を示した。

その上で、幅広い(generally)メンバーは、インフレ見通しの上方リスクに言及し、通商政策や移民政策の変化、地政学的リスクによるサプライチェーンの分断、個人消費の想定以上の拡大を挙げた。その上で、2名(a couple of)のメンバーは、新政権の経済政策のために、当面の間は持続的な影響と一時的な影響の識別が困難になるとの見方を示した。

一方で経済見通しに関しては、労働市場の想定外の軟化、家計の金融ポジションの悪化や金融環境のタイト化といった下方要因と、企業に対する良好な規制環境や国内での力強い支出行動といった上方要因の双方を指摘した。

金融政策の運営

FOMCメンバーは、インフレ率が依然としてやや高い一方、経済活動が力強く拡大し、労働市場も安定していると評価し、これまでの利下げによって金融引締めの度合いは顕著に緩和されたとして、政策金利の現状維持を全会一致で決定した。

その上で、FRBが、経済活動や労働市場、インフレを評価するのに時間をかける(take time)上で良好な位置にある(well positioned)との見方を示し、政策金利の更なる変更にはインフレ率の目標への収斂における更なる進捗が必要とした。

リスクマネジメントの観点では、大多数(vast majority)のメンバーが、現在の高い不確実性(high degree of uncertainties)の下では、政策金利の調節に慎重なアプローチが重要であるとの理解を示した。

その上で、そうしたアプローチが重要である理由として、労働市場や経済活動に関する下方リスクの減退、インフレ見通しの上方リスクの増加、自然利子率に関する不透明性、長期金利の上昇による引締め効果、新たな経済政策による影響を挙げた。

なお、今回のFOMCでは、執行部が量的引締め停止後のバランスシートの運営について、シナリオを示しつつ説明を行った。具体的には、FRBが保有するMBSやAgency債の償還相当額を国債の市場買入れで補うことで、バランスシートの規模を維持するというものである。

すべてのシナリオの下で、最終的にはFRBによる保有国債の満期構成が市場全体の満期構成と近接する(いわゆる「市場中利的」にする)よう設計されているが、そのためのペースに違いが設けられた。ただし、これらの具体的な内容は、今回のMinutesには記載されていない。

これを受けて、多く(a number of)のメンバーがバランスシートの運営についてコメントし、多く(many)のメンバーが、市場の不安定化のリスクを最小化しつつ、FRBの保有国債の満期構成を市場中立的なものとすべきとの考えを示した。また、連邦債務上限との関係で政府当座預金が今後に大きな振れを生ずる可能性に関して、様々な(various)メンバーは、こうした状況が継続する間はQTを減速ないし停止する可能性を示唆した。

プロフィール

  • 井上 哲也のポートレート

    井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニアチーフリサーチャー

    

    内外金融市場の調査やこれに関わる政策の企画、邦銀国際部門のモニタリングなどを中心とする20年超に亘る中央銀行での執務経験と、国内外の当局や金融機関、研究機関、金融メディアに構築した人脈を活かして、中央銀行の政策対応(”central banking”)に関する議論に貢献。そのための場として「金融市場パネル」を運営し、議論の成果を内外の有識者と幅広く共有するほか、各種のメディアを通じた情報と意見の発信を行っている。2012年には、姉妹パネルとして「バンキングパネル」と「日中金融円卓会合」も立ち上げ、日本の経験を踏まえた商業銀行機能のあり方や中国への教訓といった領域へとカバレッジを広げている。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。