はじめに
ECBは今回(6 月)の理事会でも25bpの利下げを決定し、預金ファシリティー金利は2%となった。しかし、ラガルド総裁は政策金利が経済の不透明性に対処する上で良い状況になったと説明し、利下げの一旦停止を示唆した。
経済情勢の評価
ラガルド総裁は、製造業が輸出の前倒しもあって回復したが、サービス業は減速し、今後も関税引上げとユーロ高で輸出が下押しされるとの見通しを示した。もっとも、労働市場の強さや実質所得の増加、民間部門のバランスシートの健全さや金融環境の緩和が経済の底堅さを支えるとしたほか、域内国による防衛費やインフラ投資の増加も経済成長を加速するとの見方を示した。
執行部による今回(6月)の実質GDP成長率見通しは、2025~2027年にかけて0.9%→1.1%→1.3%となり、前回(3月)に比べて2026年が0.1pp下方修正されたに止まった。この見通し(ベースライン)は、前回(3月)対比で、①対ユーロ圏関税が10%上昇、② 対中国関税が20%上昇、③EUの報復関税なしとの想定に基づく。
この見通しでは、2025年の第2~第3四半期に経済への下押しが最も大きくなるとした一方、上記のようなプラス要因が経済活動を支えるとした。域内国の防衛費やインフラ投資の増加も、2027年にかけて1200億ユーロというやや保守的な線でベースラインに織り込まれ、見通し期間の後半を中心に、実質GDP成長率を累計で0.25pp押し上げると想定している。
一方、ラガルド総裁も、経済のリスクは依然として下向きである点を確認し、通商摩擦の深刻化やその不透明性、金融市場のマインドの悪化、地政学的対立などを要素として挙げた。
なお、今回(6月)の見通しには、関税引上げに関するシナリオ分析も示され、最悪シナリオ(①対ユーロ圏は4/2日の関税率、②対中国は120%、③EUの報復関税)では、2025~2026年の実質GDP成長率が各々0.5pp弱、2027年にも0.2pp強、ベースラインから下振れするとした。
質疑応答では、関税引上げの不透明性が高い下で、見通しが底堅い点が取り上げられた。ラガルド総裁は、第1四半期の消費や設備投資の回復が2025年のモメンタムの下支えになるとしたほか、関税引上げの輸出への影響は2026年がピークだが、ユーロ圏の対米輸出は全体の17%に過ぎないほか、防衛費やインフラ投資の効果も顕在化するとの見方を示した。
執行部による今回(6月)の実質GDP成長率見通しは、2025~2027年にかけて0.9%→1.1%→1.3%となり、前回(3月)に比べて2026年が0.1pp下方修正されたに止まった。この見通し(ベースライン)は、前回(3月)対比で、①対ユーロ圏関税が10%上昇、② 対中国関税が20%上昇、③EUの報復関税なしとの想定に基づく。
この見通しでは、2025年の第2~第3四半期に経済への下押しが最も大きくなるとした一方、上記のようなプラス要因が経済活動を支えるとした。域内国の防衛費やインフラ投資の増加も、2027年にかけて1200億ユーロというやや保守的な線でベースラインに織り込まれ、見通し期間の後半を中心に、実質GDP成長率を累計で0.25pp押し上げると想定している。
一方、ラガルド総裁も、経済のリスクは依然として下向きである点を確認し、通商摩擦の深刻化やその不透明性、金融市場のマインドの悪化、地政学的対立などを要素として挙げた。
なお、今回(6月)の見通しには、関税引上げに関するシナリオ分析も示され、最悪シナリオ(①対ユーロ圏は4/2日の関税率、②対中国は120%、③EUの報復関税)では、2025~2026年の実質GDP成長率が各々0.5pp弱、2027年にも0.2pp強、ベースラインから下振れするとした。
質疑応答では、関税引上げの不透明性が高い下で、見通しが底堅い点が取り上げられた。ラガルド総裁は、第1四半期の消費や設備投資の回復が2025年のモメンタムの下支えになるとしたほか、関税引上げの輸出への影響は2026年がピークだが、ユーロ圏の対米輸出は全体の17%に過ぎないほか、防衛費やインフラ投資の効果も顕在化するとの見方を示した。
