はじめに
デジタルユーロの設計では、銀行預金からの大規模な資金シフトを防ぐため、利用者に保有限度を設けることが想定されている。本コラムでは、欧州議会(欧州理事会とともに導入法案の決定者)からの照会に対するECBの回答(Technical data on the financial stability impact of the digital euro)の内容をレビューする。
ECBは、本件照会が、デジタルユーロの導入に伴う銀行の要求払預金、LCRとNSFR、ROEとROA、貸出増加率と預貸率の各々の変化であったと説明した。もっとも、保有上限を250ユーロにした場合の影響等は、データの制約と機密保持(個別銀行の識別可能性の問題)等によって対応できなかったと付言した。また、今回の分析は、ECBによる既存の分析手法(ERPBの2024年12月資料を参照)の初期的かつ部分的な応用に過ぎず、包括的ではない(最終結論ではない)点も付言した。
ECBは、本件照会が、デジタルユーロの導入に伴う銀行の要求払預金、LCRとNSFR、ROEとROA、貸出増加率と預貸率の各々の変化であったと説明した。もっとも、保有上限を250ユーロにした場合の影響等は、データの制約と機密保持(個別銀行の識別可能性の問題)等によって対応できなかったと付言した。また、今回の分析は、ECBによる既存の分析手法(ERPBの2024年12月資料を参照)の初期的かつ部分的な応用に過ぎず、包括的ではない(最終結論ではない)点も付言した。
分析の焦点
第一の焦点は、デジタル化による現金利用の減少が預金支払(預金需要)を増加させる可能性である(以下では「デジタル化効果」と呼ぶ)。サーベイ(SPACE)をもとに2024年の現金支払額(POS、P2P等の合計)を推計し、モデルで外挿することで、2034年までに預金は1270億ユーロ増加し、リテールの要求払預金の1.5%に達するとした。
第二の焦点は、デジタルユーロの導入に伴う預金からの資金流出であり、照会に即して平時(business as usual)と危機時(flight to quality)に分けている。前者は利用者がサーベイ結果に沿った金額(保有限度より小さい)、後者は保有限度ないい要求払預金残高のいずれか小さい方まで保有すると想定した。
サーベイ結果について、ECBは66%がデジタルユーロを保有し、入金源として60%強が要求払預金、10%強が貯蓄預金を挙げ、現金は約16%とした(図表1<5ページ>)。これに、利用者の消費額や資金源、前払手段の嗜好、預金金利、現金利用などを加味し、保有限度の水準別に利用者一人当たりの保有推計額を提示した(図表2<5ページ>)。具体的には、保有限度が3000ユーロの場合、デジタルユーロの保有額は約450ユーロ、預金流出は400ユーロ弱とした(差は他の金融資産からのシフト)。
一方、危機時はユーロの導入以降に発生していないテールイベントであるとし、デジタルユーロの導入如何に拘わらず、現金の引出ないし外貨建ステーブルコインへの資金シフトとしても生じうると指摘した。また、資金流出は、個人が保有する残高10万ユーロ以下の要求払預金を除く部分に生ずるとしたほか、非金融法人が翌日物預金の31%を保有(預金保険の対象外)するほか、個人保有分(同付保対象)も3分の1が10万ユーロ超であると付言した。なお、ECBは自身による緊急の流動性供給等は考慮していない。
第三の焦点は、平時と危機時の各々について、デジタルユーロの保有限度を500ユーロ~3000ユーロまで段階的に変化させた場合の預金流出である。これをを個別行データ(リテール預金にDRDEPOデータ)によって推計した上で、銀行によるバランスシートの再構成や流動性と収益性への影響を分析した。
第二の焦点は、デジタルユーロの導入に伴う預金からの資金流出であり、照会に即して平時(business as usual)と危機時(flight to quality)に分けている。前者は利用者がサーベイ結果に沿った金額(保有限度より小さい)、後者は保有限度ないい要求払預金残高のいずれか小さい方まで保有すると想定した。
