はじめに
25bpの連続利下げを決定したECBの3月理事会では、経済見通しを下方修正した上で先行きの不透明性の高まりを確認した。また、利下げ後の政策スタンスの評価について意見が分かれた。
経済情勢の評価
理事会メンバーは、ユーロ圏経済が緩やかな成長を続けているとの見方を維持した一方、個人消費と政府消費がやや好転し、設備投資が弱く、純輸出は大きく悪化しているとの認識を示した。この間、労働市場は底堅いとの評価を維持し、失業率がNAIRU以下である点を確認したほか、雇用の減速も労働力人口の減少の範囲内と評価した。
今後については、2025~26年の見通しをやや下方修正した執行部の見通しに概ね合意した(broad agreement)が、下方修正が昨年第4四半期の水準効果に過ぎないとの指摘や、他機関による見通しはより悲観的といった意見も示された。また、政府支出、設備投資、輸出には高い不透明性があるとした(注:見通しはドイツとEUの財政拡張策を考慮しておらず、2025~27年に財政支出は緩やかに減少すると想定していた)。
需要別には、個人消費が実質購買力の上昇、低位な失業率、マインドの安定化、高い貯蓄率等により回復基調にあると評価した。もっとも、貯蓄率は、不透明性の高まりや財政赤字の増加に対するリカード効果もあって、今後も低下しないとの見方も示された。
住宅投資は金利低下によって緩やかな回復が見込まれるとした一方、設備投資は製造業で慎重化し、設備稼働率も低下していると指摘し、先行きに懸念を示した。輸出は、通商摩擦の影響が主たる懸念材料である点を確認し、資本財輸出のウエイトが高いユーロ圏には2025年を中心に影響が生じるとの見方を示した。
理事会メンバーは、下方修正後の見通しも実現する可能性が低下し、不確実性の上昇が常態化する恐れを指摘し、こうした不確実性は計量モデルのパラメーターでなく、構成要素のレベルに関わるとの見方も示した。その上で、見通しの下方リスクは強まったと評価し、通商摩擦、地政学的リスク、既往の金融引締め等を要素として挙げた一方、財政支出の増加を上方リスクの要因とした。
今後については、2025~26年の見通しをやや下方修正した執行部の見通しに概ね合意した(broad agreement)が、下方修正が昨年第4四半期の水準効果に過ぎないとの指摘や、他機関による見通しはより悲観的といった意見も示された。また、政府支出、設備投資、輸出には高い不透明性があるとした(注:見通しはドイツとEUの財政拡張策を考慮しておらず、2025~27年に財政支出は緩やかに減少すると想定していた)。
需要別には、個人消費が実質購買力の上昇、低位な失業率、マインドの安定化、高い貯蓄率等により回復基調にあると評価した。もっとも、貯蓄率は、不透明性の高まりや財政赤字の増加に対するリカード効果もあって、今後も低下しないとの見方も示された。
住宅投資は金利低下によって緩やかな回復が見込まれるとした一方、設備投資は製造業で慎重化し、設備稼働率も低下していると指摘し、先行きに懸念を示した。輸出は、通商摩擦の影響が主たる懸念材料である点を確認し、資本財輸出のウエイトが高いユーロ圏には2025年を中心に影響が生じるとの見方を示した。
理事会メンバーは、下方修正後の見通しも実現する可能性が低下し、不確実性の上昇が常態化する恐れを指摘し、こうした不確実性は計量モデルのパラメーターでなく、構成要素のレベルに関わるとの見方も示した。その上で、見通しの下方リスクは強まったと評価し、通商摩擦、地政学的リスク、既往の金融引締め等を要素として挙げた一方、財政支出の増加を上方リスクの要因とした。
物価情勢の評価
理事会メンバーは、ディスインフレが継続しているとの評価に概ね(largely)合意した。サービス価格の高止まりも調整に要する時間的ラグによるとの理解を示し、基調的インフレは減速しているとの評価を確認した。2024年第4四半期に+4.4%の上昇であった1人当たり雇用者報酬も、2025年を通じて減速するとのとの見方があった一方、低位な失業率の下で賃金上昇率の減速が遅延する恐れも指摘された。
