はじめに
本コラムでは、前コラムに続いて、ECBによるEuro Retail Payments Board(ERPB)とのworkstreamに関する報告(10月)をもとに、 PSPを中心とするステークホルダーとの対話の内容のうち、「ビジネスモデル」等に関する後半の論点をレビューする。
ビジネスモデル
ECBは、最初の論点として、投資や責務に見合う報酬モデルの探索を取り上げた。
ECBは、欧州の分散的な支払システムと適切な報酬とのバランスは関係当局の役割であるとしつつ、PSPに公平で信頼できるインセンティブを付与し、投資と運営のコストの回収を支援するモデルを支持するとした。
また、デジタルユーロの導入法案が4つの原則、つまり、①公共財として基礎的利用は無料、②PSPは店舗から(決済)手数料(MSC)および利用者から付加サービスの利用料を徴収可能、③ MSCには上限を設定、④ESCBが発行コストやPSPとの受払コストを負担、に依拠している点を確認した。
これに対し、銀行PSPはPSPがサービスへの適切な対価を得ることが不可欠と反論した上で、デジタルユーロの流通スキームと報酬モデルが非整合的と指摘した。
具体的には、利用者は、保有制限のために銀行預金からデジタルユーロへの頻繁な交換が必要だが、利用者の預金口座とデジタルユーロ口座が同一の銀行(PSP)にない場合、預金口座を有する銀行がデジタルユーロに関する手数料を得ることができない問題である(six-corner model)。このため、PSP間でのデジタルユーロの取引手数料は不可欠とした。
さらに、全てのPSPがMSCへの上限設定に反対し、デジタルユーロの利用を阻害するだけでなく、域内の支払サービスの違いのため、一様に適切なMSCの上限設定は困難と主張した。一方で、店舗は、デジタルユーロは公的マネーであるためMSCの規制が不可欠と主張し、ICSのinterchange feeのようなリスク負担やキャッシュバックの原資は必要ないと指摘した。
これらの議論を踏まえ、ECBは、報酬モデルがデジタルユーロの導入法案の内容に依存する点を確認した上で、デジタルユーロの法貨としての性質を考慮し、PSPへの適切な報酬とMSCへの上限設定の双方が必要との考えを示した。また、上限は実際の単位コストや競合的手段の状況を考慮すべき点にも言及した。
さらに、適切な報酬モデルが内包すべき要素として、①仲介機関に対する公平でシンプルな報酬、②店舗の保護とscheme feeの免除のメリット享受、③基礎的サービスの定義の明確化を挙げた。
次の論点はopen fundingに伴う予期せぬ結果の回避である。問題の所在は図表10<34ページ>の通りである。
支払者と受取者が別のPSPにデジタルユーロの口座を保有している場合、受取側のPSPは店舗からMSCを徴収し、支払側のPSPは受取側のPSPから取引手数料を受領する。しかし、支払側のPSPが十分なデジタルユーロを保有していないケース(open funding)では、別の(funding)PSPからデジタルユーロを調達するが、funding PSPには何らの報酬が支払われない。
銀行PSPはこの問題を回避するため、支払側のPSPが常時デジタルユーロを保有すること(four corner model)への支持を表明し、巨大IT企業がopen fundingを活用してデジタルユーロに関するサービスの提供に特化する恐れに懸念を示した。しかし、銀行以外のPSPは、open fundingの制限がデジタルユーロへの参加制限になると主張し、取引手数料の一部をfunding PSPに振り向ける案も競争上の問題を理由に反対した。
これらの議論を踏まえ、ECBは報酬問題は関係当局によるデジタルユーロの導入法案で決定される点を確認した。その上で、すべてのビジネスモデルに対する公平を達成するため、①インセンティブと責務との対応の原則、②スキームの公開性と戦略的自立性とのバランスが重要である点を指摘した。
最後の論点は"digital euro as a service"の達成である。つまり、ECBが、PSPによる外部のproviderへの運営委託を許容することであり、重複投資の回避や初期投資の軽減に資するとしている(Draft Rulebookのsection 2に該当の記述がある)。
