はじめに
政策金利の据え置きを決定したECBの9月理事会では、インフレ目標の事実上の達成と経済活動の底堅さを確認した。全体の議論は、当面の金融政策の現状維持を示唆する内容であった。
為替レートと国際経済の評価
理事会メンバーの間ではユーロ高の評価が分かれた。短期的な事象かつ全面高ではない(対ドル中心)との理解が示されたのに対し、米欧の金利差や景況感の格差、米国資産に対するリスクプレミアムなどのファンダメンタルズに基づくため、ユーロ高が持続しうるとの見方も示された。
国際経済については、、関税引上げの世界貿易への影響はこれから顕在化するとしたほか、貿易戦争や大規模な供給制約のリスクは低下したが、通商政策の環境は依然として高度に不透明と評価した。また、中国からの輸入圧力を指摘する向きがあった一方、過度に低い価格での輸入圧力は見られないとの意見も示された。
その上で理事会メンバーは、多様なリスクの蓋然性や影響を評価することは困難であるとし、感応度やシナリオによる分析は有用だが多くのテールリスクを捕捉できない点を確認した。
国際経済については、、関税引上げの世界貿易への影響はこれから顕在化するとしたほか、貿易戦争や大規模な供給制約のリスクは低下したが、通商政策の環境は依然として高度に不透明と評価した。また、中国からの輸入圧力を指摘する向きがあった一方、過度に低い価格での輸入圧力は見られないとの意見も示された。
その上で理事会メンバーは、多様なリスクの蓋然性や影響を評価することは困難であるとし、感応度やシナリオによる分析は有用だが多くのテールリスクを捕捉できない点を確認した。
ユーロ圏の経済活動の評価
理事会メンバーは、第1四半期と第2四半期の経済活動が輸出の前倒しと反動によって振れた点を確認しつつ、内需の底堅さも共有した。具体的には、サーベイ調査が製造業とサービス業の双方の拡大を示唆、労働市場の強さが消費を下支え、域内国政府のインフラ投資や防衛支出が設備投資を促進、といった点を挙げた。
また、米国の通商政策を巡る不透明性が想定より小さく、企業の多くが楽観的になり、設備投資の回復に繋がるとの見方を示した。さらに、SMAやSPFといったサーベイが、ECBの執行部より楽観的な景気見通しを示している点も指摘した。
一方で、経済成長率は低く、通商政策の不透明性の継続、中国からの輸入圧力、ユーロの増価、政治不安などの下方リスクに対して脆弱との意見も示された。さらに、ECBの執行部が予想する2026~2027年の安定成長に疑問を示し、足元の景気回復もスペインの寄与が大きく、他国の状況は芳しくないとの指摘もあった。
ECBの執行部が家計貯蓄率の低下を想定している点にも疑問が示され、経済の不透明性が解消しにくい、高インフレによる購買力低下の後遺症がある、連続的ショックにより恒常所得の期待が低下した、将来の税負担の増加や社会保障給付の減少を予想しているといった可能性を指摘した。
また、労働市場が経済の牽引力であることを確認したが、未充足求人や新規就業者が減速するなど労働需要が軟化したことも確認した。低位な失業率やUV曲線のシフト(効率性の上昇を示唆)を評価した一方、域内国間で大きく状況が異なる点も指摘した。
これらを踏まえて、理事会メンバーは先行きのリスクがよりバランスしたと評価した。下方リスクとして、通商摩擦の悪化と地政学的対立、上方要因として域内国の財政拡大などを挙げた。
また、米国の通商政策を巡る不透明性が想定より小さく、企業の多くが楽観的になり、設備投資の回復に繋がるとの見方を示した。さらに、SMAやSPFといったサーベイが、ECBの執行部より楽観的な景気見通しを示している点も指摘した。
一方で、経済成長率は低く、通商政策の不透明性の継続、中国からの輸入圧力、ユーロの増価、政治不安などの下方リスクに対して脆弱との意見も示された。さらに、ECBの執行部が予想する2026~2027年の安定成長に疑問を示し、足元の景気回復もスペインの寄与が大きく、他国の状況は芳しくないとの指摘もあった。