サーベイ結果について、ECBは66%がデジタルユーロを保有し、入金源として60%強が要求払預金、10%強が貯蓄預金を挙げ、現金は約16%とした(図表1<5ページ>)。これに、利用者の消費額や資金源、前払手段の嗜好、預金金利、現金利用などを加味し、保有限度の水準別に利用者一人当たりの保有推計額を提示した(図表2<5ページ>)。具体的には、保有限度が3000ユーロの場合、デジタルユーロの保有額は約450ユーロ、預金流出は400ユーロ弱とした(差は他の金融資産からのシフト)。
一方、危機時はユーロの導入以降に発生していないテールイベントであるとし、デジタルユーロの導入如何に拘わらず、現金の引出ないし外貨建ステーブルコインへの資金シフトとしても生じうると指摘した。また、資金流出は、個人が保有する残高10万ユーロ以下の要求払預金を除く部分に生ずるとしたほか、非金融法人が翌日物預金の31%を保有(預金保険の対象外)するほか、個人保有分(同付保対象)も3分の1が10万ユーロ超であると付言した。なお、ECBは自身による緊急の流動性供給等は考慮していない。
第三の焦点は、平時と危機時の各々について、デジタルユーロの保有限度を500ユーロ~3000ユーロまで段階的に変化させた場合の預金流出である。これをを個別行データ(リテール預金にDRDEPOデータ)によって推計した上で、銀行によるバランスシートの再構成や流動性と収益性への影響を分析した。
預金からの資金流出
ECBは、平時には、いずれの保有限度の下でも預金の流出は小幅に止まり、現金利用の減少による預金需要の増加(前節の第一の点)を考慮すると、ネットで預金が増加するとの推計を示した(図表3a<7ページ>)。
これに対し、危機時には(「デジタル化効果」を除いた場合)、保有限度が500ユーロの場合は1560億ユーロ(リテールの要求払預金の1.8%)、3000ユーロでは6990億ユーロ(同8.2%)に達するとした(図表3b<7ページ>)。
さらに、平時と危機時でのビジネスモデル別の預金流出額も推計し、①規模を問わず中小企業向け銀行やリテール向け銀行、 ②危機時には中小規模の銀行で相対的に大きいとした(図表4<7ページ>)。もっとも、保有限度を3000ユーロにしても、①平時のリテール要求払預金の流出はLCRの想定(5%)よりはるかに低い、②危機時の同流出も2019年の流動性ストレステストの想定(12%)よりはるかに小さいと主張した。
その上で、銀行預金にとっては保有制限のない他のデジタル資産の拡大の方が特に危機時に深刻な影響を与えるとの考えを示し、digital dollarizationがユーロ圏のマネーの自律性を阻害し、中央銀行の効果的な金融政策運営を妨げると主張した。
これに対し、危機時には(「デジタル化効果」を除いた場合)、保有限度が500ユーロの場合は1560億ユーロ(リテールの要求払預金の1.8%)、3000ユーロでは6990億ユーロ(同8.2%)に達するとした(図表3b<7ページ>)。
さらに、平時と危機時でのビジネスモデル別の預金流出額も推計し、①規模を問わず中小企業向け銀行やリテール向け銀行、 ②危機時には中小規模の銀行で相対的に大きいとした(図表4<7ページ>)。もっとも、保有限度を3000ユーロにしても、①平時のリテール要求払預金の流出はLCRの想定(5%)よりはるかに低い、②危機時の同流出も2019年の流動性ストレステストの想定(12%)よりはるかに小さいと主張した。
その上で、銀行預金にとっては保有制限のない他のデジタル資産の拡大の方が特に危機時に深刻な影響を与えるとの考えを示し、digital dollarizationがユーロ圏のマネーの自律性を阻害し、中央銀行の効果的な金融政策運営を妨げると主張した。
銀行によるバランスシートの再調整
次にECBは、Meller and Soons (2023)のモデルをもとに、平時と危機時の双方において、銀行が流動性選好、規制、準備預金や適格担保、市場流動性や市場アクセスといった制約の下でバランスシートの最適化を図ることの結果を分析した(監督データにより2025行をカバー)。ECBは、LCRやNSFRだけでなく、 LCPやCBC、WSF ratioや預貸率等の幅広い指標の変化が分析可能としている(各指標の概要は注16を参照)。