銀行PSPは、outsourcing providerの役割は重要であり、デジタルユーロでも同様な役割を期待するとの意見を示した。また、これらのproviderは標準化や頑健性、中小銀行による迅速な導入に資するとした。銀行以外のPSPも、これらのproviderはイノベーションの担い手であるとして支持を表明したほか、"full-stack"(front-endからback-endまで)の委託も提案した。
この間、店舗は、決済端末の継続利用が可能であれば、これらのproviderがデジタルユーロにも対応する方がコストが低廉であると指摘した。
これらの議論を踏まえ、ECBは"digital euro as a service"が特に中小PSPの負担軽減に重要との結論を示し、outsourcingの具体的な範囲はDORAないしEBA guidelineに沿って決められるべきとした。また、現在のTargetと同様に、PSPが他のPSPを通じてデジタルユーロのプラットフォーム(DESP)に間接的にアクセスする可能性にも、ステークホルダーと合意したと説明した。
ECBは、欧州の分散的な支払システムと適切な報酬とのバランスは関係当局の役割であるとしつつ、PSPに公平で信頼できるインセンティブを付与し、投資と運営のコストの回収を支援するモデルを支持するとした。
また、デジタルユーロの導入法案が4つの原則、つまり、①公共財として基礎的利用は無料、②PSPは店舗から(決済)手数料(MSC)および利用者から付加サービスの利用料を徴収可能、③ MSCには上限を設定、④ESCBが発行コストやPSPとの受払コストを負担、に依拠している点を確認した。
これに対し、銀行PSPはPSPがサービスへの適切な対価を得ることが不可欠と反論した上で、デジタルユーロの流通スキームと報酬モデルが非整合的と指摘した。
具体的には、利用者は、保有制限のために銀行預金からデジタルユーロへの頻繁な交換が必要だが、利用者の預金口座とデジタルユーロ口座が同一の銀行(PSP)にない場合、預金口座を有する銀行がデジタルユーロに関する手数料を得ることができない問題である(six-corner model)。このため、PSP間でのデジタルユーロの取引手数料は不可欠とした。
さらに、全てのPSPがMSCへの上限設定に反対し、デジタルユーロの利用を阻害するだけでなく、域内の支払サービスの違いのため、一様に適切なMSCの上限設定は困難と主張した。一方で、店舗は、デジタルユーロは公的マネーであるためMSCの規制が不可欠と主張し、ICSのinterchange feeのようなリスク負担やキャッシュバックの原資は必要ないと指摘した。
これらの議論を踏まえ、ECBは、報酬モデルがデジタルユーロの導入法案の内容に依存する点を確認した上で、デジタルユーロの法貨としての性質を考慮し、PSPへの適切な報酬とMSCへの上限設定の双方が必要との考えを示した。また、上限は実際の単位コストや競合的手段の状況を考慮すべき点にも言及した。
さらに、適切な報酬モデルが内包すべき要素として、①仲介機関に対する公平でシンプルな報酬、②店舗の保護とscheme feeの免除のメリット享受、③基礎的サービスの定義の明確化を挙げた。
次の論点はopen fundingに伴う予期せぬ結果の回避である。問題の所在は図表10<34ページ>の通りである。
支払者と受取者が別のPSPにデジタルユーロの口座を保有している場合、受取側のPSPは店舗からMSCを徴収し、支払側のPSPは受取側のPSPから取引手数料を受領する。しかし、支払側のPSPが十分なデジタルユーロを保有していないケース(open funding)では、別の(funding)PSPからデジタルユーロを調達するが、funding PSPには何らの報酬が支払われない。
銀行PSPはこの問題を回避するため、支払側のPSPが常時デジタルユーロを保有すること(four corner model)への支持を表明し、巨大IT企業がopen fundingを活用してデジタルユーロに関するサービスの提供に特化する恐れに懸念を示した。しかし、銀行以外のPSPは、open fundingの制限がデジタルユーロへの参加制限になると主張し、取引手数料の一部をfunding PSPに振り向ける案も競争上の問題を理由に反対した。
