はじめに
25bpの連続利下げを決定したECBの4月理事会では、通商摩擦の深刻化による経済の下方リスクを把握した一方で、域内国の財政支出の拡大などの上方リスクも取上げ、今後の政策運営について柔軟性を維持することを確認した。
国際情勢の評価
理事会メンバーは、米国の関税に相互に恩恵のある合意が成立する可能性と、相互関税の完全な停止やそれに伴う世界経済の原状復帰は困難である可能性の双方を示した。また、ユーロ相場の上昇は、米国の政策に対する懸念を映じた投資家のポートフォリオ・リバランスによるとの理解を示した。
今後については、米国の経常赤字が資本流入で支えられる構造は信認の毀損によって維持が困難との見方を示した一方、世界経済のリバランスが継続する可能性を挙げた。そうした下ではインフレ圧力が高まるとしたほか、古い世界秩序に適応した企業の価値が低下するとした。加えて、ユーロの国際準備通貨としての役割が高まる可能性も指摘した。
今後については、米国の経常赤字が資本流入で支えられる構造は信認の毀損によって維持が困難との見方を示した一方、世界経済のリバランスが継続する可能性を挙げた。そうした下ではインフレ圧力が高まるとしたほか、古い世界秩序に適応した企業の価値が低下するとした。加えて、ユーロの国際準備通貨としての役割が高まる可能性も指摘した。
ユーロ圏経済の評価
理事会メンバーは、個人消費の底堅さや製造業の回復の兆し、域内国での財政支出の拡大等を挙げ、ユーロ圏経済が世界的なショックへの相応の耐性を備えていると指摘した。もっとも、米国による関税引上げと不透明性の上昇が、景気回復が弱い状況で生ずる点に懸念を示したほか、財政刺激を勘案しても、2025年の経済成長は見通しを下回るとの見方を示した。
これに対し、①米政権が政策を自制する可能性や、②相互関税を緩和する合意が成立する可能性、③対米輸出の中心は、薬品、機械、自動車など短期的に代替が困難であること、などをもとに上方リスクもあるとの指摘があった。また、ドイツの財政支出の拡大とEUレベルでの防衛費の拡大は、直接的な効果に加えて民間投資の誘発(crowding-in)もあって、関税引上げに伴う影響を概ね相殺しうるとの見方が示された。ただし、この点では、両者の効果には時間的な違いがある点も指摘された。
その上で、理事会メンバーは、先行きの下方リスクが高まった点を認め、通商摩擦の深刻化と不透明性、金融市場のマインドの悪化、地政学的リスク等を要因として挙げた。併せて、今後の理事会では、経済成長や雇用、インフレへの波及経路やその大きさを示すシナリオ分析が重要との考えを示した。
これに対し、①米政権が政策を自制する可能性や、②相互関税を緩和する合意が成立する可能性、③対米輸出の中心は、薬品、機械、自動車など短期的に代替が困難であること、などをもとに上方リスクもあるとの指摘があった。また、ドイツの財政支出の拡大とEUレベルでの防衛費の拡大は、直接的な効果に加えて民間投資の誘発(crowding-in)もあって、関税引上げに伴う影響を概ね相殺しうるとの見方が示された。ただし、この点では、両者の効果には時間的な違いがある点も指摘された。
その上で、理事会メンバーは、先行きの下方リスクが高まった点を認め、通商摩擦の深刻化と不透明性、金融市場のマインドの悪化、地政学的リスク等を要因として挙げた。併せて、今後の理事会では、経済成長や雇用、インフレへの波及経路やその大きさを示すシナリオ分析が重要との考えを示した。
物価情勢の評価
理事会メンバーは、足元の指標が、ユーロ相場の上昇やエネルギー価格の下落の効果を除いても、前回(3月)の見通しに概ね沿って推移していると評価した。
今後については、ユーロ相場やエネルギー価格が現状程度であれば、賃金上昇の減速とも相まって、2025年のインフレ率は2%目標を下回る可能性があるとした。さらに、中国からの輸入圧力が事態を複雑化するとの指摘や、短期的には域内国での財政支出の増加が国際情勢によるディスインフレを相殺することは考えにくいとの意見もあった。より長い目でも、ユーロ相場やエネルギー価格の動向、経済活動の減速がインフレ圧力の低下に寄与するとの意見があった。
もっとも理事会メンバーも、上方リスクは解消していないとも指摘した。具体的には、足元での基調的インフレの上昇の持続、フィリップスカーブがフラット化しても財政刺激によって雇用が維持される点、ユーロ相場の上昇は経済の安定性を示唆している点、労働需給のタイト化といった可能性を挙げた。
理事会メンバーは、これらを踏まえて、通商摩擦の深刻化が物価見通しの不透明性を増している点を確認した。ユーロ相場の上昇やエネルギー価格の下落、外需の減少や第三国からの輸入圧力、金融市場の不安定化を下方要因として、サプライチェーンの分断や防衛費・インフラ投資の拡大を上方要因として各々挙げた。
今後については、ユーロ相場やエネルギー価格が現状程度であれば、賃金上昇の減速とも相まって、2025年のインフレ率は2%目標を下回る可能性があるとした。さらに、中国からの輸入圧力が事態を複雑化するとの指摘や、短期的には域内国での財政支出の増加が国際情勢によるディスインフレを相殺することは考えにくいとの意見もあった。より長い目でも、ユーロ相場やエネルギー価格の動向、経済活動の減速がインフレ圧力の低下に寄与するとの意見があった。
もっとも理事会メンバーも、上方リスクは解消していないとも指摘した。具体的には、足元での基調的インフレの上昇の持続、フィリップスカーブがフラット化しても財政刺激によって雇用が維持される点、ユーロ相場の上昇は経済の安定性を示唆している点、労働需給のタイト化といった可能性を挙げた。
