はじめに
FRBは今回(3月)のFOMCで政策金利の現状維持を決定した。新たな見通し(SEP)では実質GDP成長率を下方修正、物価見通しを上方修正したが、パウエル議長は政策スタンスの調整を急がず、関税引上げ等の影響を見極める姿勢を示した。
経済情勢の評価
パウエル議長は、景気は総じて堅調だが、消費支出に軟化の兆しがある点を認めた。また、家計や企業が先行きの不透明性への懸念を高めているが、今後の消費や投資への影響はまだ不明確(remain to be seen)との見方を示した。労働市場は堅調さを維持し、賃金上昇率がインフレ率を持続的に上回るなど、総じてバランスしていると評価した。
もっとも、今回(3月)のSEPでは、2025~27年の実質GDP成長率見通しを+1.7%→+1.8%→+1.8%と、前回(12月)から各々0.4pp、0.2pp、0.1pp下方修正した。これは、SEPにおける「長期」の成長率近傍で推移することを意味する。FOMCメンバーによる見通しの不確実性と下方リスクに関する評価も、前回(12月)に比べて急増し、声明文も見通しの不確実性が高まった点に言及した。
質疑応答では、複数の記者が家計や企業によるマインドの急激な悪化を取り上げた。パウエル議長は、hard dataは総じて堅調であるほか、マクロ的には雇用が緩やかに増加し、雇用の削減には至っていないとの見方を示した。
その上で、家計のマインドの悪化については、予てからの生活費の上昇に対する不満が、関税引上げによるインフレ懸念によって強まったためとの解釈を示した。さらに、SEPにおける見通しの下方修正も大きなものでないとしたほか、景気後退の確率は前回(12月)に比べれば上昇したが、依然として小さいとの考えを示した。
もっとも、今回(3月)のSEPでは、2025~27年の実質GDP成長率見通しを+1.7%→+1.8%→+1.8%と、前回(12月)から各々0.4pp、0.2pp、0.1pp下方修正した。これは、SEPにおける「長期」の成長率近傍で推移することを意味する。FOMCメンバーによる見通しの不確実性と下方リスクに関する評価も、前回(12月)に比べて急増し、声明文も見通しの不確実性が高まった点に言及した。
質疑応答では、複数の記者が家計や企業によるマインドの急激な悪化を取り上げた。パウエル議長は、hard dataは総じて堅調であるほか、マクロ的には雇用が緩やかに増加し、雇用の削減には至っていないとの見方を示した。
その上で、家計のマインドの悪化については、予てからの生活費の上昇に対する不満が、関税引上げによるインフレ懸念によって強まったためとの解釈を示した。さらに、SEPにおける見通しの下方修正も大きなものでないとしたほか、景気後退の確率は前回(12月)に比べれば上昇したが、依然として小さいとの考えを示した。
物価情勢の評価
パウエル議長は、インフレ率が過去2年で顕著に減速したが、足元では2%目標に対してなお高いとの評価を維持した。この間、短期のインフレ期待が上昇し、家計や企業、金融市場が関税引上げをその要因と指摘している点に言及した一方、長期のインフレ期待は安定を維持しているとした。
今回(3月)のSEPでは、2025~27年のコアPCEインフレ率見通しが+2.8%→+2.2%→+2.0%と、前回(12月)から2025年のみが0.3pp上方修正された。一方、FOMCメンバーによる見通しの不確実性と上方リスクに関する評価は、前回(12月)に急増したあと、今回も高水準に維持された。
質疑応答では、複数の記者が、上記のインフレ見通しを踏まえて、関税引上げによるインフレ圧力が一時的と言ってよいかどうかを質した。パウエル議長は、不確実性が高いことを認めつつも、前回の関税引上げの経験や景気の若干の減速の影響を踏まえると、これが中心的なシナリオであるとの見方を示した。
一方で、足元での財価格の上昇に「買い急ぎ」や「便乗値上げ」等の影響が含まれる可能性も示唆したほか、インフレ目標の達成時期が関税引上げの影響によって遅延する可能性を認めた。
また、別の複数の記者はインフレ期待の安定との見方に疑問を示した。パウエル議長は、ミシガン大のサーベイ以外の多くの指標は長期のインフレ期待が概ね安定していることを示唆していると説明した。
今回(3月)のSEPでは、2025~27年のコアPCEインフレ率見通しが+2.8%→+2.2%→+2.0%と、前回(12月)から2025年のみが0.3pp上方修正された。一方、FOMCメンバーによる見通しの不確実性と上方リスクに関する評価は、前回(12月)に急増したあと、今回も高水準に維持された。
質疑応答では、複数の記者が、上記のインフレ見通しを踏まえて、関税引上げによるインフレ圧力が一時的と言ってよいかどうかを質した。パウエル議長は、不確実性が高いことを認めつつも、前回の関税引上げの経験や景気の若干の減速の影響を踏まえると、これが中心的なシナリオであるとの見方を示した。
一方で、足元での財価格の上昇に「買い急ぎ」や「便乗値上げ」等の影響が含まれる可能性も示唆したほか、インフレ目標の達成時期が関税引上げの影響によって遅延する可能性を認めた。
また、別の複数の記者はインフレ期待の安定との見方に疑問を示した。パウエル議長は、ミシガン大のサーベイ以外の多くの指標は長期のインフレ期待が概ね安定していることを示唆していると説明した。
金融政策の運営
パウエル議長は、トランプ政権の経済政策(通商、移民、財政、規制緩和)による総合的な効果(net effect)が、今後の経済や金融政策に影響するとの見方を示した。また、特に通商政策は内容と経済見通しへの影響に関する不透明性が高く、今後の情報を解析する上では、ノイズからシグナルを分離することに焦点を置く姿勢を示した。