これらの議論を踏まえ、ECBは報酬問題は関係当局によるデジタルユーロの導入法案で決定される点を確認した。その上で、すべてのビジネスモデルに対する公平を達成するため、①インセンティブと責務との対応の原則、②スキームの公開性と戦略的自立性とのバランスが重要である点を指摘した。
最後の論点は"digital euro as a service"の達成である。つまり、ECBが、PSPによる外部のproviderへの運営委託を許容することであり、重複投資の回避や初期投資の軽減に資するとしている(Draft Rulebookのsection 2に該当の記述がある)。
銀行PSPは、outsourcing providerの役割は重要であり、デジタルユーロでも同様な役割を期待するとの意見を示した。また、これらのproviderは標準化や頑健性、中小銀行による迅速な導入に資するとした。銀行以外のPSPも、これらのproviderはイノベーションの担い手であるとして支持を表明したほか、"full-stack"(front-endからback-endまで)の委託も提案した。
この間、店舗は、決済端末の継続利用が可能であれば、これらのproviderがデジタルユーロにも対応する方がコストが低廉であると指摘した。
これらの議論を踏まえ、ECBは"digital euro as a service"が特に中小PSPの負担軽減に重要との結論を示し、outsourcingの具体的な範囲はDORAないしEBA guidelineに沿って決められるべきとした。また、現在のTargetと同様に、PSPが他のPSPを通じてデジタルユーロのプラットフォーム(DESP)に間接的にアクセスする可能性にも、ステークホルダーと合意したと説明した。
回復力と透明性
本コラムで検討している報告は、主要な3テーマに加えて2つのテーマを取り上げており、最初の一つが回復力と透明性である。本テーマの第一の論点は支払いシステムの回復力の確保であり、焦点はオフライン支払である。
ECBは、デジタルユーロによるオフライン支払は、インターネットの不通や現金供給の混乱等に対する支払システムの回復力を強化すると主張した。また、利用者が予め「チャージ」を必要とする点でも予め「引出し」の必要な現金と同じとしたほか、店舗にとって、デジタルユーロの発行PSPが機能しなくても、他のPSPを通じて預金への入金が可能である点で優れていると主張した。
その上で、ECBもオフライン支払は段階的ないし柔軟な対応が可能と説明し、ATMや決済端末の改修等のコストのかかる手法が必要かどうか判断が必要であり、ソフトウエアの改修のようなデジタル対応も考えるべきとした。
ただし、店舗には、高い頑健性を備えた決済端末が必要とも指摘し、モバイル端末で議論したsecure elementが必要だが、現在は実装されていない点を確認した。このため、オフライン支払は、決済端末の更新に合わせて導入してはどうかと提案した。
一方、ECBは、ICカードでの発行も金融包摂と戦略的自立性の観点から不可欠と主張し、スマートフォンに対応しえない利用者は無視できないとしたほか、欧州内で設計され製造されるスマートフォンは存在しないとして安全保障的な視点も示唆した。
その上で、ICカード形態の場合には、既に議論したように民間の支払スキームとのco-badgingが有効であると主張した。
これに対し銀行PSPは、オンライン支払のインフラの回復力は既に高く、不通といった事態は稀であるほか、オフライン対応のコストが大きいとして反対した。さらに、予め「チャージ」が必要である点や現金による代替の可能性、緊急時の定義の問題やその際の現金需要の多さにも疑問を呈した。
一方で、店舗は決済不能の事態は重大として、支払システムの回復力強化はデジタルユーロの重要な意義の一つと指摘した。
これらの議論を踏まえ、ECBは、緊急時の支払システムの回復力強化に付加的な意味をもつと説明した一方、PSPの懸念に対応するに段階的で柔軟な導入が有用とした。また、支払システムの頑健性の維持のため、オフラインでのwalletの入出金の限度額のあり方を検討する方針を確認した。
次の論点は手数料の開示である。
ECBは、クレジットカードの利用に関して、店舗にとっての手数料が一方的かつ複雑である点を問題として提起した 。特に、 scheme fee(発行者が徴収)が不透明であり、店舗はacquirerの提示する手数料との比較が困難である点や、サービスに応じた手数料となっているかの確認も困難である点を指摘した。
