はじめに
ECBがデジタルユーロを発行するには、欧州理事会と欧州議会の双方がRegulationに合意する必要がある。このうち欧州理事会は、 12月19日に欧州議会との交渉内容に関する合意を対外公表し、Regulationの改定案を提示した。160ページ近い大部な資料であるため、デジタルユーロの設計や運営に関して注目すべき内容に焦点を当てつつ、数回に分けて解説する。
法貨としての地位(Chapter III)
デジタルユーロの法貨としての地位は、オフラインとオンラインの双方について明記され(Article 8)、債務の弁済における追加的な課金は禁止される(Article 7)。受取人は、他のデジタル支払手段と同様な受取義務が課される(Article 8a)が、取引の場所以外での送金や引落し、現金支払のみを受入れる場合や、純粋に個人的ないし家計内活動の場合等は受取を拒否できる(Article 9)。
また、受取人は、個別の交渉に拠らない契約や商慣習によって、支払人によるユーロ建ての債務の返済におけるデジタルユーロの使用を排除したり制限することが禁止される(Article 10)。
また、受取人は、個別の交渉に拠らない契約や商慣習によって、支払人によるユーロ建ての債務の返済におけるデジタルユーロの使用を排除したり制限することが禁止される(Article 10)。
配布(Chapter IV)
PSPがデジタルユーロの支払サービスを提供できる相手は、ユーロ圏の居住者、ユーロ圏にデジタルユーロ口座を開設したが現在は非居住者、ユーロ圏への訪問者、EU域内の非ユーロ圏の居住者、第三国の居住者となる。また、PSPは、これらの主体からのデジタルユーロの受入のため、EU域内の非ユーロ圏ないし第三国の事業者(merchants)にデジタルユーロの支払サービスを提供しうる(Article 12a)。
PSPは、デジタルユーロの支払サービスを行う場合、全ての基礎的サービスを提供する義務を負う。同様に、事業者に対するacquiringサービスを行う場合、acquiringに関する全ての基礎的サービスを実施する義務を負う(Article 13)。
PSPは、利用者が他のPSPに保有するデジタルユーロ以外の口座との間での手動ないし自動での入出金サービスを行うことができるが、非ユーロ建て口座を除き、無償での提供が求められる。 PSPは、事業者にも同様のサービスを提供しうる。これらのため、 PSPはECBやNCBsに口座を持たないPSPにデジタルユーロへのアクセスを提供する義務を負う(Article 13a)。
PSPによる入出金サービスは、①ECBの設定する保有上限を超えた金額を自動的に非デジタルユーロ口座に振替、②保有額が支払額を下回る場合は自動的に非デジタルユーロ口座から振替を提供する必要がある。このため、利用者の事前の合意に基づき、デジタルユーロ口座を一つ以上の非デジタルユーロ口座に紐づける必要がある(Article 13a)。
なお、EU加盟国政府は、一つ以上のPSPを指定し、非デジタルユーロ口座を持たない個人に対する基礎的サービスを提供させる義務を負う(Article 14)。
PSPは、デジタルユーロの支払サービスを行う場合、全ての基礎的サービスを提供する義務を負う。同様に、事業者に対するacquiringサービスを行う場合、acquiringに関する全ての基礎的サービスを実施する義務を負う(Article 13)。
PSPは、利用者が他のPSPに保有するデジタルユーロ以外の口座との間での手動ないし自動での入出金サービスを行うことができるが、非ユーロ建て口座を除き、無償での提供が求められる。 PSPは、事業者にも同様のサービスを提供しうる。これらのため、 PSPはECBやNCBsに口座を持たないPSPにデジタルユーロへのアクセスを提供する義務を負う(Article 13a)。
PSPによる入出金サービスは、①ECBの設定する保有上限を超えた金額を自動的に非デジタルユーロ口座に振替、②保有額が支払額を下回る場合は自動的に非デジタルユーロ口座から振替を提供する必要がある。このため、利用者の事前の合意に基づき、デジタルユーロ口座を一つ以上の非デジタルユーロ口座に紐づける必要がある(Article 13a)。