理事会メンバーは、これらを踏まえて、通商摩擦の深刻化が物価見通しの不透明性を増している点を確認した。ユーロ相場の上昇やエネルギー価格の下落、外需の減少や第三国からの輸入圧力、金融市場の不安定化を下方要因として、サプライチェーンの分断や防衛費・インフラ投資の拡大を上方要因として各々挙げた。
金融政策の運営
理事会メンバーは、政策反応関数の3つの要素を順次検討した。
インフレ見通しに関しては、ディスインフレが順調に進捗した点に幅広く(widely)合意したが、前回(3月)になかった要素(通商摩擦の深刻化、ユーロ相場やエネルギー価格の動向)が短期的に下方圧力をもつとした。もっとも中期的には、財政支出の拡大、報復関税、サプライチェーンの混乱等が各々異なる方向性と時間的ラグを有するだけに、見通しに関する見方は一層分かれた。
基調的インフレに関しては、ほとんどの指標が2%目標への持続的な収斂を示唆している点に合意したほか、賃金上昇率は想定以上に減速している一方、サービスを中心とする域内インフレ率には大きな変化がない点を確認した。最後に、政策効果の波及については、銀行貸出の回復等に言及しつつ、既往の金融緩和が概ね想定通りに金融環境に伝播していると評価した。
これらの議論を踏まえて、理事会メンバーは執行部による25bp利下げの提案を全会一致で支持した。
もっとも、数名(some)のメンバーは、相互関税の公表前には現状維持が適当と考えていた点を説明し、短期的にはインフレ圧力が高まりうる点や、米国のインフレ圧力が同期(synchronize)する可能性に言及した。その上で、今回の利下げは、下方リスクへの保険の意味合いと金融市場の一層の不安定化の回避の意味を持つとも指摘した。
加えて、関税引上げは、ユーロ相場の増価や経済への下押しを考えると、中短期の時間軸では予て想定されたほどのインフレ圧力を持たないとの意見や、25bpの利下げは見通しに上方リスクも含まれる点と整合的との考えも示された。これに対し数名(a few)のメンバーは、下方リスクと金融市場の不安定化への対応として50bp利下げの可能性も示唆した。
今後の政策運営については、関税引上げの展開に依存する点を確認しつつ、労働市場の急激な悪化やインフレの急上昇は考えにくいとの見方が示された。加えて、関税引上げの影響が短期的に止まるとすれば、時間的ラグを持つ政策対応は結果的に不適切となりうるとの意見もあった。
最後に声明文に関しては、中立金利が最終到達点との理解を避ける一方、金融引締めの維持も必要ではなくなった点で、「有意に引締め的でなくなりつつある」との表現はもはや不要とした。
インフレ見通しに関しては、ディスインフレが順調に進捗した点に幅広く(widely)合意したが、前回(3月)になかった要素(通商摩擦の深刻化、ユーロ相場やエネルギー価格の動向)が短期的に下方圧力をもつとした。もっとも中期的には、財政支出の拡大、報復関税、サプライチェーンの混乱等が各々異なる方向性と時間的ラグを有するだけに、見通しに関する見方は一層分かれた。
基調的インフレに関しては、ほとんどの指標が2%目標への持続的な収斂を示唆している点に合意したほか、賃金上昇率は想定以上に減速している一方、サービスを中心とする域内インフレ率には大きな変化がない点を確認した。最後に、政策効果の波及については、銀行貸出の回復等に言及しつつ、既往の金融緩和が概ね想定通りに金融環境に伝播していると評価した。
これらの議論を踏まえて、理事会メンバーは執行部による25bp利下げの提案を全会一致で支持した。
もっとも、数名(some)のメンバーは、相互関税の公表前には現状維持が適当と考えていた点を説明し、短期的にはインフレ圧力が高まりうる点や、米国のインフレ圧力が同期(synchronize)する可能性に言及した。その上で、今回の利下げは、下方リスクへの保険の意味合いと金融市場の一層の不安定化の回避の意味を持つとも指摘した。
加えて、関税引上げは、ユーロ相場の増価や経済への下押しを考えると、中短期の時間軸では予て想定されたほどのインフレ圧力を持たないとの意見や、25bpの利下げは見通しに上方リスクも含まれる点と整合的との考えも示された。これに対し数名(a few)のメンバーは、下方リスクと金融市場の不安定化への対応として50bp利下げの可能性も示唆した。
今後の政策運営については、関税引上げの展開に依存する点を確認しつつ、労働市場の急激な悪化やインフレの急上昇は考えにくいとの見方が示された。加えて、関税引上げの影響が短期的に止まるとすれば、時間的ラグを持つ政策対応は結果的に不適切となりうるとの意見もあった。
最後に声明文に関しては、中立金利が最終到達点との理解を避ける一方、金融引締めの維持も必要ではなくなった点で、「有意に引締め的でなくなりつつある」との表現はもはや不要とした。
プロフィール
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井上 哲也のポートレート 井上 哲也
金融イノベーション研究部
内外金融市場の調査やこれに関わる政策の企画、邦銀国際部門のモニタリングなどを中心とする20年超に亘る中央銀行での執務経験と、国内外の当局や金融機関、研究機関、金融メディアに構築した人脈を活かして、中央銀行の政策対応(”central banking”)に関する議論に貢献。そのための場として「金融市場パネル」を運営し、議論の成果を内外の有識者と幅広く共有するほか、各種のメディアを通じた情報と意見の発信を行っている。2012年には、姉妹パネルとして「バンキングパネル」と「日中金融円卓会合」も立ち上げ、日本の経験を踏まえた商業銀行機能のあり方や中国への教訓といった領域へとカバレッジを広げている。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。