ECBは、デジタルユーロではscheme feeがない点で、MSCはより適切に設定されると主張した。PSPはデジタルユーロの手数料体系の明確化と単純化を評価したほか、店舗はデジタルユーロのPSP間での取引手数料も免除することが手数料体系の透明化と効率化につながると主張した。
これらの議論を踏まえ、ECBは、特に店舗に対してRulebookに関する議論に積極的に関与し、ベストプラクティスの形成に寄与するよう求めた。
ECBは、デジタルユーロによるオフライン支払は、インターネットの不通や現金供給の混乱等に対する支払システムの回復力を強化すると主張した。また、利用者が予め「チャージ」を必要とする点でも予め「引出し」の必要な現金と同じとしたほか、店舗にとって、デジタルユーロの発行PSPが機能しなくても、他のPSPを通じて預金への入金が可能である点で優れていると主張した。
その上で、ECBもオフライン支払は段階的ないし柔軟な対応が可能と説明し、ATMや決済端末の改修等のコストのかかる手法が必要かどうか判断が必要であり、ソフトウエアの改修のようなデジタル対応も考えるべきとした。
ただし、店舗には、高い頑健性を備えた決済端末が必要とも指摘し、モバイル端末で議論したsecure elementが必要だが、現在は実装されていない点を確認した。このため、オフライン支払は、決済端末の更新に合わせて導入してはどうかと提案した。
一方、ECBは、ICカードでの発行も金融包摂と戦略的自立性の観点から不可欠と主張し、スマートフォンに対応しえない利用者は無視できないとしたほか、欧州内で設計され製造されるスマートフォンは存在しないとして安全保障的な視点も示唆した。
その上で、ICカード形態の場合には、既に議論したように民間の支払スキームとのco-badgingが有効であると主張した。
これに対し銀行PSPは、オンライン支払のインフラの回復力は既に高く、不通といった事態は稀であるほか、オフライン対応のコストが大きいとして反対した。さらに、予め「チャージ」が必要である点や現金による代替の可能性、緊急時の定義の問題やその際の現金需要の多さにも疑問を呈した。
一方で、店舗は決済不能の事態は重大として、支払システムの回復力強化はデジタルユーロの重要な意義の一つと指摘した。
これらの議論を踏まえ、ECBは、緊急時の支払システムの回復力強化に付加的な意味をもつと説明した一方、PSPの懸念に対応するに段階的で柔軟な導入が有用とした。また、支払システムの頑健性の維持のため、オフラインでのwalletの入出金の限度額のあり方を検討する方針を確認した。
次の論点は手数料の開示である。
ECBは、クレジットカードの利用に関して、店舗にとっての手数料が一方的かつ複雑である点を問題として提起した 。特に、 scheme fee(発行者が徴収)が不透明であり、店舗はacquirerの提示する手数料との比較が困難である点や、サービスに応じた手数料となっているかの確認も困難である点を指摘した。
ECBは、デジタルユーロではscheme feeがない点で、MSCはより適切に設定されると主張した。PSPはデジタルユーロの手数料体系の明確化と単純化を評価したほか、店舗はデジタルユーロのPSP間での取引手数料も免除することが手数料体系の透明化と効率化につながると主張した。
これらの議論を踏まえ、ECBは、特に店舗に対してRulebookに関する議論に積極的に関与し、ベストプラクティスの形成に寄与するよう求めた。
金融包摂、プライバシーと不正防止
最後のテーマの第一の論点は金融包摂である。
ECBは、金融包摂がデジタルユーロの設計上の要であり、だれでもどこでも利用できるようにする上で、経済的弱者への対応が不可欠とした。このため、PSP経由でもアプリ経由でも、簡単で使いやすいことが、既存のインターフェイスが十分に対応できていない利用者にとって不可欠である点を確認した。
また、金融包摂の程度が高く、(現金等の)代替手段が存在する地域では付加価値が低いとの指摘に対しては、既存のPSPやそのサービスの役割を認めた上で、分断化され複雑な支払システムの下で金融排除のリスクは大きいと反論した。さらに、多くの域内国での地方における銀行店舗の減少の継続も指摘し、オンラインバンキングの利用は64%に止まるとの調査結果に言及した。
