はじめに
FRBは今回(7月)のFOMCで政策金利の現状維持を決定した。声明文は今年前半の経済成長率の減速を指摘したほか、2名のメンバーが利下げを主張して反対票を投じたが、パウエル議長は次回(9月)の利下げについては明言を避けた。
経済情勢の評価
パウエル議長は、不透明性に関わらず、経済全体は強い状態にあると評価した。もっとも、年前半の実質GDP成長率が1.2%と昨年後半の2.5%から減速した点も指摘し、関税引上げに対する輸入の振れを除くと、設備投資は回復したが、消費の減速が大きく影響したと説明した。
この間、労働市場については、雇用者数の増加や低位な失業率に言及しつつ引続き強いとした一方、賃金上昇率は減速したが、最大雇用の状況にあるとの評価を維持した。
質疑応答では、主要国・地域との関税交渉に合意に至ったにも関わらず、前回(6月)の声明文にあった不透明性の低下の表現が削除されたことが取上げられた。パウエル議長は、経済への影響はこれから生じるという意味で、不透明性が一層低下したとは言えないとの見方を示した。
別の複数の記者は、消費を中心とする経済成長率の減速に懸念を示した。パウエル議長は、経済成長率の減速は前回(6月)のSEPで予想されていたほか、消費の減速は民間エコノミストを含めて予て予想したことが顕在化したと説明した。一方で、消費者信用の延滞率は上昇しているが、銀行やクレジットカード業界の与信コストは総じて良好であると指摘した。
家計に関しては住宅市場の弱さにも懸念が示されたが、パウエル議長は、政策金利はモーゲージ金利に影響を及ぼすことができないと指摘したほか、価格の高騰も含めて、政府や関連業界が対応すべきとの考えを示した。なお、別の記者は、大規模減税策による景気刺激効果を質したが、パウエル議長は来年にかけてそう大きな効果は見込んでいないとの考えを示した。
この間、労働市場については、雇用者数の増加や低位な失業率に言及しつつ引続き強いとした一方、賃金上昇率は減速したが、最大雇用の状況にあるとの評価を維持した。
質疑応答では、主要国・地域との関税交渉に合意に至ったにも関わらず、前回(6月)の声明文にあった不透明性の低下の表現が削除されたことが取上げられた。パウエル議長は、経済への影響はこれから生じるという意味で、不透明性が一層低下したとは言えないとの見方を示した。
別の複数の記者は、消費を中心とする経済成長率の減速に懸念を示した。パウエル議長は、経済成長率の減速は前回(6月)のSEPで予想されていたほか、消費の減速は民間エコノミストを含めて予て予想したことが顕在化したと説明した。一方で、消費者信用の延滞率は上昇しているが、銀行やクレジットカード業界の与信コストは総じて良好であると指摘した。
家計に関しては住宅市場の弱さにも懸念が示されたが、パウエル議長は、政策金利はモーゲージ金利に影響を及ぼすことができないと指摘したほか、価格の高騰も含めて、政府や関連業界が対応すべきとの考えを示した。なお、別の記者は、大規模減税策による景気刺激効果を質したが、パウエル議長は来年にかけてそう大きな効果は見込んでいないとの考えを示した。
物価情勢の評価
パウエル議長は、インフレ率が過去2年で顕著に減速したが、2%目標に対してやや高いとの評価を維持した。また、PCEインフレ率は年初来で横ばいだが、サービス価格の上昇率が減速し、財価格の上昇率が加速したと説明した。また、短期のインフレ期待は上昇したが、長期のインフレ期待は2%目標と整合的との評価を維持した。
その上で、関税引上げの影響は一部の財価格により明確に顕在化し始めたが、インフレ率の1回限りの上昇に止まる可能性と、持続的になる可能性の双方があるとの見方も維持した。
質疑応答では、関税引上げによるインフレへの影響が焦点となった。パウエル議長は、波及の早期段階にあり、想定よりも波及に時間を要するとの見通しを示した。
その上で、関税収入の顕著な増加は、輸出企業による価格引下げが大きくないことを示すと説明し、従って、輸入企業と家計が応分の負担をするとの見方を示した。ただし、その負担割合は、第一次トランプ政権時のから明らかなように、品目別に異なるとの考えを示した。
さらに、パウエル議長は、足元のインフレの中で0.3~0.4ポイントが関税引上げの影響によるとの見方を示したほか、インフレ率の上昇は1回限りが基本シナリオだが、持続化するリスクがある点を確認した。このほか、ドル安によるインフレ圧力を取り上げる記者もみられたが、パウエル議長は、為替相場には財務省のみがコメントすべきと指摘した上で、今回のFOMCでは主要な議論ではなかったと説明した。
その上で、関税引上げの影響は一部の財価格により明確に顕在化し始めたが、インフレ率の1回限りの上昇に止まる可能性と、持続的になる可能性の双方があるとの見方も維持した。
質疑応答では、関税引上げによるインフレへの影響が焦点となった。パウエル議長は、波及の早期段階にあり、想定よりも波及に時間を要するとの見通しを示した。
その上で、関税収入の顕著な増加は、輸出企業による価格引下げが大きくないことを示すと説明し、従って、輸入企業と家計が応分の負担をするとの見方を示した。ただし、その負担割合は、第一次トランプ政権時のから明らかなように、品目別に異なるとの考えを示した。
さらに、パウエル議長は、足元のインフレの中で0.3~0.4ポイントが関税引上げの影響によるとの見方を示したほか、インフレ率の上昇は1回限りが基本シナリオだが、持続化するリスクがある点を確認した。このほか、ドル安によるインフレ圧力を取り上げる記者もみられたが、パウエル議長は、為替相場には財務省のみがコメントすべきと指摘した上で、今回のFOMCでは主要な議論ではなかったと説明した。