平時に銀行間与信で資金調達が可能かどうかは、他行の状況と中央銀行による市場への資金供給に依存する。本モデルでは適格担保を条件に中銀借入(ペナルティ金利によるレポ)を可能とし、各銀行は流動性バッファーの水準を最適化する。
これに対し危機時には、中小銀行はIPSによる相互扶助的な資金調達も可能とする一方、各銀行はLCRの100%までの低下は容認する(NSFRも100%を遵守)。この想定は銀行が他の資産の換金にも対応する可能性を考慮したものであり、EUの規制がストレス時にはLCRの100%以下への低下を容認している点に比べて保守的と説明した。
その上で、平時については、①「デジタル化効果」を考慮すると、保有限度が3000ユーロでもマクロ的には資金流出が起こらず、わずか数行が最適な流動性バッファーを下回る、②「デジタル化効果」を排除しても、同じ保有制限の下で、LCRとNSFRの変化は各々166%→163%、128%→127%、WSF ratioの上昇は0.2pp、中銀借入への依存度は不変という推計結果を示した(図表6および7<12ページ>)。
危機時についても、中央銀行によるLLR(および「デジタル化効果」)を考慮しないとしても、マクロ的にはLCRおよびNSFRを十分上回るほか、保有限度が3000ユーロの下では、13行のみ(資産シェア0.3%)がLCR100%の制約に直面し、そのうち9行が適格担保の不十分さのため100%割れのリスクがあるとの推計結果を示した(図表8および9<13ページ>)。これら13行は6か国(非開示)に分布している(図表10<14ページ>)。
ECBは、そのほかの指標についても、ビジネスモデルごとの推計結果を示している。保有限度を3000ユーロとしてもLCPの低下は全業態を通じて極めて小さいほか、預貸率もほとんど変化しない一方、CBCについてはLCRと同じく若干の低下に止まるとした(図表11<15ページ>)。ただし、流動性ストレステストのシナリオを加えると預貸率の大きな上昇が生じる点も付言した。
平時に銀行間与信で資金調達が可能かどうかは、他行の状況と中央銀行による市場への資金供給に依存する。本モデルでは適格担保を条件に中銀借入(ペナルティ金利によるレポ)を可能とし、各銀行は流動性バッファーの水準を最適化する。
これに対し危機時には、中小銀行はIPSによる相互扶助的な資金調達も可能とする一方、各銀行はLCRの100%までの低下は容認する(NSFRも100%を遵守)。この想定は銀行が他の資産の換金にも対応する可能性を考慮したものであり、EUの規制がストレス時にはLCRの100%以下への低下を容認している点に比べて保守的と説明した。
その上で、平時については、①「デジタル化効果」を考慮すると、保有限度が3000ユーロでもマクロ的には資金流出が起こらず、わずか数行が最適な流動性バッファーを下回る、②「デジタル化効果」を排除しても、同じ保有制限の下で、LCRとNSFRの変化は各々166%→163%、128%→127%、WSF ratioの上昇は0.2pp、中銀借入への依存度は不変という推計結果を示した(図表6および7<12ページ>)。
危機時についても、中央銀行によるLLR(および「デジタル化効果」)を考慮しないとしても、マクロ的にはLCRおよびNSFRを十分上回るほか、保有限度が3000ユーロの下では、13行のみ(資産シェア0.3%)がLCR100%の制約に直面し、そのうち9行が適格担保の不十分さのため100%割れのリスクがあるとの推計結果を示した(図表8および9<13ページ>)。これら13行は6か国(非開示)に分布している(図表10<14ページ>)。
ECBは、そのほかの指標についても、ビジネスモデルごとの推計結果を示している。保有限度を3000ユーロとしてもLCPの低下は全業態を通じて極めて小さいほか、預貸率もほとんど変化しない一方、CBCについてはLCRと同じく若干の低下に止まるとした(図表11<15ページ>)。ただし、流動性ストレステストのシナリオを加えると預貸率の大きな上昇が生じる点も付言した。
収益への影響