ECBは、金融包摂が「raison d'etre」ではないが、誰も取り残さないよう設計する方針を確認し、アプリがユニバーサルアクセスに不可欠と主張した。同時に、複数のチャネルを通じた配布が重要とし、各国で指定された機関に基礎的サービスの提供と対面でのサポートを義務づける考えを示した。
これに対しPSPは、既に複数のチャネルによってソリューションを提供しており、デジタルユーロの付加価値が不透明と反論した。また、リテール銀行等は地域住民のための官民共同プロジェクトに関与しているとした。
これらの議論を踏まえ、ECBは金融排除のリスクは大きい点を強調したが、PSPは利用者のスキルやアクセスの面で解決されるべきと反論したほか、民間のサービスによって対応済であり、現金も残存すると主張して、意見は折り合わなかった。
次の論点はプライバシーと不正防止である。
ECBは、デジタルユーロの目的にはデータとプライバシーの頑健な保護が含まれ、データ保護の原則とリスクベースのアプローチによって達成されるとした。その上で、オンライン支払ではESCBが利用者の取引に関与しない、オフライン支払では現金と同じになる、という点でプライバシーが維持されるとした。
一方、不正取引は金融システムの完全性や安全性、利用者による信認に深刻な脅威になると指摘し、social engineering techniques(フィッシングやなりすまし等)の発達が利用者を攻撃している点に懸念を示した。プライバシーを維持しつつ金融犯罪を防止することが不可欠であり、ECBは外部のステークホルダーとの連携も活かして対応するとした。
その上で、ECBは、オンライン支払では、PSPは不正検出・防止メカニズム(MDPM:図表13<47ページ>)の活用によって、即時に支払の「スコア」と理由を入手可能であると説明し、PSP自らの対応(identityの窃取等の防止)と相互補完的に頑健な不正防止ないし検出の仕組みを構成すると説明した。
PSPは、利用者がESCBによるデータへのアクセスの可能性に敏感であるとして、強力なプライバシー保護が必要と主張した。
これらの議論を踏まえ、ECBは、不正防止に関しては民間事業者との包括的な視点から、また、PSDの改訂に向けた議論の中で検討されるべきとした。また、支払サービスの全過程を通じた不正防止と責務の双方に対応すべきとし、端末や仲介機関の対応に加えて紛争調停(特にe-commerceや店舗間取引)も重要とした。
ECBは、金融包摂がデジタルユーロの設計上の要であり、だれでもどこでも利用できるようにする上で、経済的弱者への対応が不可欠とした。このため、PSP経由でもアプリ経由でも、簡単で使いやすいことが、既存のインターフェイスが十分に対応できていない利用者にとって不可欠である点を確認した。
また、金融包摂の程度が高く、(現金等の)代替手段が存在する地域では付加価値が低いとの指摘に対しては、既存のPSPやそのサービスの役割を認めた上で、分断化され複雑な支払システムの下で金融排除のリスクは大きいと反論した。さらに、多くの域内国での地方における銀行店舗の減少の継続も指摘し、オンラインバンキングの利用は64%に止まるとの調査結果に言及した。
ECBは、金融包摂が「raison d'etre」ではないが、誰も取り残さないよう設計する方針を確認し、アプリがユニバーサルアクセスに不可欠と主張した。同時に、複数のチャネルを通じた配布が重要とし、各国で指定された機関に基礎的サービスの提供と対面でのサポートを義務づける考えを示した。
これに対しPSPは、既に複数のチャネルによってソリューションを提供しており、デジタルユーロの付加価値が不透明と反論した。また、リテール銀行等は地域住民のための官民共同プロジェクトに関与しているとした。
これらの議論を踏まえ、ECBは金融排除のリスクは大きい点を強調したが、PSPは利用者のスキルやアクセスの面で解決されるべきと反論したほか、民間のサービスによって対応済であり、現金も残存すると主張して、意見は折り合わなかった。
次の論点はプライバシーと不正防止である。
ECBは、デジタルユーロの目的にはデータとプライバシーの頑健な保護が含まれ、データ保護の原則とリスクベースのアプローチによって達成されるとした。その上で、オンライン支払ではESCBが利用者の取引に関与しない、オフライン支払では現金と同じになる、という点でプライバシーが維持されるとした。
