はじめに
25bpの連続利下げを全会一致で決定したECBの1月理事会では、経済見通しに対する下方リスクが維持された一方、インフレ見通しの上方リスクへの意識が再び台頭した。
経済情勢の評価
理事会メンバーは、前回(12月)会合以降のhard dataが乏しい点を確認した上で、経済活動が12月見通しに概ね沿った形で推移しているとの認識を示した。
もっとも、今後を展望した場合、この見通しは楽観的過ぎるとの見方も示し、①地理的には域内の2大国(独仏)とそれ以外、②業種的には製造業とサービス業の間で、それぞれ状態が二分化しているとの理解を示した。
さらに、SPFやAMAが2025~26年の見通しを下方修正したことや、12月見通しは米国の関税政策の影響を直接的に織り込んでいないこと、経済成長の牽引力である外需が低迷していること、一時的雇用には影響も出始めていることなどを確認した。
業種面の二分化のうち、製造業の弱さはエネルギーコストの高さや規制の強さによる競争力の低下といった構造的な要因が強いとの理解を共有した。また、製造業ではlay-offが開始された一方、サービス業の雇用は増加を続けている点も確認した。
その上で、地政学ないし通商政策の不透明性は当面続くとの理解を示し、アイルランドを除くユーロ圏では設備投資が減速し、回復の兆しが見られないと指摘した。
これらの点を踏まえて、理事会メンバーは、経済見通しのリスクが引続き下方に傾いていると評価した。その要因としては、通商摩擦の深刻化による外需の減少、家計や企業のマインドの悪化、地政学リスクの高まりによるエネルギー供給や世界貿易への影響、既往の金融引締め効果の強まりなどを挙げた。
もっとも、今後を展望した場合、この見通しは楽観的過ぎるとの見方も示し、①地理的には域内の2大国(独仏)とそれ以外、②業種的には製造業とサービス業の間で、それぞれ状態が二分化しているとの理解を示した。
さらに、SPFやAMAが2025~26年の見通しを下方修正したことや、12月見通しは米国の関税政策の影響を直接的に織り込んでいないこと、経済成長の牽引力である外需が低迷していること、一時的雇用には影響も出始めていることなどを確認した。
業種面の二分化のうち、製造業の弱さはエネルギーコストの高さや規制の強さによる競争力の低下といった構造的な要因が強いとの理解を共有した。また、製造業ではlay-offが開始された一方、サービス業の雇用は増加を続けている点も確認した。
その上で、地政学ないし通商政策の不透明性は当面続くとの理解を示し、アイルランドを除くユーロ圏では設備投資が減速し、回復の兆しが見られないと指摘した。
これらの点を踏まえて、理事会メンバーは、経済見通しのリスクが引続き下方に傾いていると評価した。その要因としては、通商摩擦の深刻化による外需の減少、家計や企業のマインドの悪化、地政学リスクの高まりによるエネルギー供給や世界貿易への影響、既往の金融引締め効果の強まりなどを挙げた。
物価情勢の評価
理事会メンバーは、足元の指標がディスインフレの継続と2025年中のインフレ目標達成の確信を強めるものであった点に合意した。
その上で、今後の経済見通しの下方修正がインフレ目標のundershootを招く可能性を指摘した一方、インフレ目標の達成に想定以上に時間を要する可能性も指摘された。
後者に関しては、総合インフレ率に75%のウエイトを有するサービス価格の上昇率が1年以上に亘って4%程度で推移し、コアインフレ率も2.7%程度に止まっている点を挙げた。さらに、1月のPMIで非労働コストの評価が顕著に上昇したことや、製造業のようなLabor-hoardingが生じなかったサービス業では、総需要の回復や生産性の上昇がULCの上昇を抑制しえない可能性も指摘した。
また、本年中の賃金上昇率の減速を予想しつつ、ECBのサーベイでは第2四半期に前年比4.5%に達することを確認し、サービス価格の抑制に繋がるには時間を要するとの見方を示した。さらに、域内での移民政策の厳格化による賃金への影響も取り上げた。