ECBは同じモデルによって、銀行の収益に対する影響も分析した。ただし、影響は前節でみたバランスシート(資産と負債の双方)の再構成に伴う純利子収入(NII)に絞っており、かつ、銀行が資金流出に対抗するため預金利子率を意図的に引上げる可能性は排除している。
加えて、①デジタルユーロの付加的サービスの提供による収入、 ②デジタルユーロの受払に伴う(ネットの)収入(scheme feeの免除による)、③現金利用の減少によるコスト減少等は考慮していない。ECBはこれらの点には、類似の支払手段と同様な報酬の導入、scheme feeや決済手数料の免除、欧州の銀行による標準的なacceptanceの導入による民間ソリューションの可能性といった設計面の要素が関係すると説明した。
その上で、危機は比較的短期に収束し、一時的な収益の減少は重要な問題ではないとの考えをもとに、収益面の影響は平時のシナリオに限定して分析することを表明した。
その上で、ECBは、「デジタル化効果」を考慮しない場合、保有限度が500ユーロから3000ユーロへ段階的に上昇すると、NIIの減少によってROEは9bpから18bpの幅で減少するという推計を示した(図表12<18ページ>)。一方で、「デジタル化効果」によって、保有限度に拘わらずROEが20bp増加するとし、従って、保有限度3000ユーロでもネットでROEが改善するとした。
ECBは、これらの推計結果が、過去のROEの標準偏差(2018~2024年の四半期監督データに基づく加重平均)の1.2%に過ぎず、極めて小さいと主張した。ただし、ビジネスモデルによる差異もあり、リテール向け、中小事業者向け、ユニバーサルバンクでは相対的に影響が大きいと説明した。さらに、国別にも相応のばらつきがあり、保有限度3000ユーロでは最大40bpに達する国が1つある(非公表)とした(小口預金の比率が高く、大きな資金流出が見込まれるため)。
次にECBは、銀行監督の観点から、個別行のROEに対する影響も分析した。
具体的なチェックポイントとして、①総営業利益に対するNIIの重要性(依存度の高さ)、②資金調達源としての個人預金への依存度(ウエイトの高さ)、③ビジネスモデルごとのSREP score(ECBの銀行監督における銀行の健全性とリスクの評価)と主たるリスク要因(長期的な収益と業務の持続性)を挙げた。これらの結果は具体的に示されていないが、監督上の対応や是正措置を必要とするケースはなかったとしている。
最後に、ECBは、デジタルユーロの導入後の金利環境の変化によるROEへの影響に関して感応度分析を行った。
具体的には、「デジタル化効果」を考慮する場合とそうでない場合に分けて、2022年、2023年、2024年の各第1四半期の金利環境を適用した場合のROEへの影響を、保有限度の段階別に示している(図表14<19ページ>)。
推計結果をみると、政策金利が高い時期(2024年)は「デジタル化効果」によるROEへのプラス寄与が最大である一方、これを考慮しない場合のROEの引下げ幅は大きくなる。これは、高金利の時期には預金金利と政策金利との乖離幅が大きくなる傾向があるためである。
実際、コロナ禍対策で最も政策金利が低かった2022年には、「デジタル化効果」の寄与がマイナス方向に、それを考慮しない場合のROEの変化がプラス方向に各々逆転しており、ECBも金利環境の変化が無視しえない影響を与えると指摘した。
加えて、①デジタルユーロの付加的サービスの提供による収入、 ②デジタルユーロの受払に伴う(ネットの)収入(scheme feeの免除による)、③現金利用の減少によるコスト減少等は考慮していない。ECBはこれらの点には、類似の支払手段と同様な報酬の導入、scheme feeや決済手数料の免除、欧州の銀行による標準的なacceptanceの導入による民間ソリューションの可能性といった設計面の要素が関係すると説明した。
その上で、危機は比較的短期に収束し、一時的な収益の減少は重要な問題ではないとの考えをもとに、収益面の影響は平時のシナリオに限定して分析することを表明した。
