はじめに
25bpの連続利下げを決定したECBの6月理事会では、通商摩擦による経済の下方リスクを確認した一方、家計の頑健さや財政支出拡大など下支え要因も指摘し、柔軟な政策運営を確認した。
関税引上げの影響
理事会メンバーは3つのシナリオを議論し、基本シナリオの可能性が平時より低い点を確認しつつ、最悪シナリオが金融市場の混乱、過剰能力国からの輸入圧力等を考慮していないと指摘した。また、3つのシナリオが負の需要ショックに焦点を置き、サプライチェーンの混乱等の供給ショックを十分考慮していない可能性を指摘した。さらに、EUが報復関税を実施した場合、代替可能性の低い中間財を中心に既にマージンが縮小している企業が価格転嫁を進めるとの指摘もあった。
ユーロ圏経済の評価
理事会メンバーは、経済活動の足元の底堅さが、駆込み輸出だけでなく、消費と投資の堅調さにもよるとの見方を示した。もっとも、 2025年の第2~第3四半期は、関税引上げと不透明性のため経済活動が鈍化するとし、製造業のPMIの好調さは駆け込み輸出による一方、サービス業のPMIの下落は経済全体のマインドの慎重化を示唆するとの見方を示した。
この間、労働市場の強さが緩和的な金融環境とともに経済の底堅さを支えているとの理解を示した一方、未充足求人の減少やサービス業PMIでの雇用指標の軟化等を指摘する向きもあった。
その上で、理事会メンバーは、執行部の実質GDP見通しが足元を中心に下方修正となった点を幅広く(broadly)支持した。一方、 2027年にかけての回復過程では、労働市場の強さ、実質賃金の上昇、民間部門のバランスシートの健全さ、域内国の財政拡大を要因として挙げた。ただし、家計貯蓄率が不透明性の低下とともに低下するか否かで意見が分かれたほか、経済ないし政治の要因により財政拡大が想定より抑制されるリスクも指摘した。
最後に、理事会メンバーは先行きのリスクが下方に傾いている点を確認し、通商摩擦の深刻化と不透明性、金融市場のマインドの悪化、地政学的リスク等を要因として挙げた。
この間、労働市場の強さが緩和的な金融環境とともに経済の底堅さを支えているとの理解を示した一方、未充足求人の減少やサービス業PMIでの雇用指標の軟化等を指摘する向きもあった。
その上で、理事会メンバーは、執行部の実質GDP見通しが足元を中心に下方修正となった点を幅広く(broadly)支持した。一方、 2027年にかけての回復過程では、労働市場の強さ、実質賃金の上昇、民間部門のバランスシートの健全さ、域内国の財政拡大を要因として挙げた。ただし、家計貯蓄率が不透明性の低下とともに低下するか否かで意見が分かれたほか、経済ないし政治の要因により財政拡大が想定より抑制されるリスクも指摘した。
最後に、理事会メンバーは先行きのリスクが下方に傾いている点を確認し、通商摩擦の深刻化と不透明性、金融市場のマインドの悪化、地政学的リスク等を要因として挙げた。
物価情勢の評価
理事会メンバーは、HICP総合インフレ率が2%目標を達成したことを幅広く(widely)歓迎するとともに、サービス価格の上昇も(Easterの時期により)一時的であったとした。また、食品価格に対しても、国際価格の軟化による今後の影響に期待を示した。
賃金については、契約賃金、1人当たり報酬、ECBの賃金トラッカーやサーベイ結果が上昇率の軟化を示しているとした。また、企業が賃金上昇をマージンで吸収している可能性や、2026~27年の1人当たり報酬の伸び率の予測(2.8%)がインフレ目標と生産性伸び率のトレンド(0.8%)と整合的である点の指摘もあった。
執行部は2025~2026年のインフレ率見通しを下方修正したが、主因はエネルギー価格の下落とユーロ相場の上昇との理解を共有した。今後は財政拡大の影響が大きいほか、2027年にはETS2の導入もあってインフレ目標に収斂するとの見方も確認し、物価動向が良好との見方を示した。
