はじめに
ECBは今回(4 月)の理事会でも25bpの利下げを決定し、預金ファシリティー金利は2.25%となった。声明文からは政策スタンスが「引締め的」との評価が削除され、ラガルド総裁は不透明性の高さを踏まえ、政策変更に機敏に対応する準備があると説明した。
経済情勢の評価
ラガルド総裁は経済見通しが極めて高い不透明性(exceptional uncertainty)に直面しているとの認識を示し、国際貿易の混乱や金融市場のストレス、地政学的な不透明性が設備投資や消費を慎重化させるとの見方を示した。
一方、ユーロ圏は世界的ショックへの一定の耐性を有しているとも指摘し、要因として、製造業の安定、労働市場の強さ、実質購買力の増加や利下げの効果に加え、EUレベルと域内国による防衛費の顕著な拡大を挙げた。
その上で、経済の下方リスクは増加したと評価し、通商摩擦の顕著な深刻化、金融市場のセンチメントの悪化、地政学的対立などを要因として挙げた。
質疑応答では通商摩擦の深刻化による影響が取り上げられた。ラガルド総裁は、経済が負のショックに見舞われていることは明らかだが、①対米輸出の関税(現在約13%)の影響はより拡大しうる、②EUも対抗措置を講じ得る、③高関税を課された国からの輸入圧力が高まりうる、④ドイツを中心に経済対策が議論されているといった点を考慮する必要があると説明した。
また、前回(3月)会合に比べ関税引上げが明らかになったことで不透明性が低下したかとの質問に対しては、ラガルド総裁は、これから交渉が開始され提案がなされる点で予見可能性は低く、次回(6月)会合までに多くのことが変化しうるとの理解を示した。
一方、ユーロ圏は世界的ショックへの一定の耐性を有しているとも指摘し、要因として、製造業の安定、労働市場の強さ、実質購買力の増加や利下げの効果に加え、EUレベルと域内国による防衛費の顕著な拡大を挙げた。
その上で、経済の下方リスクは増加したと評価し、通商摩擦の顕著な深刻化、金融市場のセンチメントの悪化、地政学的対立などを要因として挙げた。
質疑応答では通商摩擦の深刻化による影響が取り上げられた。ラガルド総裁は、経済が負のショックに見舞われていることは明らかだが、①対米輸出の関税(現在約13%)の影響はより拡大しうる、②EUも対抗措置を講じ得る、③高関税を課された国からの輸入圧力が高まりうる、④ドイツを中心に経済対策が議論されているといった点を考慮する必要があると説明した。
また、前回(3月)会合に比べ関税引上げが明らかになったことで不透明性が低下したかとの質問に対しては、ラガルド総裁は、これから交渉が開始され提案がなされる点で予見可能性は低く、次回(6月)会合までに多くのことが変化しうるとの理解を示した。
物価情勢の評価
ラガルド総裁は、ディスインフレの過程が着実に進行している(well on track)との評価を維持し、インフレ率は執行部見通しに沿って推移したと説明した。足元では、インフレ基調のほとんどの指標が2%目標への持続的な収斂を示しており、サービス価格や賃金価格も減速傾向にあると指摘した。
インフレのリスクについては、世界貿易の混乱が見通しの不確実性を一層高めたと説明した。その上で、下方要因としてエネルギー価格の下落、ユーロ相場の増価、外需の減少、過剰生産能力を有する国からの輸入圧力、上方要因としてサプライチェーンの分断、防衛費やインフラ投資の増加、異常気象を挙げた。
質疑応答では、通商摩擦の深刻化によるインフレへの影響が改めて取り上げられたが、ラガルド総裁は、総需要にはマイナスのショックであることは明確だが、インフレへの影響は時間とともに明らかになるとの慎重な見方を示した。
また、別の記者がEUによる対抗措置の影響をどのように考慮するかを質したのに対し、ラガルド総裁は、既に政策が決定され、影響がデータに現れたものは見通しに反映するが、そうでないものはシナリオ分析によって評価するとの方針を確認した上で、次回(6月)会合に向けてそうした作業を精力的に行う考えを示した。