その上で、ECBは、「デジタル化効果」を考慮しない場合、保有限度が500ユーロから3000ユーロへ段階的に上昇すると、NIIの減少によってROEは9bpから18bpの幅で減少するという推計を示した(図表12<18ページ>)。一方で、「デジタル化効果」によって、保有限度に拘わらずROEが20bp増加するとし、従って、保有限度3000ユーロでもネットでROEが改善するとした。
ECBは、これらの推計結果が、過去のROEの標準偏差(2018~2024年の四半期監督データに基づく加重平均)の1.2%に過ぎず、極めて小さいと主張した。ただし、ビジネスモデルによる差異もあり、リテール向け、中小事業者向け、ユニバーサルバンクでは相対的に影響が大きいと説明した。さらに、国別にも相応のばらつきがあり、保有限度3000ユーロでは最大40bpに達する国が1つある(非公表)とした(小口預金の比率が高く、大きな資金流出が見込まれるため)。
次にECBは、銀行監督の観点から、個別行のROEに対する影響も分析した。
具体的なチェックポイントとして、①総営業利益に対するNIIの重要性(依存度の高さ)、②資金調達源としての個人預金への依存度(ウエイトの高さ)、③ビジネスモデルごとのSREP score(ECBの銀行監督における銀行の健全性とリスクの評価)と主たるリスク要因(長期的な収益と業務の持続性)を挙げた。これらの結果は具体的に示されていないが、監督上の対応や是正措置を必要とするケースはなかったとしている。
最後に、ECBは、デジタルユーロの導入後の金利環境の変化によるROEへの影響に関して感応度分析を行った。
具体的には、「デジタル化効果」を考慮する場合とそうでない場合に分けて、2022年、2023年、2024年の各第1四半期の金利環境を適用した場合のROEへの影響を、保有限度の段階別に示している(図表14<19ページ>)。
推計結果をみると、政策金利が高い時期(2024年)は「デジタル化効果」によるROEへのプラス寄与が最大である一方、これを考慮しない場合のROEの引下げ幅は大きくなる。これは、高金利の時期には預金金利と政策金利との乖離幅が大きくなる傾向があるためである。
実際、コロナ禍対策で最も政策金利が低かった2022年には、「デジタル化効果」の寄与がマイナス方向に、それを考慮しない場合のROEの変化がプラス方向に各々逆転しており、ECBも金利環境の変化が無視しえない影響を与えると指摘した。
保有限度の設定過程
なお、デジタルユーロの導入法案の決定者の一角を占める欧州理事会(European Council)のホームページには、保有限度の設定がデジタルユーロの導入と併せて5つの段階によって進められるとの説明資料が掲載されている(Launching the digital euro and setting the ceiling for the holding limit)。
第1段階は、欧州理事会での議論を踏まえて、ECBがデジタルユーロの導入予想時期を公表するものであり、導入に24か月以上先立つ日とされている。第2段階は、ECBが保有限度に関するtechnical reportを公表するものであり、導入に12か月以上先立つ日とされている。第三段階は、ECBが欧州委員会(European Commission)と合意した保有限度案を欧州理事会に議案として提出するものであり、同じく導入に12か月以上先立つ日とされている。
さらに第4段階では、第3段階での議案の提示から6か月以内にユーロ圏諸国の特別多数決(QMV:参加者の72%かつ65%の人口の代表者による賛成が条件)によって、欧州理事会が保有限度案を可決する(欧州理事会は同じくQMVによって議案の修正が可能)。これは、導入に6か月以上先立つ日とされている。最後の第5段階は、ECBによるデジタルユーロの導入だが、欧州理事会が保有限度に関する議案を最終的に承認しなかった場合には、ECBが保有限度を設定するとしている。
第1段階は、欧州理事会での議論を踏まえて、ECBがデジタルユーロの導入予想時期を公表するものであり、導入に24か月以上先立つ日とされている。第2段階は、ECBが保有限度に関するtechnical reportを公表するものであり、導入に12か月以上先立つ日とされている。第三段階は、ECBが欧州委員会(European Commission)と合意した保有限度案を欧州理事会に議案として提出するものであり、同じく導入に12か月以上先立つ日とされている。