今後については、12月見通しに沿った動きを予想しつつも、主要なサービス価格の年次改訂に不透明性が高いことや、サーベイベースの短期のインフレ期待が上昇し、家計(CES)と企業(AFE)の双方で、確率分布の上では3%近傍に上昇したことを確認した。
これらの点を踏まえて、理事会メンバーは、インフレ見通しの上下双方のリスクを議論した。このうち上方要因としては、賃金や企業収益の想定以上の増加、地政学リスクの深刻化、自然災害等を挙げた。一方、下方要因としては、家計や企業のマインドの悪化、既往の金融引締め効果の強まり、海外経済の想定外の減速や通商摩擦の深刻化による経済の減速を挙げた。
その上で、今後の経済見通しの下方修正がインフレ目標のundershootを招く可能性を指摘した一方、インフレ目標の達成に想定以上に時間を要する可能性も指摘された。
後者に関しては、総合インフレ率に75%のウエイトを有するサービス価格の上昇率が1年以上に亘って4%程度で推移し、コアインフレ率も2.7%程度に止まっている点を挙げた。さらに、1月のPMIで非労働コストの評価が顕著に上昇したことや、製造業のようなLabor-hoardingが生じなかったサービス業では、総需要の回復や生産性の上昇がULCの上昇を抑制しえない可能性も指摘した。
また、本年中の賃金上昇率の減速を予想しつつ、ECBのサーベイでは第2四半期に前年比4.5%に達することを確認し、サービス価格の抑制に繋がるには時間を要するとの見方を示した。さらに、域内での移民政策の厳格化による賃金への影響も取り上げた。
今後については、12月見通しに沿った動きを予想しつつも、主要なサービス価格の年次改訂に不透明性が高いことや、サーベイベースの短期のインフレ期待が上昇し、家計(CES)と企業(AFE)の双方で、確率分布の上では3%近傍に上昇したことを確認した。
これらの点を踏まえて、理事会メンバーは、インフレ見通しの上下双方のリスクを議論した。このうち上方要因としては、賃金や企業収益の想定以上の増加、地政学リスクの深刻化、自然災害等を挙げた。一方、下方要因としては、家計や企業のマインドの悪化、既往の金融引締め効果の強まり、海外経済の想定外の減速や通商摩擦の深刻化による経済の減速を挙げた。
金融政策の運営
理事会メンバーは、政策反応関数の3つの要素を順次検討した。
インフレ見通しに関しては、足元の指標が12月見通しに即したものである点に幅広く(widely)合意した。もっとも、インフレ見通しのリスクは上下にある(two-sided)と評価し、上方リスクとして、エネルギーや食品の価格、ユーロの対ドル相場、サービス価格の粘着性を挙げた一方、下方リスクとして景気減速を挙げた。
その上で、米国の関税政策の影響は極めて不透明であると評価しつつも、ユーロ圏のインフレへの影響は小さくかつ方向も不明確である一方、経済活動には明確にネガティブとの見方を示した。一方で、中国の輸出価格の下落がユーロ圏のインフレを下押しする可能性も指摘した。
インフレ基調に関しては、殆どの指標がインフレ率の目標へのタイムリーな収斂と整合的である点を確認した。また、サービス価格についても、主因である賃金は2025年中を通じて減速するとの見方を維持した。
政策効果の波及については、既往の金融引締めと足元での金融緩和の双方が、貸出金利や与信量の面で金融環境に伝播していると評価した。ただし、企業が自己資金を有しているため借り入れ需要が弱いことや、不確実性の高さのために投資を控えていることも指摘した。
これらの議論を踏まえて、理事会メンバーは、執行部による25bp利下げの提案を全会一致で支持し、経済見通しは引続き弱いが、インフレ目標のタイムリーで持続的な達成への確信は高まったとの見方を示した。
その上で、ディスインフレが進捗する限りは、経済への不必要な影響を防ぐために、政策金利は中立水準までさらに引下げうるとしつつも、経済見通しのリスクは政策金利の加速的な引下げを必要とする程度に悪化している訳ではないとの見方も示した。
さらに理事会メンバーは、利下げの最低到達点(landing zone)を議論するのは時期尚早と指摘し、今回の利下げ後の預金ファシリティー金利は依然として引締め的と評価した。