なお、EU加盟国政府は、一つ以上のPSPを指定し、非デジタルユーロ口座を持たない個人に対する基礎的サービスを提供させる義務を負う(Article 14)。
価値保蔵と支払のための手段(Chapter V)
金融安定と金融政策の運営のため、デジタルユーロの価値保蔵手段としての利用に制限が課される。また、法貨としての利用の確保と受取人への過大な課金の防止、PSPに対する適切なコスト補償の観点から、利用者がPSPに支払手数料やPSP間での手数料には制限を設ける(Article 15)。
デジタルユーロの価値保蔵手段としての利用を制限するため、 ECBは保有上限を設定する義務を負うほか、他の手段を導入できる。保有上限は個人と法人で異なる金額とし得るほか、デジタルユーロの最初の発行以前に決定する必要がある。また、デジタルユーロへの付利は禁止される(Article 16)。
これらの措置に際しては、①ユーロ圏の金融安定、②デジタルユーロの法貨としての利便性、③政策のproportionality、④金融システムの構造や銀行のビジネスモデルの変化等を考慮する必要がある(Article 16)。
保有上限はオンラインとオフラインの合計に課され、利用者が後者を設定し、前者はECBによる保有上限と後者との差となる。複数口座を保有する利用者は、各PSPに保有上限の割り振りを通知する必要がある。ユーロ圏の居住者以外への保有上限は、ユーロ圏の居住者の保有上限を上回らない(Article 16)。
保有制限は、法人と個人の総限度(overall ceiling)に服する。 ECBは、デジタルユーロの発行予定日を少なくとも2年前に公表する必要がある。また少なくとも1年前には、欧州委員会と合意したtechnical reportを欧州理事会に提出し、総限度の決定を推薦する必要がある(Article 16a)。
欧州理事会は、推薦後6か月以内に特定多数決によって総限度の実施を決定する。期間内に決定できない場合はECBが推薦内容通りに決定できる。総限度は、少なくとも2年ごとに見直しを行う(Article 16a)。
PSPは、個人に対する基礎的サービスに手数料を賦課できない。ただし、現金との交換に対しては、現金と非デジタルユーロ資産との交換手数料の最低限を上回らない範囲で手数料を賦課できる。付加的サービスにも手数料を賦課できる(Article 17)。
移行期間(後述)には、事業者への手数料(MSC)とPSP間の手数料には上限が設定される。PSPは、事業者への基礎的サービスの提供で、MSC以外の手数料を賦課できない(係争処理を除く)。また、事業者にPSP間の手数料を適用することも禁止される(Article 17)。
移行期間中の上限は、欧州委員会がECBの支援(定期的な調査等)を受けて設定し、レビューを行う。上限はユーロ圏で一律とするが、EU域内国は国内の受取人に対して、それより低い上限を設定できる(Article 17a)。移行期間の経過後は、手数料は適度なマージンを含むコストを超えないこととし、上限はユーロ圏で一律とする。欧州委員会がECBの支援(定期的な調査等)を受けてそのためのレビューを行う(Article 17)。
上限の設定は、各国の支払サービスでコスト効率的なPSPの代表的グループのデータに基づいて決定する。同データは、PSPが提供するものに加え会計情報等による。移行期間の上限は、個人向けのデビットカードについて、MSCとPSP間の手数料の取引量による加重平均(12か月)に基づく(Article 17b)。
デジタルユーロの発行5年後に、欧州委員会は①デジタルユーロの支払サービスに関するPSPのコスト、②平均ユニットコストの安定性、③上限の適用状況を評価し、欧州委員会は移行期間を終了する。条件が満たされていない場合、欧州委員会は発行後10年までは毎年評価を行う(Article 17c)。
手数料の上限はオフライン支払にも同じく適用される。受取側のPSPはECBが運営する基金にPSP間の手数料相当分を移転することが求められる。ECBは、支払側のPSPに対して入出金サービスの規模に応じて分配する(Article 17d)。