さらに第4段階では、第3段階での議案の提示から6か月以内にユーロ圏諸国の特別多数決(QMV:参加者の72%かつ65%の人口の代表者による賛成が条件)によって、欧州理事会が保有限度案を可決する(欧州理事会は同じくQMVによって議案の修正が可能)。これは、導入に6か月以上先立つ日とされている。最後の第5段階は、ECBによるデジタルユーロの導入だが、欧州理事会が保有限度に関する議案を最終的に承認しなかった場合には、ECBが保有限度を設定するとしている。
インプリケーション
デジタルユーロの保有限度は、PSPや欧州議会から多様な意見が示されており、ECBは両者との調整を慎重に進めている。本コラムでカバーした欧州議会への回答は、暫定的との位置づけだが一定の結論を示唆する内容になっている。
分析では、監督データを使って、マクロ的な影響だけでなく、個別行レベルないしビジネスモデルごとの対応を議論している点は有用である。
この間、ECBが強調する「デジタル化効果」の大きさには議論の余地も残る。現金利用の減少が全て預金決済を伴う支払手段にシフトするとは限らず、将来のステーブルコインを含む外部へ流出する可能性もあるからだ。また、利用者が域内の別の国のPSPへ資金をシフトする可能性がどのように扱われているかは、少なくとも本報告では明確ではない。
分析では捨象されているが、銀行は預金金利を引上げて資金を引き留めようとすることも想定される。こうした反応はビジネスモデルによって異なるが、結果としてROEへの影響にも若干は波及することになる。
分析結果は、保守的な仮定でも影響は軽微というECBにとって好適な内容だが、上にみたように保有限度が厳格な過程で設定される点は気になる。もちろん、頻繁に変えるべき内容ではないが、特にデジタルユーロの導入初期には、ECBないし域内監督当局としては、実際の資金シフトを踏まえた柔軟な対応の余地を残したいはずである。
分析では、監督データを使って、マクロ的な影響だけでなく、個別行レベルないしビジネスモデルごとの対応を議論している点は有用である。
この間、ECBが強調する「デジタル化効果」の大きさには議論の余地も残る。現金利用の減少が全て預金決済を伴う支払手段にシフトするとは限らず、将来のステーブルコインを含む外部へ流出する可能性もあるからだ。また、利用者が域内の別の国のPSPへ資金をシフトする可能性がどのように扱われているかは、少なくとも本報告では明確ではない。
分析では捨象されているが、銀行は預金金利を引上げて資金を引き留めようとすることも想定される。こうした反応はビジネスモデルによって異なるが、結果としてROEへの影響にも若干は波及することになる。
分析結果は、保守的な仮定でも影響は軽微というECBにとって好適な内容だが、上にみたように保有限度が厳格な過程で設定される点は気になる。もちろん、頻繁に変えるべき内容ではないが、特にデジタルユーロの導入初期には、ECBないし域内監督当局としては、実際の資金シフトを踏まえた柔軟な対応の余地を残したいはずである。
プロフィール
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井上 哲也のポートレート 井上 哲也
金融イノベーション研究部
内外金融市場の調査やこれに関わる政策の企画、邦銀国際部門のモニタリングなどを中心とする20年超に亘る中央銀行での執務経験と、国内外の当局や金融機関、研究機関、金融メディアに構築した人脈を活かして、中央銀行の政策対応(”central banking”)に関する議論に貢献。そのための場として「金融市場パネル」を運営し、議論の成果を内外の有識者と幅広く共有するほか、各種のメディアを通じた情報と意見の発信を行っている。2012年には、姉妹パネルとして「バンキングパネル」と「日中金融円卓会合」も立ち上げ、日本の経験を踏まえた商業銀行機能のあり方や中国への教訓といった領域へとカバレッジを広げている。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。