この点に関しては中立金利が焦点となり、コロナ後に世界の貯蓄投資バランスが変化したため、以前よりも高いとの見方を示したうえで、投資側の要因として、気候変動やデジタル化への対応、政府債務の増加、貯蓄側の要因として東西対立の深刻化による貯蓄の抑制等を要因として挙げた。
もっとも理事会メンバーは、金融市場で中立金利を巡る議論が白熱している点を確認しつつ、中立金利は政策スタンスの長期的な指標であり、観察不可能で推計にも不確実性が高い点を指摘して、利下げの最低到達点を探る上では不適切との見方も示した。
インフレ見通しに関しては、足元の指標が12月見通しに即したものである点に幅広く(widely)合意した。もっとも、インフレ見通しのリスクは上下にある(two-sided)と評価し、上方リスクとして、エネルギーや食品の価格、ユーロの対ドル相場、サービス価格の粘着性を挙げた一方、下方リスクとして景気減速を挙げた。
その上で、米国の関税政策の影響は極めて不透明であると評価しつつも、ユーロ圏のインフレへの影響は小さくかつ方向も不明確である一方、経済活動には明確にネガティブとの見方を示した。一方で、中国の輸出価格の下落がユーロ圏のインフレを下押しする可能性も指摘した。
インフレ基調に関しては、殆どの指標がインフレ率の目標へのタイムリーな収斂と整合的である点を確認した。また、サービス価格についても、主因である賃金は2025年中を通じて減速するとの見方を維持した。
政策効果の波及については、既往の金融引締めと足元での金融緩和の双方が、貸出金利や与信量の面で金融環境に伝播していると評価した。ただし、企業が自己資金を有しているため借り入れ需要が弱いことや、不確実性の高さのために投資を控えていることも指摘した。
これらの議論を踏まえて、理事会メンバーは、執行部による25bp利下げの提案を全会一致で支持し、経済見通しは引続き弱いが、インフレ目標のタイムリーで持続的な達成への確信は高まったとの見方を示した。
その上で、ディスインフレが進捗する限りは、経済への不必要な影響を防ぐために、政策金利は中立水準までさらに引下げうるとしつつも、経済見通しのリスクは政策金利の加速的な引下げを必要とする程度に悪化している訳ではないとの見方も示した。
さらに理事会メンバーは、利下げの最低到達点(landing zone)を議論するのは時期尚早と指摘し、今回の利下げ後の預金ファシリティー金利は依然として引締め的と評価した。
この点に関しては中立金利が焦点となり、コロナ後に世界の貯蓄投資バランスが変化したため、以前よりも高いとの見方を示したうえで、投資側の要因として、気候変動やデジタル化への対応、政府債務の増加、貯蓄側の要因として東西対立の深刻化による貯蓄の抑制等を要因として挙げた。
もっとも理事会メンバーは、金融市場で中立金利を巡る議論が白熱している点を確認しつつ、中立金利は政策スタンスの長期的な指標であり、観察不可能で推計にも不確実性が高い点を指摘して、利下げの最低到達点を探る上では不適切との見方も示した。
プロフィール
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井上 哲也のポートレート 井上 哲也
金融デジタルビジネスリサーチ部
シニアチーフリサーチャー
内外金融市場の調査やこれに関わる政策の企画、邦銀国際部門のモニタリングなどを中心とする20年超に亘る中央銀行での執務経験と、国内外の当局や金融機関、研究機関、金融メディアに構築した人脈を活かして、中央銀行の政策対応(”central banking”)に関する議論に貢献。そのための場として「金融市場パネル」を運営し、議論の成果を内外の有識者と幅広く共有するほか、各種のメディアを通じた情報と意見の発信を行っている。2012年には、姉妹パネルとして「バンキングパネル」と「日中金融円卓会合」も立ち上げ、日本の経験を踏まえた商業銀行機能のあり方や中国への教訓といった領域へとカバレッジを広げている。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。