デジタルユーロの価値保蔵手段としての利用を制限するため、 ECBは保有上限を設定する義務を負うほか、他の手段を導入できる。保有上限は個人と法人で異なる金額とし得るほか、デジタルユーロの最初の発行以前に決定する必要がある。また、デジタルユーロへの付利は禁止される(Article 16)。
これらの措置に際しては、①ユーロ圏の金融安定、②デジタルユーロの法貨としての利便性、③政策のproportionality、④金融システムの構造や銀行のビジネスモデルの変化等を考慮する必要がある(Article 16)。
保有上限はオンラインとオフラインの合計に課され、利用者が後者を設定し、前者はECBによる保有上限と後者との差となる。複数口座を保有する利用者は、各PSPに保有上限の割り振りを通知する必要がある。ユーロ圏の居住者以外への保有上限は、ユーロ圏の居住者の保有上限を上回らない(Article 16)。
保有制限は、法人と個人の総限度(overall ceiling)に服する。 ECBは、デジタルユーロの発行予定日を少なくとも2年前に公表する必要がある。また少なくとも1年前には、欧州委員会と合意したtechnical reportを欧州理事会に提出し、総限度の決定を推薦する必要がある(Article 16a)。
欧州理事会は、推薦後6か月以内に特定多数決によって総限度の実施を決定する。期間内に決定できない場合はECBが推薦内容通りに決定できる。総限度は、少なくとも2年ごとに見直しを行う(Article 16a)。
PSPは、個人に対する基礎的サービスに手数料を賦課できない。ただし、現金との交換に対しては、現金と非デジタルユーロ資産との交換手数料の最低限を上回らない範囲で手数料を賦課できる。付加的サービスにも手数料を賦課できる(Article 17)。
移行期間(後述)には、事業者への手数料(MSC)とPSP間の手数料には上限が設定される。PSPは、事業者への基礎的サービスの提供で、MSC以外の手数料を賦課できない(係争処理を除く)。また、事業者にPSP間の手数料を適用することも禁止される(Article 17)。
移行期間中の上限は、欧州委員会がECBの支援(定期的な調査等)を受けて設定し、レビューを行う。上限はユーロ圏で一律とするが、EU域内国は国内の受取人に対して、それより低い上限を設定できる(Article 17a)。移行期間の経過後は、手数料は適度なマージンを含むコストを超えないこととし、上限はユーロ圏で一律とする。欧州委員会がECBの支援(定期的な調査等)を受けてそのためのレビューを行う(Article 17)。
上限の設定は、各国の支払サービスでコスト効率的なPSPの代表的グループのデータに基づいて決定する。同データは、PSPが提供するものに加え会計情報等による。移行期間の上限は、個人向けのデビットカードについて、MSCとPSP間の手数料の取引量による加重平均(12か月)に基づく(Article 17b)。
デジタルユーロの発行5年後に、欧州委員会は①デジタルユーロの支払サービスに関するPSPのコスト、②平均ユニットコストの安定性、③上限の適用状況を評価し、欧州委員会は移行期間を終了する。条件が満たされていない場合、欧州委員会は発行後10年までは毎年評価を行う(Article 17c)。
手数料の上限はオフライン支払にも同じく適用される。受取側のPSPはECBが運営する基金にPSP間の手数料相当分を移転することが求められる。ECBは、支払側のPSPに対して入出金サービスの規模に応じて分配する(Article 17d)。
ユーロ圏外への配布(Chapter VI)
ECBと当該国のNCBの事前合意を条件に、EU域内の非ユーロ圏のPSPも自国の個人や法人にデジタルユーロの支払サービスを提供できる。この合意は、①当該国政府による欧州理事会、欧州委員会、ECBに対する通知、②当該国のNCBによるデジタルユーロのルールやガイドライン等(ECBが設定)の遵守、③デジタルユーロの使用等に関する情報提供が条件であるほか、法制面の必要な対応が前提(Article 18)。