ECBの執行部が家計貯蓄率の低下を想定している点にも疑問が示され、経済の不透明性が解消しにくい、高インフレによる購買力低下の後遺症がある、連続的ショックにより恒常所得の期待が低下した、将来の税負担の増加や社会保障給付の減少を予想しているといった可能性を指摘した。
また、労働市場が経済の牽引力であることを確認したが、未充足求人や新規就業者が減速するなど労働需要が軟化したことも確認した。低位な失業率やUV曲線のシフト(効率性の上昇を示唆)を評価した一方、域内国間で大きく状況が異なる点も指摘した。
これらを踏まえて、理事会メンバーは先行きのリスクがよりバランスしたと評価した。下方リスクとして、通商摩擦の悪化と地政学的対立、上方要因として域内国の財政拡大などを挙げた。
物価情勢の評価
理事会メンバーは、インフレ率が2%近傍にある点を歓迎し、金融政策に加えて、エネルギー価格の下落、ユーロの増価、賃金上昇率の減速を要因として挙げた。ただし、ECBの執行部が2026年~2027年の見通しを小幅に下方修正したほか、2027年はETS2導入の影響を除くと、実体はより弱いとの見方が示された。
もっとも、ETS2の影響は一過性で、導入の延期や部分導入となる可能性も指摘された。また、SMAやSPFといったサーベイが、ECBの執行部より高めのインフレ率を予想している点も言及した。
理事会メンバーは、賃金の減速を歓迎し、過去の高インフレの影響が剥落する中、労働需要の軟化も影響するとした。もっとも、低位な失業率の下で1人当たりの雇用者報酬が予想外に増加するなど、賃金の減速には時間を要するとの見方も示された。
この間、関税引上げの影響は二面的とし、情報圧力としてサプライチェーンを通じた波及やその混乱、下方圧力として中国からの輸入圧力を指摘した。また、食品価格もインフレの不透明性の源泉とし、異常気象が頻発する状況で上昇率の長期平均への収斂は生じないほか、インフレ期待に容易に影響すると指摘した。
これらを踏まえて、理事会メンバーは先行きのリスクが平時より高いと評価した。下方要因として、ユーロの増価、外需の減少や中国からの輸入圧力、上方要因としてサプライチェーンの分断、域内国の財政拡大、異常気象などを挙げた。
もっとも、ETS2の影響は一過性で、導入の延期や部分導入となる可能性も指摘された。また、SMAやSPFといったサーベイが、ECBの執行部より高めのインフレ率を予想している点も言及した。
理事会メンバーは、賃金の減速を歓迎し、過去の高インフレの影響が剥落する中、労働需要の軟化も影響するとした。もっとも、低位な失業率の下で1人当たりの雇用者報酬が予想外に増加するなど、賃金の減速には時間を要するとの見方も示された。
この間、関税引上げの影響は二面的とし、情報圧力としてサプライチェーンを通じた波及やその混乱、下方圧力として中国からの輸入圧力を指摘した。また、食品価格もインフレの不透明性の源泉とし、異常気象が頻発する状況で上昇率の長期平均への収斂は生じないほか、インフレ期待に容易に影響すると指摘した。
これらを踏まえて、理事会メンバーは先行きのリスクが平時より高いと評価した。下方要因として、ユーロの増価、外需の減少や中国からの輸入圧力、上方要因としてサプライチェーンの分断、域内国の財政拡大、異常気象などを挙げた。
金融政策の運営
理事会メンバーは、政策反応関数の3つの要素を順次検討した。
インフレ見通しに関しては、執行部のインフレ見通しがエネルギー価格の下落とユーロの増価を主因に若干下方修正された点を確認した。また、見通しには上下双方のリスクが存在するが、関税引上げの不透明性の低下等により、リスクの度合いは低下したと評価した。