その上で、理事会メンバーは見通しのリスクが高い点を確認し、通常摩擦、エネルギー価格、ユーロ相場を下方要因として指摘した一方、財政拡大、サプライチェーンの混乱、異常気象を上方要因として指摘した。
また、関税引上げの需要面の影響が、経済の底堅さとの相対関係や、エネルギー価格とユーロ相場に影響される点を指摘した。特にユーロ相場については、高水準のユーロ建て輸入と企業の価格転嫁の非対称性が物価への波及に影響する可能性を指摘した。供給面では、サプライチェーンの動向に加え、中国からの輸入圧力を指摘したが、後者は量的に大きくなく、問題が生じればEUの対抗措置が講じられるとの見方も示された。
なお、ユーロ相場の上昇については、ユーロ圏に対する信認の上昇と米国の財政見通しの悪化等の構造的要因による可能性を指摘し、資産運用者が米ドルないし米国資産からのリバランスを開始したとの見方を示した。
賃金については、契約賃金、1人当たり報酬、ECBの賃金トラッカーやサーベイ結果が上昇率の軟化を示しているとした。また、企業が賃金上昇をマージンで吸収している可能性や、2026~27年の1人当たり報酬の伸び率の予測(2.8%)がインフレ目標と生産性伸び率のトレンド(0.8%)と整合的である点の指摘もあった。
執行部は2025~2026年のインフレ率見通しを下方修正したが、主因はエネルギー価格の下落とユーロ相場の上昇との理解を共有した。今後は財政拡大の影響が大きいほか、2027年にはETS2の導入もあってインフレ目標に収斂するとの見方も確認し、物価動向が良好との見方を示した。
その上で、理事会メンバーは見通しのリスクが高い点を確認し、通常摩擦、エネルギー価格、ユーロ相場を下方要因として指摘した一方、財政拡大、サプライチェーンの混乱、異常気象を上方要因として指摘した。
また、関税引上げの需要面の影響が、経済の底堅さとの相対関係や、エネルギー価格とユーロ相場に影響される点を指摘した。特にユーロ相場については、高水準のユーロ建て輸入と企業の価格転嫁の非対称性が物価への波及に影響する可能性を指摘した。供給面では、サプライチェーンの動向に加え、中国からの輸入圧力を指摘したが、後者は量的に大きくなく、問題が生じればEUの対抗措置が講じられるとの見方も示された。
なお、ユーロ相場の上昇については、ユーロ圏に対する信認の上昇と米国の財政見通しの悪化等の構造的要因による可能性を指摘し、資産運用者が米ドルないし米国資産からのリバランスを開始したとの見方を示した。
金融政策の運営
理事会メンバーは、政策反応関数の3つの要素を順次検討した。
インフレ見通しに関しては、総合インフレ率が想定より早く2%目標を達成した点を歓迎した。その上で、2025~2026年に、エネルギー価格やユーロ相場の影響だけでなく、総需要の弱さや賃金上昇の減速もあってインフレ目標を下回ることが、負の二次的効果を生じるとの懸念が示された。
これに対し、執行部の見通しでも中期的に2%目標が概ね維持される点を指摘し、労働市場の急激な悪化といった事態が生じない限り、インフレ率の目標からの下方乖離を過剰評価すべきでないとの意見が示されたほか、2027年にかけてのインフレ率の回復は財政拡大によって支えられるとの指摘があった。
基調的インフレに関しては、殆どの指標が2%目標への持続的な収斂を示唆している点に合意したほか、域内インフレ率の減速が、賃金上昇率の一層の減速とサービス価格のインフレ率低下によって実現するとの見方を示した。
最後に、政策効果の波及は引続き円滑と評価したほか、政策金利は確実に中立圏内にあるだけでなく、既に緩和領域に入った可能性を指摘した。ただし、中立金利については、財政拡張による上昇圧力と高水準の貯蓄や借入れ需要の減退による下方圧力の双方が指摘された。