EUと当該国による事前合意を条件に、デジタルユーロは第三国に配布できる。この合意は、①第三国の中央銀行ないし金融当局によるデジタルユーロのルールやガイドライン(ECBが決定)の遵守、 ②同中央銀行ないし金融当局によるデジタルユーロの使用等に関する情報提供、③デジタルユーロのルールやガイドラインを遵守するための法制面の対応、④仲介機関に対するEUと同等な水準での監督と規制が条件。これらの合意は、ECBと当該国のNCBまたは金融当局の合意によって補完される(Article 19)。
EUと金融条約を締結している国や地域(Andora, Monaco, Saint-Pierre等)にも、条約の改定を条件にデジタルユーロを配布できる(Article 20)。
ユーロ圏とEU域内の非ユーロ圏のデジタルユーロと他通貨とのクロスボーダー支払は、ECBと相手国のNCBとの間の既存の取り決めに服する。ECBとNCBは相互運用性に注力する(Article 21)。
EUと当該国による事前合意を条件に、デジタルユーロは第三国に配布できる。この合意は、①第三国の中央銀行ないし金融当局によるデジタルユーロのルールやガイドライン(ECBが決定)の遵守、 ②同中央銀行ないし金融当局によるデジタルユーロの使用等に関する情報提供、③デジタルユーロのルールやガイドラインを遵守するための法制面の対応、④仲介機関に対するEUと同等な水準での監督と規制が条件。これらの合意は、ECBと当該国のNCBまたは金融当局の合意によって補完される(Article 19)。
EUと金融条約を締結している国や地域(Andora, Monaco, Saint-Pierre等)にも、条約の改定を条件にデジタルユーロを配布できる(Article 20)。
ユーロ圏とEU域内の非ユーロ圏のデジタルユーロと他通貨とのクロスボーダー支払は、ECBと相手国のNCBとの間の既存の取り決めに服する。ECBとNCBは相互運用性に注力する(Article 21)。
技術的特徴(Chapter VII)
デジタルユーロは、障碍者やデジタルスキルに限界のある者、高齢者も含む利用者に対し、簡単で使いやすい機能を備えることが必要。利用者はデジタルユーロの口座開設に際し、PSPから他の口座やサービスの受入れを求められない。個々のデジタルユーロ口座には、ECBないしNCBによる固有のaccess番号を付与。PSPは利用者の要請によりproxy aliasの付与が可能。ECBはその利用を第三者に委託することが可能(Article 22)。
個人は一つのPSPに少なくとも一つのデジタルユーロ口座を開設可能。法人や自営業者は、単一ないし複数のPSPに複数のデジタルユーロ口座を開設可能。PSPは全ての利用者に、デジタルユーロの物理的支払手段と非物理的支払手段を各々少なくとも一つ提供することが必要。個人は無償で一つの手段を入手可能。(Article 22)。
デジタルユーロのacquiringサービスを提供するPSPは、顧客に対し、特定の通信手段でのデジタルユーロへのアクセスを確保することが必要。個人向けの支払手段と顧客向けの通信手段については、原則としてECBが設定するルールや標準に従う(Article 22)。
デジタルユーロは、最初の発行日からオンラインとオフラインの双方の支払に利用しうる。両者は、利用者の要請により等価でお互いに交換できる。利用者は支払がいずれによるかを確認する(定期的支払等での事前決定も可能)。媒体が対応する場合には、オフラインの利用者は自動入金を利用できるようにする(Article 23)。
PSPと利用者が条件付支払を行えるようにするため、ECBは、① PSPが相互運用性ある条件付支払を行うためのルールや標準の設定、②条件付支払を可能とするためのインフラ面での対応を行う。ただし、デジタルユーロはprogrammableではない(Article 24)。
ECBは、プライバシーの保護やデータ保護、セキュリティ、回復力、不正防止の観点を中心とする技術進歩をモニターする。また、規模の柔軟性、安全性への影響、効率性や技術確認、依存する要素やリスクを考慮した上で、新技術をインフラに取り込む(Article 24a)。