さらに別の記者がユーロ相場の増価を影響を質したのに対し、 ラガルド総裁は、ECBとして特定の水準を目標としている訳ではない点を確認した上で、声明文にリスク要因として挙げた点も確認し、その影響を考慮していく考えを示した。
インフレのリスクについては、世界貿易の混乱が見通しの不確実性を一層高めたと説明した。その上で、下方要因としてエネルギー価格の下落、ユーロ相場の増価、外需の減少、過剰生産能力を有する国からの輸入圧力、上方要因としてサプライチェーンの分断、防衛費やインフラ投資の増加、異常気象を挙げた。
質疑応答では、通商摩擦の深刻化によるインフレへの影響が改めて取り上げられたが、ラガルド総裁は、総需要にはマイナスのショックであることは明確だが、インフレへの影響は時間とともに明らかになるとの慎重な見方を示した。
また、別の記者がEUによる対抗措置の影響をどのように考慮するかを質したのに対し、ラガルド総裁は、既に政策が決定され、影響がデータに現れたものは見通しに反映するが、そうでないものはシナリオ分析によって評価するとの方針を確認した上で、次回(6月)会合に向けてそうした作業を精力的に行う考えを示した。
さらに別の記者がユーロ相場の増価を影響を質したのに対し、 ラガルド総裁は、ECBとして特定の水準を目標としている訳ではない点を確認した上で、声明文にリスク要因として挙げた点も確認し、その影響を考慮していく考えを示した。
金融政策の運営
ラガルド総裁は、(ECBにとっての政策反応関数を構成する)3つの要素、つまり、物価見通し、インフレ基調の動向、金融政策の波及度合いの評価に照らして25bpの利下げを行ったと説明した。また、例外的に高い不透明性の下にある現在は、データに即して毎回の会合で判断する方針を維持することを確認した。
質疑応答では、まず、25bpの利下げが全会一致であったかどうかとの質問があった。ラガルド総裁は全会一致であったと説明しつつ、①通商摩擦の影響が負の需要ショックであることは明らかだが、インフレへの影響は時間とともに明らかになる点、②短期と中長期の影響を分けるべき点に議論があったと説明した。
別の複数の記者は、今回の声明文から政策スタンスが「引締め的」との評価が削除された点を取り上げた。ラガルド総裁は、この表現が政策変更の目的地(destination)から遠い時には意味があったが、現在は意味を失ったとの理解を示した。また、中立金利はショックのない世界での概念であり、「引締め的」かどうかを評価することは最早実務的でないと指摘した。
さらに、ラガルド総裁は政策運営の方向(direction)の方向性にはコメントしないが、目的地はインフレ目標の持続的な達成であ る と し た 。 そ の上 で 、 今 後の政策 ス タ ン ス は準備 性(readiness)と機敏さ(agility)に即して行う考えを示し、前者は新たなショックへの適切な対応、後者は事態の変化に対する特定の方向ではない機敏な対応であると説明した。
なお、今回の記者会見では、複数の記者がFRBとの関連で金融政策の独立性に言及した。このうち、ECB自身の独立性に関してLagarde総裁は、ユーロ圏の加盟条件であるconvergence criteriaに中央銀行(NCBs)の独立性が含まれることに言及しつつ、ユーロ圏では中央銀行の独立性が原理であると説明した。
一方、FRBのパウエル議長を高く尊敬していると発言したほか、記者がFRBとの米ドルスワップも対応が急変する恐れや対応の必要性を指摘したのに対し、中央銀行間での強固な関係が、金融安定のための堅固な金融インフラの維持にとって決定的な基盤になっている(decisive)と主張した。
最後にラガルド総裁は、質疑で誰も取り上げなかった声明文の一部に注目してほしいと発言した。具体的には政府の経済政策に関するパラグラフであり、通常は財政規律の維持や成長促進的な規制緩和の必要性に言及している。