物価情勢の評価
ラガルド総裁は、食品やサービスの価格も含めてインフレ率が足元で減速した点を確認したほか、2025年の契約賃金の上昇率も更なる減速が見込まれるなど、基調的インフレの指標の殆どがインフレ率の2%目標での安定を示唆していると説明した。
執行部による今回(6月)のHICPインフレ率見通しは、2025~2027年にかけて2.0%→1.6%→2.0%となり、前回(3月)に比べて2025~2026年が0.3pp下方修正された。同じ期間のHICPコアインフレ率見通しは2.4%→1.9%→1.9%となり、前回(3月)に比べて2025年が0.2pp上方修正、2026年が0.1pp下方修正された。
もっとも先行きのリスクは平時より高いと評価し、下方要因として、エネルギー価格の下落、ユーロ相場の増価、金融市場でのリスク回避、上方要因としてサプライチェーンの分断、防衛費やインフラ投資の増加、異常気象を挙げた。
なお、執行部による最悪シナリオ(主な想定は上記参照)でも、 HICPインフレ率のベースラインからの下振れは、2025年はほぼゼロ、2026年が0.1pp弱、2027年も0.2pp程度に止まるとした。
質疑応答でラガルド総裁は、HICPインフレ率見通しの2026年の下方修正の主因はエネルギー価格とユーロの増価であると説明した。また、既往の高インフレとの闘いは完了したが、新たな相手との闘いに直面していると説明した。
執行部による今回(6月)のHICPインフレ率見通しは、2025~2027年にかけて2.0%→1.6%→2.0%となり、前回(3月)に比べて2025~2026年が0.3pp下方修正された。同じ期間のHICPコアインフレ率見通しは2.4%→1.9%→1.9%となり、前回(3月)に比べて2025年が0.2pp上方修正、2026年が0.1pp下方修正された。
もっとも先行きのリスクは平時より高いと評価し、下方要因として、エネルギー価格の下落、ユーロ相場の増価、金融市場でのリスク回避、上方要因としてサプライチェーンの分断、防衛費やインフラ投資の増加、異常気象を挙げた。
なお、執行部による最悪シナリオ(主な想定は上記参照)でも、 HICPインフレ率のベースラインからの下振れは、2025年はほぼゼロ、2026年が0.1pp弱、2027年も0.2pp程度に止まるとした。
質疑応答でラガルド総裁は、HICPインフレ率見通しの2026年の下方修正の主因はエネルギー価格とユーロの増価であると説明した。また、既往の高インフレとの闘いは完了したが、新たな相手との闘いに直面していると説明した。
金融政策の運営
ラガルド総裁は、(ECBにとっての政策反応関数を構成する)3つの要素、つまり、物価見通し、インフレ基調の動向、金融政策の波及度合いの評価に照らして25bpの利下げを行ったと説明した。また、例外的に高い不透明性の下にある現在は、データに即して毎回の会合で判断する方針を維持することを確認した。
質疑応答では、多くの記者が利下げは今回で打止めになるかを質した。ラガルド総裁は、記者が「停止」とか「維持」といった言葉を聞きたいことは理解できると発言しつつ、今回利下げ後の政策金利は今後数か月(next months)の不透明性に対処する上で良い状況にある(well positioned)との説明を繰り返した。
また、インフレの基調は2%近傍で安定しており、2026年のHICPインフレ率の下振れも2027年には解消して2%目標に収斂するとの見方を確認し、今回の利下げ後の政策金利が、中期的なインフレ目標の達成と整合的である点を強調した。
別の記者は、中立金利との関係や量的引締めを継続することとの整合性を質した。