内容別には、エネルギー価格が上昇したが不安定である一方、食品価格の増勢は落ち着いたと評価した。工業製品の価格上昇は緩やかである一方、サービス価格については足元で加速の兆しは見られたが、明確な減速トレンドにあるとした。
今後については、2025年の見通しをやや上方修正した理由が、エネルギー価格の見通し変更による点を確認した。結果として、 2%目標の達成時期が2026年に先送りされた点に懸念も示されたが、コアベースの見通しは前回(12月)から不変であるとの指摘があった。なお、インフレ期待については、市場ベースでは足元で急騰しているとの指摘もあったが、リスクプレミアムを除くと2%のインフレ目標と整合的との理解も示された。
その上で理事会メンバーは、見通しに関する不透明性が極めて高い点を確認し、通商摩擦は、輸入コストの上昇やユーロ相場の減価を通じて上方圧力となる一方、外需の減少や過剰供給能力を持つ国からの輸出圧力によって下方要因にもなるとの理解を示したほか、地政学的リスクも二面性を持ちうるとした。さらに、インフレ率が高い中での財政拡張や、価格転嫁に習熟した企業行動なども上方要因として指摘した。
内容別には、エネルギー価格が上昇したが不安定である一方、食品価格の増勢は落ち着いたと評価した。工業製品の価格上昇は緩やかである一方、サービス価格については足元で加速の兆しは見られたが、明確な減速トレンドにあるとした。
今後については、2025年の見通しをやや上方修正した理由が、エネルギー価格の見通し変更による点を確認した。結果として、 2%目標の達成時期が2026年に先送りされた点に懸念も示されたが、コアベースの見通しは前回(12月)から不変であるとの指摘があった。なお、インフレ期待については、市場ベースでは足元で急騰しているとの指摘もあったが、リスクプレミアムを除くと2%のインフレ目標と整合的との理解も示された。
その上で理事会メンバーは、見通しに関する不透明性が極めて高い点を確認し、通商摩擦は、輸入コストの上昇やユーロ相場の減価を通じて上方圧力となる一方、外需の減少や過剰供給能力を持つ国からの輸出圧力によって下方要因にもなるとの理解を示したほか、地政学的リスクも二面性を持ちうるとした。さらに、インフレ率が高い中での財政拡張や、価格転嫁に習熟した企業行動なども上方要因として指摘した。
金融政策の運営
理事会メンバーは、政策反応関数の3つの要素を順次検討した。
インフレ見通しに関しては、足元の指標が想定通りに推移しており、賃金とサービス価格の動向が重要である点を確認した。その上で不確実性が高く、見通しの実現確率は低下したと指摘した。
インフレ基調に関しては、殆どの指標がインフレ目標の持続的達成と整合的である点を確認した。また、労働市場の強さと財政拡張が賃金上昇圧力となるとしても、賃金上昇率は実際に減速しており、企業収益も一部を吸収しうるとの見方を示した。
政策効果の波及については、既往の金融引締めと足元での金融緩和の双方が金融環境に伝播していると評価した。この間、設備投資の弱さについては、金利の高止まりの影響を指摘する向きと、構造的要因の影響を指摘する向きがみられた。
これらの議論を踏まえて、ほとんど全員(almost all)の理事会メンバーは、執行部による25bp利下げの提案を支持した。
今後については、予想されるショックによる経済と物価の下押しを指摘し、慎重な政策運営が政策金利の緩やかな調整を意味する訳ではないとの指摘があった。これに対し、不確実性が高い下ではコミュニケーションの面で慎重さが必要との意見もあり、インフレ目標の達成時期が後ずれしたことや、財政支出の拡大がインフレ圧力を持ちうる点を挙げた。
さらに、数名(a few)のメンバーは、25bpの利下げに同意する代りに利下げ継続を示唆する表現の削除を求めた。この点に関すしては、政策金利はインフレ率とほぼ同じであるだけに引締め的とは評価できず、この点は金融市場の動向からも裏付けられるとの理解が示され、政策金利は執行部推計による中立金利(1.75%~2.75%)に達したほか、近年の財政拡張によって中立金利が上昇したとの見方も示した。