利用者のインターフェイスは、European Digital Identity Wallet(EDIW)と相互運用的ないし一体でなければならない。PSPは、利用者の要請に応じ、EDIWの機能にのみ依存することができるようにしなければならない(Article 25)。
ECBは、可能な限り、民間の支払手段の標準とデジタルユーロの支払サービスの標準の相互運用性を確保しなければならない(Article 26)。
PSPは、①インターフェイスでのデジタルユーロの公式ロゴの表示、②インターフェイスへの迅速かつ簡単なアクセスを確保することが必要。PSPのインターフェイスが一時的に利用できない場合などは、利用者に対してECBないしNCBのインターフェイスを利用するよう促すことが必要。この場合、利用者とECBないしNCBとの契約関係は生じないほか、ECBやNCBは個人情報にアクセスできない(Article 28)。
PSPは利用者が金融制裁の対象でないことを確認する義務を負う。ただし、支払の執行途上では、支払側と受取側の双方ともにそうした確認を行うことは禁止される(Article 29)。
オンラインとオフラインの支払ともに、決済は24時間いかなる日でも完了する。PSPとECBやNCBは即時に決済を行う義務を負う。オンライン支払の最終決済は、ECBないしNCBのインフラにおける支払側PSPと受取側のPSPの資金移動の記録による。オフライン支払の最終決済は、支払者と受取者の媒体における保有記録の更新による(Article 30)。
オンライン支払の支払指図の受領のタイミングは、原則として支払側のPSPによる受領とするが、前払等の場合は合意の日とする。また、非電子的は支払指図の場合は支払側PSPによるデータの入力、一括での支払指図の場合は支払側PSPによるデータの変換を各々受領のタイミングとする(Article 30a)。
個人は一つのPSPに少なくとも一つのデジタルユーロ口座を開設可能。法人や自営業者は、単一ないし複数のPSPに複数のデジタルユーロ口座を開設可能。PSPは全ての利用者に、デジタルユーロの物理的支払手段と非物理的支払手段を各々少なくとも一つ提供することが必要。個人は無償で一つの手段を入手可能。(Article 22)。
デジタルユーロのacquiringサービスを提供するPSPは、顧客に対し、特定の通信手段でのデジタルユーロへのアクセスを確保することが必要。個人向けの支払手段と顧客向けの通信手段については、原則としてECBが設定するルールや標準に従う(Article 22)。
デジタルユーロは、最初の発行日からオンラインとオフラインの双方の支払に利用しうる。両者は、利用者の要請により等価でお互いに交換できる。利用者は支払がいずれによるかを確認する(定期的支払等での事前決定も可能)。媒体が対応する場合には、オフラインの利用者は自動入金を利用できるようにする(Article 23)。
PSPと利用者が条件付支払を行えるようにするため、ECBは、① PSPが相互運用性ある条件付支払を行うためのルールや標準の設定、②条件付支払を可能とするためのインフラ面での対応を行う。ただし、デジタルユーロはprogrammableではない(Article 24)。
ECBは、プライバシーの保護やデータ保護、セキュリティ、回復力、不正防止の観点を中心とする技術進歩をモニターする。また、規模の柔軟性、安全性への影響、効率性や技術確認、依存する要素やリスクを考慮した上で、新技術をインフラに取り込む(Article 24a)。
利用者のインターフェイスは、European Digital Identity Wallet(EDIW)と相互運用的ないし一体でなければならない。PSPは、利用者の要請に応じ、EDIWの機能にのみ依存することができるようにしなければならない(Article 25)。
ECBは、可能な限り、民間の支払手段の標準とデジタルユーロの支払サービスの標準の相互運用性を確保しなければならない(Article 26)。
PSPは、①インターフェイスでのデジタルユーロの公式ロゴの表示、②インターフェイスへの迅速かつ簡単なアクセスを確保することが必要。PSPのインターフェイスが一時的に利用できない場合などは、利用者に対してECBないしNCBのインターフェイスを利用するよう促すことが必要。この場合、利用者とECBないしNCBとの契約関係は生じないほか、ECBやNCBは個人情報にアクセスできない(Article 28)。