前者に関してラガルド総裁は、中立金利はショックのない均衡で有効な概念である一方、ECBの金融政策は次々と生ずるショックに対応していると説明したほか、中立金利の予想や計測、推計は極めて困難であり、見通しに含めていない点を確認した。また、後者については、利下げ中でも利下げ停止でもQTとの関係は重要でないとした。
質疑では、複数の記者がユーロの国際通貨としての地位の強化を取り上げた。この点は前回(4月)理事会の議事要旨でも異例の長さで取り上げられたほか、5月末にイタリア銀行のパネッタ総裁が講演を行っている。
ラガルド総裁は、パネッタ総裁の講演内容を高く評価したほか、 10日前に自らも本テーマで講演したことを指摘した上で、国際通貨の地位は外から与えられるものでなく、域内国や欧州委員会、欧州理事会によって、資本市場の統合を中心に欧州の経済と地政学的な役割を高めるための決定を下すことが必要との考えを示した。
加えて、法の支配や契約の尊重が存在し、投資家や経済主体にとって欧州が信頼すべきビジネスの場となるよう努力を続けることが必要としたほか、今回の理事会を通じて本テーマに関する深い議論が続いたと説明した。
質疑応答では、多くの記者が利下げは今回で打止めになるかを質した。ラガルド総裁は、記者が「停止」とか「維持」といった言葉を聞きたいことは理解できると発言しつつ、今回利下げ後の政策金利は今後数か月(next months)の不透明性に対処する上で良い状況にある(well positioned)との説明を繰り返した。
また、インフレの基調は2%近傍で安定しており、2026年のHICPインフレ率の下振れも2027年には解消して2%目標に収斂するとの見方を確認し、今回の利下げ後の政策金利が、中期的なインフレ目標の達成と整合的である点を強調した。
別の記者は、中立金利との関係や量的引締めを継続することとの整合性を質した。
前者に関してラガルド総裁は、中立金利はショックのない均衡で有効な概念である一方、ECBの金融政策は次々と生ずるショックに対応していると説明したほか、中立金利の予想や計測、推計は極めて困難であり、見通しに含めていない点を確認した。また、後者については、利下げ中でも利下げ停止でもQTとの関係は重要でないとした。
質疑では、複数の記者がユーロの国際通貨としての地位の強化を取り上げた。この点は前回(4月)理事会の議事要旨でも異例の長さで取り上げられたほか、5月末にイタリア銀行のパネッタ総裁が講演を行っている。
ラガルド総裁は、パネッタ総裁の講演内容を高く評価したほか、 10日前に自らも本テーマで講演したことを指摘した上で、国際通貨の地位は外から与えられるものでなく、域内国や欧州委員会、欧州理事会によって、資本市場の統合を中心に欧州の経済と地政学的な役割を高めるための決定を下すことが必要との考えを示した。
加えて、法の支配や契約の尊重が存在し、投資家や経済主体にとって欧州が信頼すべきビジネスの場となるよう努力を続けることが必要としたほか、今回の理事会を通じて本テーマに関する深い議論が続いたと説明した。
プロフィール
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井上 哲也のポートレート 井上 哲也
金融イノベーション研究部
内外金融市場の調査やこれに関わる政策の企画、邦銀国際部門のモニタリングなどを中心とする20年超に亘る中央銀行での執務経験と、国内外の当局や金融機関、研究機関、金融メディアに構築した人脈を活かして、中央銀行の政策対応(”central banking”)に関する議論に貢献。そのための場として「金融市場パネル」を運営し、議論の成果を内外の有識者と幅広く共有するほか、各種のメディアを通じた情報と意見の発信を行っている。2012年には、姉妹パネルとして「バンキングパネル」と「日中金融円卓会合」も立ち上げ、日本の経験を踏まえた商業銀行機能のあり方や中国への教訓といった領域へとカバレッジを広げている。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。