はじめに
金融政策の現状維持を決定した7月のFOMCでは、物価の上方リスクと経済の下方リスクの双方が意識された中で、相対的には前者に対してより警戒的な姿勢が示された。
物価情勢の評価
FOMCメンバーの多く(many)は、インフレ率が2%目標に比べて幾分高く、関税引上げの影響が財価格に現れ始めたと評価した。また、今後はインフレ率が高まるとの見方を広く(generally)共有したが、関税引上げの影響の①時期、②程度、③持続性について高い不透明性が残るとした。
① については、多く(many)のメンバーが影響の出尽くしに一定の時間を要するとしたうえで、理由として、既往の在庫積み増し、最終価格へ波及する時間的ラグ、契約価格の順次の更新、取引関係の維持、関税回収の問題や通商交渉の継続等を挙げた。
② については、数名(a few)のメンバーが輸出企業による負担は限定的で、米国の企業と家計が主な負担者であるとしたほか、数名(several)のメンバーも企業が価格に転嫁する姿勢を指摘した。一方、数名(a few)のメンバーは、企業に関税コストの転嫁を避ける動きもあると、仕入先との交渉や転換、生産過程の見直し、マージンや賃金の調整、新技術等によるコスト削減等を示した。さらに、数名(a few)のメンバーは、現状の需要では価格転嫁の可能性は減殺されるとした。
最後に③については、数名(a few)のメンバーが1回限りの価格上昇に止まるとした一方、数名(a few)のメンバーはサプライチェーンの混乱等は持続的なインフレを招くと主張し、価格の変化とインフレ基調の動向との識別が困難になると指摘した。
FOMCメンバーは長期のインフレ期待が安定している点を確認したが、数名(several)のメンバーは、インフレ率の高止まりの下で関税引上げの影響によって上方へ不安定化するリスクを指摘した。他の数名(a few)のメンバーも、インフレ期待は関税引上げの影響を含む総合インフレ率に影響されるとした。
今後については、大多数(a majority)が物価の上方リスクが雇用の下方リスクより大きいと判断した一方、数名(several)のメンバーは双方がバランスしているとの見方を示し、2名(a couple of)のメンバーが雇用の下方リスクがより重要と主張して見方が分かれた。
最後に③については、数名(a few)のメンバーが1回限りの価格上昇に止まるとした一方、数名(a few)のメンバーはサプライチェーンの混乱等は持続的なインフレを招くと主張し、価格の変化とインフレ基調の動向との識別が困難になると指摘した。
FOMCメンバーは長期のインフレ期待が安定している点を確認したが、数名(several)のメンバーは、インフレ率の高止まりの下で関税引上げの影響によって上方へ不安定化するリスクを指摘した。他の数名(a few)のメンバーも、インフレ期待は関税引上げの影響を含む総合インフレ率に影響されるとした。
今後については、大多数(a majority)が物価の上方リスクが雇用の下方リスクより大きいと判断した一方、数名(several)のメンバーは双方がバランスしているとの見方を示し、2名(a couple of)のメンバーが雇用の下方リスクがより重要と主張して見方が分かれた。
経済情勢の評価
FOMCメンバーは、消費の減速と住宅投資の減少によって、上半期の経済成長が減速した点を確認した。数名(several)のメンバーは年後半も経済活動は低調とした一方、数名(some)のメンバーは高水準の家計純資産が経済活動を支えるとの考えを示した。また、2名(a couple of)のメンバーは、政策の不透明性の低下も経済活動を支持するとした。
家計については、数名(several)のメンバーが実質所得の鈍化が消費支出に影響するとしたほか、数名(a few)のメンバーは住宅需要の軟化を指摘した。企業については、数名(several)のメンバーが政策の不透明性による投資の抑制を指摘したが、数名(several)のメンバーは足元でのセンチメントの改善を指摘した。
FOMCメンバーは、労働市場が概ね最大雇用の状況にある点を確認した。ただし、数名(several)のメンバーは低位に安定する失業率が需給双方の減少を反映しているとしたほか、数名(some)のメンバーは雇用に慎重化の動きがあると指摘した。
今後については、数名(some)のメンバーが労働需要の軟化を指摘し、雇用者増の減速と特定部門への集中、黒人や若年層での失業率の上昇、転職者の賃金上昇率の鈍化等を挙げた。さらに、大多数(a majority)のメンバーは経済活動の減速が労働市場の軟化に繋がるとの見方を示した。
もっとも、数名(some)のメンバーは、移民の減少によって実際の経済成長率と潜在成長率、および実際の雇用増と失業率の安定に必要な雇用数の双方を減速させているので、経済成長や雇用の鈍化は必ずしもslackの発生を意味しないと主張した。
FOMCメンバーは雇用に対する下方リスクを共有した上で、関税引上げの影響に加えて、リスクプレミアムの上昇による金融環境のタイト化と住宅価格の顕著な悪化を要素として挙げた。
家計については、数名(several)のメンバーが実質所得の鈍化が消費支出に影響するとしたほか、数名(a few)のメンバーは住宅需要の軟化を指摘した。企業については、数名(several)のメンバーが政策の不透明性による投資の抑制を指摘したが、数名(several)のメンバーは足元でのセンチメントの改善を指摘した。
FOMCメンバーは、労働市場が概ね最大雇用の状況にある点を確認した。ただし、数名(several)のメンバーは低位に安定する失業率が需給双方の減少を反映しているとしたほか、数名(some)のメンバーは雇用に慎重化の動きがあると指摘した。