ラガルド総裁は、現在、欧州の政府機関に特定の時間軸も含めて指摘したい点として、①ドラギ・レポートによる競争力強化の取組み(Competitive Compass)、②貯蓄と投資の統合(かつてのCapital Markets Union)、③デジタルユーロの導入の3点を挙げた。このうち、③は金融政策の声明文としては初登場であり、「デジタルユーロの導入に向けた準備のため、法的な枠組みを早期に整備することが重要」との表現になっている。
質疑応答では、まず、25bpの利下げが全会一致であったかどうかとの質問があった。ラガルド総裁は全会一致であったと説明しつつ、①通商摩擦の影響が負の需要ショックであることは明らかだが、インフレへの影響は時間とともに明らかになる点、②短期と中長期の影響を分けるべき点に議論があったと説明した。
別の複数の記者は、今回の声明文から政策スタンスが「引締め的」との評価が削除された点を取り上げた。ラガルド総裁は、この表現が政策変更の目的地(destination)から遠い時には意味があったが、現在は意味を失ったとの理解を示した。また、中立金利はショックのない世界での概念であり、「引締め的」かどうかを評価することは最早実務的でないと指摘した。
さらに、ラガルド総裁は政策運営の方向(direction)の方向性にはコメントしないが、目的地はインフレ目標の持続的な達成であ る と し た 。 そ の上 で 、 今 後の政策 ス タ ン ス は準備 性(readiness)と機敏さ(agility)に即して行う考えを示し、前者は新たなショックへの適切な対応、後者は事態の変化に対する特定の方向ではない機敏な対応であると説明した。
なお、今回の記者会見では、複数の記者がFRBとの関連で金融政策の独立性に言及した。このうち、ECB自身の独立性に関してLagarde総裁は、ユーロ圏の加盟条件であるconvergence criteriaに中央銀行(NCBs)の独立性が含まれることに言及しつつ、ユーロ圏では中央銀行の独立性が原理であると説明した。
一方、FRBのパウエル議長を高く尊敬していると発言したほか、記者がFRBとの米ドルスワップも対応が急変する恐れや対応の必要性を指摘したのに対し、中央銀行間での強固な関係が、金融安定のための堅固な金融インフラの維持にとって決定的な基盤になっている(decisive)と主張した。
最後にラガルド総裁は、質疑で誰も取り上げなかった声明文の一部に注目してほしいと発言した。具体的には政府の経済政策に関するパラグラフであり、通常は財政規律の維持や成長促進的な規制緩和の必要性に言及している。
ラガルド総裁は、現在、欧州の政府機関に特定の時間軸も含めて指摘したい点として、①ドラギ・レポートによる競争力強化の取組み(Competitive Compass)、②貯蓄と投資の統合(かつてのCapital Markets Union)、③デジタルユーロの導入の3点を挙げた。このうち、③は金融政策の声明文としては初登場であり、「デジタルユーロの導入に向けた準備のため、法的な枠組みを早期に整備することが重要」との表現になっている。
プロフィール
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井上 哲也のポートレート 井上 哲也
金融イノベーション研究部
内外金融市場の調査やこれに関わる政策の企画、邦銀国際部門のモニタリングなどを中心とする20年超に亘る中央銀行での執務経験と、国内外の当局や金融機関、研究機関、金融メディアに構築した人脈を活かして、中央銀行の政策対応(”central banking”)に関する議論に貢献。そのための場として「金融市場パネル」を運営し、議論の成果を内外の有識者と幅広く共有するほか、各種のメディアを通じた情報と意見の発信を行っている。2012年には、姉妹パネルとして「バンキングパネル」と「日中金融円卓会合」も立ち上げ、日本の経験を踏まえた商業銀行機能のあり方や中国への教訓といった領域へとカバレッジを広げている。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。