その上で、FRBは政策スタンスの調整を急ぐ必要がなく、事態がより明確になる(grater clarity)まで待つ上で良い位置(well positioned)にあるとの考えを示した。
今回(3月)の政策金利見通し(median)は、 2025~27年の各年末について3.9%→+3.4%→+3.1%と前回(12月)から不変となった。これは、2027年末にSEPにおける「長期」の政策金利に達することを意味する。なお、dot chartの分布は、2025年と2026年の各年末について、若干ながらレンジが上がっている。
質疑応答では、複数の記者が、関税引上げによるインフレ圧力が一時的であれば、金融政策は様子見(look through)となるのかどうかを質した。
パウエル議長は、一時的なインフレ上昇に利上げで対応すれば、政策効果の時間的ラグもあって経済や雇用に不必要な負荷をもたらすとの考えを示した。その上で、判断が難しい点を認めつつも、来年以降のインフレや長期インフレ期待が安定していれば、金融政策は様子見になりうると説明した。
別の複数の記者は、企業や家計のマインドが急速に悪化している点や、関税引上げの不透明性は継続しうる点を挙げて、事態が明確になるまで待つことの妥当性を質した。
パウエル議長は、経済見通しに関する不確実性の高さを確認した上で、政策金利を据え置くことも引下げることもできる状態にあるという点で柔軟性を有しており、政策スタンスの変更を急ぐ必要はないとの考えを確認した。
なお、今回(3月)のFOMCは、「量的引締め(QT)」を減速することも決定した。具体的には、毎月の保有債券のネット償還額の上限(保有残高の最大減少額)を、米国債について250億ドルから50億ドルに引下げる一方、MBSとAgency債については350億ドルに据え置いた。
パウエル議長は、QTを通じて既に2兆ドルの保有債券を削減した点を確認するとともに、現時点の指標は超過準備が潤沢であることを示しているが、マネーマーケットでタイトさを示唆する兆しがみられる点を指摘した。また、こうした変更は金融政策のスタンスやFRBの中期的な資産規模には影響しないと説明した。
質疑応答では一部の記者が連邦債務上限の運営との関係を質した。パウエル議長は政府当座預金の動向だけでなく多様な要因を考慮して判断したと説明したほか、超過準備の適正水準に接近する中でQTのペースを減速するのは合理的と指摘した。
その上で、FRBは政策スタンスの調整を急ぐ必要がなく、事態がより明確になる(grater clarity)まで待つ上で良い位置(well positioned)にあるとの考えを示した。
今回(3月)の政策金利見通し(median)は、 2025~27年の各年末について3.9%→+3.4%→+3.1%と前回(12月)から不変となった。これは、2027年末にSEPにおける「長期」の政策金利に達することを意味する。なお、dot chartの分布は、2025年と2026年の各年末について、若干ながらレンジが上がっている。
質疑応答では、複数の記者が、関税引上げによるインフレ圧力が一時的であれば、金融政策は様子見(look through)となるのかどうかを質した。
パウエル議長は、一時的なインフレ上昇に利上げで対応すれば、政策効果の時間的ラグもあって経済や雇用に不必要な負荷をもたらすとの考えを示した。その上で、判断が難しい点を認めつつも、来年以降のインフレや長期インフレ期待が安定していれば、金融政策は様子見になりうると説明した。
別の複数の記者は、企業や家計のマインドが急速に悪化している点や、関税引上げの不透明性は継続しうる点を挙げて、事態が明確になるまで待つことの妥当性を質した。
パウエル議長は、経済見通しに関する不確実性の高さを確認した上で、政策金利を据え置くことも引下げることもできる状態にあるという点で柔軟性を有しており、政策スタンスの変更を急ぐ必要はないとの考えを確認した。
なお、今回(3月)のFOMCは、「量的引締め(QT)」を減速することも決定した。具体的には、毎月の保有債券のネット償還額の上限(保有残高の最大減少額)を、米国債について250億ドルから50億ドルに引下げる一方、MBSとAgency債については350億ドルに据え置いた。
パウエル議長は、QTを通じて既に2兆ドルの保有債券を削減した点を確認するとともに、現時点の指標は超過準備が潤沢であることを示しているが、マネーマーケットでタイトさを示唆する兆しがみられる点を指摘した。また、こうした変更は金融政策のスタンスやFRBの中期的な資産規模には影響しないと説明した。
質疑応答では一部の記者が連邦債務上限の運営との関係を質した。パウエル議長は政府当座預金の動向だけでなく多様な要因を考慮して判断したと説明したほか、超過準備の適正水準に接近する中でQTのペースを減速するのは合理的と指摘した。
プロフィール
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井上 哲也のポートレート 井上 哲也
金融デジタルビジネスリサーチ部
シニアチーフリサーチャー
内外金融市場の調査やこれに関わる政策の企画、邦銀国際部門のモニタリングなどを中心とする20年超に亘る中央銀行での執務経験と、国内外の当局や金融機関、研究機関、金融メディアに構築した人脈を活かして、中央銀行の政策対応(”central banking”)に関する議論に貢献。そのための場として「金融市場パネル」を運営し、議論の成果を内外の有識者と幅広く共有するほか、各種のメディアを通じた情報と意見の発信を行っている。2012年には、姉妹パネルとして「バンキングパネル」と「日中金融円卓会合」も立ち上げ、日本の経験を踏まえた商業銀行機能のあり方や中国への教訓といった領域へとカバレッジを広げている。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。