一方、不正取引は金融システムの完全性や安全性、利用者による信認に深刻な脅威になると指摘し、social engineering techniques(フィッシングやなりすまし等)の発達が利用者を攻撃している点に懸念を示した。プライバシーを維持しつつ金融犯罪を防止することが不可欠であり、ECBは外部のステークホルダーとの連携も活かして対応するとした。
その上で、ECBは、オンライン支払では、PSPは不正検出・防止メカニズム(MDPM:図表13<47ページ>)の活用によって、即時に支払の「スコア」と理由を入手可能であると説明し、PSP自らの対応(identityの窃取等の防止)と相互補完的に頑健な不正防止ないし検出の仕組みを構成すると説明した。
PSPは、利用者がESCBによるデータへのアクセスの可能性に敏感であるとして、強力なプライバシー保護が必要と主張した。
これらの議論を踏まえ、ECBは、不正防止に関しては民間事業者との包括的な視点から、また、PSDの改訂に向けた議論の中で検討されるべきとした。また、支払サービスの全過程を通じた不正防止と責務の双方に対応すべきとし、端末や仲介機関の対応に加えて紛争調停(特にe-commerceや店舗間取引)も重要とした。
インプリケーション
ビジネスモデルのうち、MSCに対する上限設定は、当方が主催する研究会でも数年前に議論したが、あくまでも市場メカニズムを補完する位置づけとすることが考えられる。また、PSP間での取引手数料は極めて自然な枠組みと思われる。
Open fundingに対する銀行PSPの十分理解できるし、X-payとの競合も興味深いが、参入障壁の問題があるほか、funding PSPには取引に応じない自由度がある。ただし、この問題は、PSPがデジタルユーロのshort positionを作って良いのかという別な興味深い問題にも関わる。
"digital euro as a service"も筆者には既視感があるが、どの範囲を誰に委託しうるかという問題があり、最初は大銀行ないし中小銀行の共同体が中小銀行にサービスを提供することが現実的と思われる。
オフラインとICカード端末は、ECBが認めたように柔軟性も必要だ。民間事業者がオフラインに近いサービスを提供できるほか、デジタルユーロを導入する時点ではリテラシーも一層上昇していることも期待できる。欧州製のスマホの登場や浸透を期待するのは難しくても、新たな端末が出現する可能性もある。
Open fundingに対する銀行PSPの十分理解できるし、X-payとの競合も興味深いが、参入障壁の問題があるほか、funding PSPには取引に応じない自由度がある。ただし、この問題は、PSPがデジタルユーロのshort positionを作って良いのかという別な興味深い問題にも関わる。
"digital euro as a service"も筆者には既視感があるが、どの範囲を誰に委託しうるかという問題があり、最初は大銀行ないし中小銀行の共同体が中小銀行にサービスを提供することが現実的と思われる。
オフラインとICカード端末は、ECBが認めたように柔軟性も必要だ。民間事業者がオフラインに近いサービスを提供できるほか、デジタルユーロを導入する時点ではリテラシーも一層上昇していることも期待できる。欧州製のスマホの登場や浸透を期待するのは難しくても、新たな端末が出現する可能性もある。
プロフィール
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井上 哲也のポートレート 井上 哲也
金融イノベーション研究部
内外金融市場の調査やこれに関わる政策の企画、邦銀国際部門のモニタリングなどを中心とする20年超に亘る中央銀行での執務経験と、国内外の当局や金融機関、研究機関、金融メディアに構築した人脈を活かして、中央銀行の政策対応(”central banking”)に関する議論に貢献。そのための場として「金融市場パネル」を運営し、議論の成果を内外の有識者と幅広く共有するほか、各種のメディアを通じた情報と意見の発信を行っている。2012年には、姉妹パネルとして「バンキングパネル」と「日中金融円卓会合」も立ち上げ、日本の経験を踏まえた商業銀行機能のあり方や中国への教訓といった領域へとカバレッジを広げている。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。