金融政策の運営
パウエル議長は、経済の先行きやリスクのバランスをより良く認識して政策スタンスを調整しうる点で良い位置(well positioned)にあるとの考えを確認した。また、現在の政策スタンスはインフレリスクに対して適切であるとの評価を維持した一方、雇用のリスクにも注意を払う考えも確認した。
質疑応答では、次回(9月)のFOMCでの利下げの可能性やその条件が焦点となった。
パウエル議長は、利下げが次の政策変更である可能性が高い点を認めた一方、次回(9月)までに雇用統計やインフレ指標が2回公表されることを含めて多くのデータを入手できる点を指摘し、それらに基づいて判断するとして、次回(9月)の利下げに関する明言は避けた。
また、インフレが減速すれば利下げが可能になるという単純な話ではなく、デュアルマンデートの達成とそのリスクに基づいて政策判断を行うとした。この点に関しては、労働市場で主として移民政策の影響によって供給も減少している点に言及し、需給双方が縮小することで失業率が低位に維持された場合は、労働市場の軟化の兆候と理解する考えを示した。
記者からは、関税引上げによるインフレ圧力が1回限りであるとすれば、FRBは「様子見(look through)」した上で金融緩和が可能との指摘もあった。パウエル議長は、それが可能とした上で、早すぎる緩和はインフレ率の上昇リスクがある一方、遅すぎる緩和は労働市場の減速リスクがあるだけに、政策運営には目標達成の効率性(efficiency)が重要であると説明した。
なお、この点に関してパウエル議長は、FOMCメンバーの間で中立金利に関する見方が依然として異なる点にも言及し、実際の政策金利がより接近した場合に判断しうるとの見方を維持した。
今回(9月)のFOMCでは、ボウマン副議長とウォラー理事の2名が25bpの利下げを主張し、政策金利の現状維持に反対した。これまでの両氏のコメントを踏まえるとサプライズではないが、複数の記者がこの点を取り上げた。
パウエル議長は、インフレ率が2%を上回り、労働市場が強いだけに緩やかな金融引締めの継続が適切というのが多数派の判断であったと説明した。これに対し、反対意見については、議事要旨等で確認してほしいとして直接的な説明を避けたが、デュアルマンデートに関するリスクバランスや中立金利に関する見解の相違があったことを示唆した。その上で、意見の相違は健全であり、自身が参加した過去のFOMCに照らしても良い議論であったと評価した。
質疑応答では、次回(9月)のFOMCでの利下げの可能性やその条件が焦点となった。
パウエル議長は、利下げが次の政策変更である可能性が高い点を認めた一方、次回(9月)までに雇用統計やインフレ指標が2回公表されることを含めて多くのデータを入手できる点を指摘し、それらに基づいて判断するとして、次回(9月)の利下げに関する明言は避けた。
また、インフレが減速すれば利下げが可能になるという単純な話ではなく、デュアルマンデートの達成とそのリスクに基づいて政策判断を行うとした。この点に関しては、労働市場で主として移民政策の影響によって供給も減少している点に言及し、需給双方が縮小することで失業率が低位に維持された場合は、労働市場の軟化の兆候と理解する考えを示した。
記者からは、関税引上げによるインフレ圧力が1回限りであるとすれば、FRBは「様子見(look through)」した上で金融緩和が可能との指摘もあった。パウエル議長は、それが可能とした上で、早すぎる緩和はインフレ率の上昇リスクがある一方、遅すぎる緩和は労働市場の減速リスクがあるだけに、政策運営には目標達成の効率性(efficiency)が重要であると説明した。
なお、この点に関してパウエル議長は、FOMCメンバーの間で中立金利に関する見方が依然として異なる点にも言及し、実際の政策金利がより接近した場合に判断しうるとの見方を維持した。
今回(9月)のFOMCでは、ボウマン副議長とウォラー理事の2名が25bpの利下げを主張し、政策金利の現状維持に反対した。これまでの両氏のコメントを踏まえるとサプライズではないが、複数の記者がこの点を取り上げた。
パウエル議長は、インフレ率が2%を上回り、労働市場が強いだけに緩やかな金融引締めの継続が適切というのが多数派の判断であったと説明した。これに対し、反対意見については、議事要旨等で確認してほしいとして直接的な説明を避けたが、デュアルマンデートに関するリスクバランスや中立金利に関する見解の相違があったことを示唆した。その上で、意見の相違は健全であり、自身が参加した過去のFOMCに照らしても良い議論であったと評価した。
プロフィール
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井上 哲也のポートレート 井上 哲也
金融イノベーション研究部
内外金融市場の調査やこれに関わる政策の企画、邦銀国際部門のモニタリングなどを中心とする20年超に亘る中央銀行での執務経験と、国内外の当局や金融機関、研究機関、金融メディアに構築した人脈を活かして、中央銀行の政策対応(”central banking”)に関する議論に貢献。そのための場として「金融市場パネル」を運営し、議論の成果を内外の有識者と幅広く共有するほか、各種のメディアを通じた情報と意見の発信を行っている。2012年には、姉妹パネルとして「バンキングパネル」と「日中金融円卓会合」も立ち上げ、日本の経験を踏まえた商業銀行機能のあり方や中国への教訓といった領域へとカバレッジを広げている。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。