もっとも、数名(several)のメンバーは下方リスクがより大きいとし、FRBの利下げによるユーロ増価、通商政策の不透明性、米国経済の減速、リカーディアン効果による財政刺激効果の抑制などを挙げた。一方、数名(a few)のメンバーは上方リスクがより大きいとし、エネルギー価格やユーロ高の修正、マージン回復を指向する企業によるユーロ高を反映した値下げの抑制、中国からの輸入圧力は想定より限定的といった可能性を指摘した。
基調的インフレに関しては、多くの指標が2%目標と概ね整合的である点に合意したほか、1人当たりの雇用者報酬の基調的な減速と生産性の上昇を確認した。もっとも、需給ギャップが縮小する下でのディスインフレに疑問が示されたほか、人口動態を背景とする人手不足が賃金上昇率の減速を緩やかにするとの意見もあった。
最後に、政策効果の波及は引続き円滑と評価したほか利下げ効果がまだ完全に波及していないとの意見が示された。
これらを踏まえ、理事会メンバーの全員が政策金利の据え置きに同意し、インフレに関する執行部の見通しが6月時点と概ね変わらず、経済が底堅い点を確認した。その上で。不透明性が高い下では、政策金利の据え置きが合理的との判断を示し、現在の政策金利が、多様なシナリオと上下双方のリスクに対応する上で、十分に頑健であると評価した。
インフレ見通しに関しては、執行部のインフレ見通しがエネルギー価格の下落とユーロの増価を主因に若干下方修正された点を確認した。また、見通しには上下双方のリスクが存在するが、関税引上げの不透明性の低下等により、リスクの度合いは低下したと評価した。
もっとも、数名(several)のメンバーは下方リスクがより大きいとし、FRBの利下げによるユーロ増価、通商政策の不透明性、米国経済の減速、リカーディアン効果による財政刺激効果の抑制などを挙げた。一方、数名(a few)のメンバーは上方リスクがより大きいとし、エネルギー価格やユーロ高の修正、マージン回復を指向する企業によるユーロ高を反映した値下げの抑制、中国からの輸入圧力は想定より限定的といった可能性を指摘した。
基調的インフレに関しては、多くの指標が2%目標と概ね整合的である点に合意したほか、1人当たりの雇用者報酬の基調的な減速と生産性の上昇を確認した。もっとも、需給ギャップが縮小する下でのディスインフレに疑問が示されたほか、人口動態を背景とする人手不足が賃金上昇率の減速を緩やかにするとの意見もあった。
最後に、政策効果の波及は引続き円滑と評価したほか利下げ効果がまだ完全に波及していないとの意見が示された。
これらを踏まえ、理事会メンバーの全員が政策金利の据え置きに同意し、インフレに関する執行部の見通しが6月時点と概ね変わらず、経済が底堅い点を確認した。その上で。不透明性が高い下では、政策金利の据え置きが合理的との判断を示し、現在の政策金利が、多様なシナリオと上下双方のリスクに対応する上で、十分に頑健であると評価した。
プロフィール
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井上 哲也のポートレート 井上 哲也
金融イノベーション研究部
内外金融市場の調査やこれに関わる政策の企画、邦銀国際部門のモニタリングなどを中心とする20年超に亘る中央銀行での執務経験と、国内外の当局や金融機関、研究機関、金融メディアに構築した人脈を活かして、中央銀行の政策対応(”central banking”)に関する議論に貢献。そのための場として「金融市場パネル」を運営し、議論の成果を内外の有識者と幅広く共有するほか、各種のメディアを通じた情報と意見の発信を行っている。2012年には、姉妹パネルとして「バンキングパネル」と「日中金融円卓会合」も立ち上げ、日本の経験を踏まえた商業銀行機能のあり方や中国への教訓といった領域へとカバレッジを広げている。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。