これらを踏まえ、殆ど全員(almost allの)理事会メンバーは、 2027年のインフレ目標の達成のため、執行部による25bp利下げの提案を支持した。もっとも、数名(a few)のメンバーは、インフレ率の一時的な下振れに対応すべきでなく、中期的にインフレ圧力が高い下で現状維持が妥当と主張した。また、平坦なPhilips Curveの下では、雇用の顕著な悪化がない限り、持続的な低インフレは生じにいとも指摘した。
理事会メンバーは、今後も上記の政策反応関数に即した政策運営を行うとともに、上下双方の視野を維持し、次の政策決定を拘束すべきでないとの考えを示した。また、シナリオ分析の有用性を確認した一方、シナリオ分析は執行部によるものであり、可能性も一部だけを示している点を明確すべきとの指摘もあった。
インフレ見通しに関しては、総合インフレ率が想定より早く2%目標を達成した点を歓迎した。その上で、2025~2026年に、エネルギー価格やユーロ相場の影響だけでなく、総需要の弱さや賃金上昇の減速もあってインフレ目標を下回ることが、負の二次的効果を生じるとの懸念が示された。
これに対し、執行部の見通しでも中期的に2%目標が概ね維持される点を指摘し、労働市場の急激な悪化といった事態が生じない限り、インフレ率の目標からの下方乖離を過剰評価すべきでないとの意見が示されたほか、2027年にかけてのインフレ率の回復は財政拡大によって支えられるとの指摘があった。
基調的インフレに関しては、殆どの指標が2%目標への持続的な収斂を示唆している点に合意したほか、域内インフレ率の減速が、賃金上昇率の一層の減速とサービス価格のインフレ率低下によって実現するとの見方を示した。
最後に、政策効果の波及は引続き円滑と評価したほか、政策金利は確実に中立圏内にあるだけでなく、既に緩和領域に入った可能性を指摘した。ただし、中立金利については、財政拡張による上昇圧力と高水準の貯蓄や借入れ需要の減退による下方圧力の双方が指摘された。
これらを踏まえ、殆ど全員(almost allの)理事会メンバーは、 2027年のインフレ目標の達成のため、執行部による25bp利下げの提案を支持した。もっとも、数名(a few)のメンバーは、インフレ率の一時的な下振れに対応すべきでなく、中期的にインフレ圧力が高い下で現状維持が妥当と主張した。また、平坦なPhilips Curveの下では、雇用の顕著な悪化がない限り、持続的な低インフレは生じにいとも指摘した。
理事会メンバーは、今後も上記の政策反応関数に即した政策運営を行うとともに、上下双方の視野を維持し、次の政策決定を拘束すべきでないとの考えを示した。また、シナリオ分析の有用性を確認した一方、シナリオ分析は執行部によるものであり、可能性も一部だけを示している点を明確すべきとの指摘もあった。
プロフィール
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井上 哲也のポートレート 井上 哲也
金融イノベーション研究部
内外金融市場の調査やこれに関わる政策の企画、邦銀国際部門のモニタリングなどを中心とする20年超に亘る中央銀行での執務経験と、国内外の当局や金融機関、研究機関、金融メディアに構築した人脈を活かして、中央銀行の政策対応(”central banking”)に関する議論に貢献。そのための場として「金融市場パネル」を運営し、議論の成果を内外の有識者と幅広く共有するほか、各種のメディアを通じた情報と意見の発信を行っている。2012年には、姉妹パネルとして「バンキングパネル」と「日中金融円卓会合」も立ち上げ、日本の経験を踏まえた商業銀行機能のあり方や中国への教訓といった領域へとカバレッジを広げている。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。