はじめに
IMFは今回(4 月)の世界経済見通し(WEO)を公表し、世界貿易のシステムが大きな転換点を迎えたとの認識の下で、主要国の成長率見通しを下方修正した一方、米国を含む一部国についてはインフレ見通しを上方修正した。
IMFによる分析の詳細は改めて検討するとして、グランシャ調査局長らによる記者会見の内容も参照しつつ、第一印象を整理しておきたい。
IMFによる分析の詳細は改めて検討するとして、グランシャ調査局長らによる記者会見の内容も参照しつつ、第一印象を整理しておきたい。
世界経済の見通し
グランシャ調査局長の冒頭説明は、米国の長期に亘る実効関税率のグラフからスタートし、この問題の重要性を最初から強調したことが印象的であった。
その上で、4月2日時点での米国による関税率と相手国の報復関税を前提としたケース(Reference case)では、2025~26年の世界経済の成長率見通しが+2.8%→+3.0%となり、前回(1月)に比べて各々0.5ppおよび0.3ppの下方修正となったと説明した。
ただし、4月9日時点での米国による関税率と相手国の報復関税(相互関税の一律10%化と中国への高率関税)を前提としたケース(Alternative case)でも見通しは大きく変わらないと説明した。なお、両ケースともに関税が持続的との仮定に基づいているほか、後者のケースはモデル分析のみに依存している。
その上で、グランシャ調査局長は、各国に求められる政策対応として、①通商政策の安定性ないし予見可能性、②金融政策のインフレ圧力と需要減退に対する機敏な対応、③国防費の増強等への財政出動における財源の確保、の3点を挙げた。
その上で、4月2日時点での米国による関税率と相手国の報復関税を前提としたケース(Reference case)では、2025~26年の世界経済の成長率見通しが+2.8%→+3.0%となり、前回(1月)に比べて各々0.5ppおよび0.3ppの下方修正となったと説明した。
ただし、4月9日時点での米国による関税率と相手国の報復関税(相互関税の一律10%化と中国への高率関税)を前提としたケース(Alternative case)でも見通しは大きく変わらないと説明した。なお、両ケースともに関税が持続的との仮定に基づいているほか、後者のケースはモデル分析のみに依存している。
その上で、グランシャ調査局長は、各国に求められる政策対応として、①通商政策の安定性ないし予見可能性、②金融政策のインフレ圧力と需要減退に対する機敏な対応、③国防費の増強等への財政出動における財源の確保、の3点を挙げた。
米国経済の見通し
今回(4月)のWEOは、2025~26年の米国の経済成長率見通しを+1.8%→+1.7%とした。前回(1月)に比べて、各々0.9ppおよび0.4ppの下方修正となったほか、2025年は2024年の実績値(+2.8%)からも1.0ppの大幅な減速を意味する。
この点についてグランシャ調査局長は、関税引上げによる供給ショックが生産性の低下を招くとしたほか、政策の不透明性に伴う経済活動の慎重化も影響を及ぼすとの見方を示した。このほか、金融市場の不安定化が金融環境の悪化を招く恐れにも言及した。
ただし、+1.8%という成長率はFOMCメンバーによる「長期」成長率、つまり潜在成長率と一致しており、米国経済が巡航速度に戻るとみていることになる。また、0.9ppという下方修正幅は、米国内の調査機関が示している推計と概ね一致している。
質疑応答では、米国が景気後退に陥る恐れについての質問があった。グランシャ調査局長は、景気循環の点からみて、2025年に経済成長率が減速すること自体は関税引上げの以前から予想されていたことであると説明した。
さらに、米国経済の現状は労働市場も含めて良好との評価を示したうえで、IMFとしても米国が景気後退に陥るリスクは40%とみており、可能性を排除している訳ではないとも述べた。
また、別の記者が米ドル相場の下落を取り上げたのに対し、グランシャ調査局長は、金融市場で米国景気の先行きと経済政策の不透明性が意識されたことで米ドル相場が顕著に下落しているとの理解を示した。一方で、足元では海外投資家による米国のリスク資産への投資は回復しつつあるとも指摘した。
この点に関してはさらに別の記者が、金融市場の不安定性に懸念を示したのに対し、グランシャ調査局長は、投資家が新たな経済環境の下で各々のリスク資産や通貨の価値を再評価する過程にあるとの理解を示した。一方で、金融システムは底堅く、ストレスないし混乱といった事態は見られないとした。
FRBの独立性についても質問があった。グランシャ調査局長は、世界の中央銀行が需要の低下見通しに対して利下げが必要になるとの見通しを示した一方、米国については、そもそもサービス価格が上昇している上に、関税引上げの影響で、2025年のインフレ率が3%に高止まるとの見方を示した。
さらに、高インフレによる生活費の高騰が続いただけにインフレ期待の安定が重要であり、そのためには中央銀行への信認が必要と説明し、独立性の重要さを示唆した。
実際、今回(4月)のWEOでは、主要国については総じてみればインフレ率の見通しを引き下げている。その理由は米国の関税引上げに伴う直接ないし間接的な需要の減退であるが、グランシャ調査局長は米国と英国(エネルギー価格と利下げ見通しが要因)は物価見通しを引き上げたと説明した。
この点についてグランシャ調査局長は、関税引上げによる供給ショックが生産性の低下を招くとしたほか、政策の不透明性に伴う経済活動の慎重化も影響を及ぼすとの見方を示した。このほか、金融市場の不安定化が金融環境の悪化を招く恐れにも言及した。