PSPは利用者が金融制裁の対象でないことを確認する義務を負う。ただし、支払の執行途上では、支払側と受取側の双方ともにそうした確認を行うことは禁止される(Article 29)。
オンラインとオフラインの支払ともに、決済は24時間いかなる日でも完了する。PSPとECBやNCBは即時に決済を行う義務を負う。オンライン支払の最終決済は、ECBないしNCBのインフラにおける支払側PSPと受取側のPSPの資金移動の記録による。オフライン支払の最終決済は、支払者と受取者の媒体における保有記録の更新による(Article 30)。
オンライン支払の支払指図の受領のタイミングは、原則として支払側のPSPによる受領とするが、前払等の場合は合意の日とする。また、非電子的は支払指図の場合は支払側PSPによるデータの入力、一括での支払指図の場合は支払側PSPによるデータの変換を各々受領のタイミングとする(Article 30a)。
ここまでのインプリケーション
注目されるのは、デジタルユーロの配布対象として第三国を含む広範囲を想定している点である。保有制限の厳格化や金融規制・監督における「同等性評価」等の課題はあるが、まずはEU内の非ユーロ圏の対応が注目される。
保有制限に関しては設定方法のみを規定しており、ECBの実質的な役割が大きい。また、総上限(overall ceiling)の規定も興味深いが、金融政策等の観点から大きめの水準に設定し、平時には制約とならない運営が考えられる。一方、オンラインとオフラインへの制限額の振り分けについては、利用者とPSPの双方からみて実務的に回るかという疑問がある。
手数料の上限設定も優れているが、納得性のある水準の設定は難しい。このRegulationも認めているように、域内国で最適水準が異なる面もある。その意味では、これらもある程度高めに設定して、実質的な制約を少なくすることが考えられる。
PSPによるAcquiringについて明示的な規定を置いているのは、ユーロ圏では銀行が主たる役割を果たしているからであり、多様な業態が役割を果たしている日本ではより複雑な議論となる。
保有制限に関しては設定方法のみを規定しており、ECBの実質的な役割が大きい。また、総上限(overall ceiling)の規定も興味深いが、金融政策等の観点から大きめの水準に設定し、平時には制約とならない運営が考えられる。一方、オンラインとオフラインへの制限額の振り分けについては、利用者とPSPの双方からみて実務的に回るかという疑問がある。
手数料の上限設定も優れているが、納得性のある水準の設定は難しい。このRegulationも認めているように、域内国で最適水準が異なる面もある。その意味では、これらもある程度高めに設定して、実質的な制約を少なくすることが考えられる。
PSPによるAcquiringについて明示的な規定を置いているのは、ユーロ圏では銀行が主たる役割を果たしているからであり、多様な業態が役割を果たしている日本ではより複雑な議論となる。
プロフィール
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井上 哲也のポートレート 井上 哲也
金融イノベーション研究部
内外金融市場の調査やこれに関わる政策の企画、邦銀国際部門のモニタリングなどを中心とする20年超に亘る中央銀行での執務経験と、国内外の当局や金融機関、研究機関、金融メディアに構築した人脈を活かして、中央銀行の政策対応(”central banking”)に関する議論に貢献。そのための場として「金融市場パネル」を運営し、議論の成果を内外の有識者と幅広く共有するほか、各種のメディアを通じた情報と意見の発信を行っている。2012年には、姉妹パネルとして「バンキングパネル」と「日中金融円卓会合」も立ち上げ、日本の経験を踏まえた商業銀行機能のあり方や中国への教訓といった領域へとカバレッジを広げている。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。