今後については、数名(some)のメンバーが労働需要の軟化を指摘し、雇用者増の減速と特定部門への集中、黒人や若年層での失業率の上昇、転職者の賃金上昇率の鈍化等を挙げた。さらに、大多数(a majority)のメンバーは経済活動の減速が労働市場の軟化に繋がるとの見方を示した。
もっとも、数名(some)のメンバーは、移民の減少によって実際の経済成長率と潜在成長率、および実際の雇用増と失業率の安定に必要な雇用数の双方を減速させているので、経済成長や雇用の鈍化は必ずしもslackの発生を意味しないと主張した。
FOMCメンバーは雇用に対する下方リスクを共有した上で、関税引上げの影響に加えて、リスクプレミアムの上昇による金融環境のタイト化と住宅価格の顕著な悪化を要素として挙げた。
金融政策の運営
FOMCメンバーは、インフレ率がやや高い一方、経済活動はやや減速したが、労働市場は概ね最大雇用の状況にあると判断し、ほとんど全員(almost all)が政策金利の現状維持を支持した。
これに対し、2名(a couple of)のメンバーが25bpの利下げを主張し、インフレ率は2%近傍にある、関税引上げは物価に持続的な影響を持たない、消費の減速とともに雇用の下方リスクが高まる、民間部門の新規雇用が減少し景気循環との関係が薄い部門に集中している、といった点を指摘した。
今後については、殆ど全員(almost all)が、労働市場は引続き底堅く、現状の金融政策がやや引締め的である点を踏まえると、今後の展開に適時に対応するのに良い位置(well positioned)にあるとの見方に合意した。また、関税引上げの影響は一部の財に顕現化しているが、経済や物価に対する全体的な影響はこれから生ずるとし、物価に対する影響の程度や持続性が明確になるには更なる時間が必要との考えを示した。
この点については、数名(some)のメンバーが、リスクバランスを評価し政策金利を調整する上で、今後数か月で多くのことを認識しうると指摘した一方、数名(some)のメンバーは、金融政策の変更に際して関税引上げによる物価への影響が完全に明確になるまで待つのは不可能ないし不適切と主張した。
さらに、数名(several)のメンバーは、関税引上げの物価への影響の持続性は金融政策スタンスにも依存するとしたほか、数名(several)のメンバーは、現在の政策金利は中立水準より大きく高い訳ではないとの見方を示した。
リスクマネジメントの点では、関税引上げによる物価への影響が想定以上に持続した場合や、長期のインフレ期待が顕著に上昇した場合は、より引締め的なスタンスを維持する一方、労働市場の顕著な悪化やインフレ率がさらに減速した場合は、より緩和的なスタンスを取る方針を確認した。その上で、物価と雇用のトレードオフが生じた場合には、各々の目標からの距離や収斂するまでの時間を基に判断する方針も確認した。
これに対し、2名(a couple of)のメンバーが25bpの利下げを主張し、インフレ率は2%近傍にある、関税引上げは物価に持続的な影響を持たない、消費の減速とともに雇用の下方リスクが高まる、民間部門の新規雇用が減少し景気循環との関係が薄い部門に集中している、といった点を指摘した。
今後については、殆ど全員(almost all)が、労働市場は引続き底堅く、現状の金融政策がやや引締め的である点を踏まえると、今後の展開に適時に対応するのに良い位置(well positioned)にあるとの見方に合意した。また、関税引上げの影響は一部の財に顕現化しているが、経済や物価に対する全体的な影響はこれから生ずるとし、物価に対する影響の程度や持続性が明確になるには更なる時間が必要との考えを示した。
この点については、数名(some)のメンバーが、リスクバランスを評価し政策金利を調整する上で、今後数か月で多くのことを認識しうると指摘した一方、数名(some)のメンバーは、金融政策の変更に際して関税引上げによる物価への影響が完全に明確になるまで待つのは不可能ないし不適切と主張した。
さらに、数名(several)のメンバーは、関税引上げの物価への影響の持続性は金融政策スタンスにも依存するとしたほか、数名(several)のメンバーは、現在の政策金利は中立水準より大きく高い訳ではないとの見方を示した。
リスクマネジメントの点では、関税引上げによる物価への影響が想定以上に持続した場合や、長期のインフレ期待が顕著に上昇した場合は、より引締め的なスタンスを維持する一方、労働市場の顕著な悪化やインフレ率がさらに減速した場合は、より緩和的なスタンスを取る方針を確認した。その上で、物価と雇用のトレードオフが生じた場合には、各々の目標からの距離や収斂するまでの時間を基に判断する方針も確認した。
プロフィール
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井上 哲也のポートレート 井上 哲也
金融イノベーション研究部
内外金融市場の調査やこれに関わる政策の企画、邦銀国際部門のモニタリングなどを中心とする20年超に亘る中央銀行での執務経験と、国内外の当局や金融機関、研究機関、金融メディアに構築した人脈を活かして、中央銀行の政策対応(”central banking”)に関する議論に貢献。そのための場として「金融市場パネル」を運営し、議論の成果を内外の有識者と幅広く共有するほか、各種のメディアを通じた情報と意見の発信を行っている。2012年には、姉妹パネルとして「バンキングパネル」と「日中金融円卓会合」も立ち上げ、日本の経験を踏まえた商業銀行機能のあり方や中国への教訓といった領域へとカバレッジを広げている。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。