ただし、+1.8%という成長率はFOMCメンバーによる「長期」成長率、つまり潜在成長率と一致しており、米国経済が巡航速度に戻るとみていることになる。また、0.9ppという下方修正幅は、米国内の調査機関が示している推計と概ね一致している。
質疑応答では、米国が景気後退に陥る恐れについての質問があった。グランシャ調査局長は、景気循環の点からみて、2025年に経済成長率が減速すること自体は関税引上げの以前から予想されていたことであると説明した。
さらに、米国経済の現状は労働市場も含めて良好との評価を示したうえで、IMFとしても米国が景気後退に陥るリスクは40%とみており、可能性を排除している訳ではないとも述べた。
また、別の記者が米ドル相場の下落を取り上げたのに対し、グランシャ調査局長は、金融市場で米国景気の先行きと経済政策の不透明性が意識されたことで米ドル相場が顕著に下落しているとの理解を示した。一方で、足元では海外投資家による米国のリスク資産への投資は回復しつつあるとも指摘した。
この点に関してはさらに別の記者が、金融市場の不安定性に懸念を示したのに対し、グランシャ調査局長は、投資家が新たな経済環境の下で各々のリスク資産や通貨の価値を再評価する過程にあるとの理解を示した。一方で、金融システムは底堅く、ストレスないし混乱といった事態は見られないとした。
FRBの独立性についても質問があった。グランシャ調査局長は、世界の中央銀行が需要の低下見通しに対して利下げが必要になるとの見通しを示した一方、米国については、そもそもサービス価格が上昇している上に、関税引上げの影響で、2025年のインフレ率が3%に高止まるとの見方を示した。
さらに、高インフレによる生活費の高騰が続いただけにインフレ期待の安定が重要であり、そのためには中央銀行への信認が必要と説明し、独立性の重要さを示唆した。
実際、今回(4月)のWEOでは、主要国については総じてみればインフレ率の見通しを引き下げている。その理由は米国の関税引上げに伴う直接ないし間接的な需要の減退であるが、グランシャ調査局長は米国と英国(エネルギー価格と利下げ見通しが要因)は物価見通しを引き上げたと説明した。
中国経済の見通し
今回(4月)のWEOは、2025~26年の中国の経済成長率見通しを+4.0%→+4.0%とした。前回(1月)に比べて、各々0.6ppおよび0.5ppの下方修正となったほか、中国政府の事実上の政策目標を下回ることを意味する。
上記のようにIMFが関税引上げが持続的との想定を置いている以上当然ではあるが、グランシャ調査局長は、冒頭説明の中で中国経済への影響が持続的となるとの見方を示した。
質疑応答では、第1四半期の経済成長率が堅調であった点からみて、見通しは悲観的過ぎるとの懸念が示された。グランシャ調査局長は、第1四半期のデータは今回の見通しに織り込んでいない点を認めた一方、関税引上げ自体の影響は1.3ppにも達するが、財政刺激の効果(+0.5pp)などを考慮して、このような下方修正に止めたと説明した。
さらに、中国の場合は、米英以外の多くの国と同じく、需要の減退によって物価には下方圧力がかかるとの見方を示し、2025年のインフレ率がゼロ近傍にまで低下するとの見通しにあることを説明した。
上記のようにIMFが関税引上げが持続的との想定を置いている以上当然ではあるが、グランシャ調査局長は、冒頭説明の中で中国経済への影響が持続的となるとの見方を示した。
質疑応答では、第1四半期の経済成長率が堅調であった点からみて、見通しは悲観的過ぎるとの懸念が示された。グランシャ調査局長は、第1四半期のデータは今回の見通しに織り込んでいない点を認めた一方、関税引上げ自体の影響は1.3ppにも達するが、財政刺激の効果(+0.5pp)などを考慮して、このような下方修正に止めたと説明した。
さらに、中国の場合は、米英以外の多くの国と同じく、需要の減退によって物価には下方圧力がかかるとの見方を示し、2025年のインフレ率がゼロ近傍にまで低下するとの見通しにあることを説明した。
日本経済の見通し
日本の2025~26年の経済成長率見通しは+0.6%→+0.6%となり、前回(1月)に比べて、各々0.5ppおよび0.2ppの下方修正となった。記者会見では特に言及はなかったが、WEOの第1章によれば、他国と同じく需要減退の影響を受ける一方、賃金上昇による消費の回復も見込まれるとしている。+0.6%という経済成長率は、日銀の推計による潜在成長率と概ね同じである。
プロフィール
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井上 哲也のポートレート 井上 哲也
金融イノベーション研究部
内外金融市場の調査やこれに関わる政策の企画、邦銀国際部門のモニタリングなどを中心とする20年超に亘る中央銀行での執務経験と、国内外の当局や金融機関、研究機関、金融メディアに構築した人脈を活かして、中央銀行の政策対応(”central banking”)に関する議論に貢献。そのための場として「金融市場パネル」を運営し、議論の成果を内外の有識者と幅広く共有するほか、各種のメディアを通じた情報と意見の発信を行っている。2012年には、姉妹パネルとして「バンキングパネル」と「日中金融円卓会合」も立ち上げ、日本の経験を踏まえた商業銀行機能のあり方や中国への教訓といった領域へとカバレッジを広げている。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。