これに対し、経済活動が弱くマインドも停滞しているとの理由で、政策金利は引締め的との見方も示され、執行部見通しが(市場指標をもとに)3回の追加利下げを見込んでいる点も言及された。
中立金利については、現実の政策金利が離れている場合には政策の方向性を示す上で有用だが、推計の不確実性などを踏まえると、会合ごとの政策決定では有用でなく、政策金利は政策目標の達成に適切かどうかシンプルに判断すべきとの意見があった。これらの議論を踏まえて、声明文には「金融政策の引締め度合いは相当に低下した」との表現が新たに加えられた。
インフレ見通しに関しては、足元の指標が想定通りに推移しており、賃金とサービス価格の動向が重要である点を確認した。その上で不確実性が高く、見通しの実現確率は低下したと指摘した。
インフレ基調に関しては、殆どの指標がインフレ目標の持続的達成と整合的である点を確認した。また、労働市場の強さと財政拡張が賃金上昇圧力となるとしても、賃金上昇率は実際に減速しており、企業収益も一部を吸収しうるとの見方を示した。
政策効果の波及については、既往の金融引締めと足元での金融緩和の双方が金融環境に伝播していると評価した。この間、設備投資の弱さについては、金利の高止まりの影響を指摘する向きと、構造的要因の影響を指摘する向きがみられた。
これらの議論を踏まえて、ほとんど全員(almost all)の理事会メンバーは、執行部による25bp利下げの提案を支持した。
今後については、予想されるショックによる経済と物価の下押しを指摘し、慎重な政策運営が政策金利の緩やかな調整を意味する訳ではないとの指摘があった。これに対し、不確実性が高い下ではコミュニケーションの面で慎重さが必要との意見もあり、インフレ目標の達成時期が後ずれしたことや、財政支出の拡大がインフレ圧力を持ちうる点を挙げた。
さらに、数名(a few)のメンバーは、25bpの利下げに同意する代りに利下げ継続を示唆する表現の削除を求めた。この点に関すしては、政策金利はインフレ率とほぼ同じであるだけに引締め的とは評価できず、この点は金融市場の動向からも裏付けられるとの理解が示され、政策金利は執行部推計による中立金利(1.75%~2.75%)に達したほか、近年の財政拡張によって中立金利が上昇したとの見方も示した。
これに対し、経済活動が弱くマインドも停滞しているとの理由で、政策金利は引締め的との見方も示され、執行部見通しが(市場指標をもとに)3回の追加利下げを見込んでいる点も言及された。
中立金利については、現実の政策金利が離れている場合には政策の方向性を示す上で有用だが、推計の不確実性などを踏まえると、会合ごとの政策決定では有用でなく、政策金利は政策目標の達成に適切かどうかシンプルに判断すべきとの意見があった。これらの議論を踏まえて、声明文には「金融政策の引締め度合いは相当に低下した」との表現が新たに加えられた。
プロフィール
-
井上 哲也のポートレート 井上 哲也
金融デジタルビジネスリサーチ部
シニアチーフリサーチャー
内外金融市場の調査やこれに関わる政策の企画、邦銀国際部門のモニタリングなどを中心とする20年超に亘る中央銀行での執務経験と、国内外の当局や金融機関、研究機関、金融メディアに構築した人脈を活かして、中央銀行の政策対応(”central banking”)に関する議論に貢献。そのための場として「金融市場パネル」を運営し、議論の成果を内外の有識者と幅広く共有するほか、各種のメディアを通じた情報と意見の発信を行っている。2012年には、姉妹パネルとして「バンキングパネル」と「日中金融円卓会合」も立ち上げ、日本の経験を踏まえた商業銀行機能のあり方や中国への教訓といった領域へとカバレッジを広げている。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。