はじめに
政策金利の据え置きを決定したECBの12月理事会では、インフレ目標の達成と経済活動の底堅さを確認した。もっとも、次の政策変更の方向性については慎重さを維持した。
世界経済の評価
理事会メンバーは、世界経済の見通しが改善したと評価しつつ、世界貿易の想定以下の減速が米国の関税引上げの影響を抑制している点を確認した。もっとも、世界経済の成長率は前年より低調である点も確認したほか、中国の製品や技術が世界市場でのプレゼンスを高めている点に「第二の中国ショック」として注目し、低価格での輸入圧力に警戒感を示した。
ユーロ圏の経済活動の評価
理事会メンバーは、経済活動が消費と設備投資を主因に底堅いほか、輸出も化学品により増加した点を確認した。産業別には情報通信が強く、製造や建設は横ばいとしたほか、域内国政府によるインフラ投資と防衛費増加が設備投資に寄与した点を指摘した。また労働市場は引続き強く、失業率も歴史的低位にあるが、労働需要は軟化し、未充足求人がコロナ禍以降で最低になった点も確認した。
先行きについては、ドイツを中心とする設備投資の上振れや、賃金上昇による消費の上振れにより、潜在成長率をやや上回る成長を示し、需給ギャップが想定より早く改善するとの見通しが示された。
これに対し、上振れ見通しは設備投資と輸出という不安定要素に依存している点や、米国の関税引上げの影響の時間的ラグを挙げて、疑問を示す向きもあった。また、独仏の両国の景気回復の弱さに懸念が示されたほか、家計も、域内国の財政の持続可能性への懸念により、Ricardian効果を通じて消費を抑制する恐れが指摘され、ECBによるサーベイ結果とも整合的とされた。
さらに理事会メンバーは、足元の経済活動は構造要因の重要さを示唆し、設備投資の増加とTFPの改善によって潜在成長率の上昇とインフレの抑制が可能と指摘したほか、低位な潜在成長率は構造問題であり、金融政策では解決できないとの見方を示した。
なお、域内国政府による防衛費の増加の効果については、複雑な問題とした上で、財政乗数ないし生産への寄与は小さいとの見方と、輸入依存度やR&Dへの影響如何では、想定以上の財政乗数となるとの見方の双方が示された。
先行きについては、ドイツを中心とする設備投資の上振れや、賃金上昇による消費の上振れにより、潜在成長率をやや上回る成長を示し、需給ギャップが想定より早く改善するとの見通しが示された。
これに対し、上振れ見通しは設備投資と輸出という不安定要素に依存している点や、米国の関税引上げの影響の時間的ラグを挙げて、疑問を示す向きもあった。また、独仏の両国の景気回復の弱さに懸念が示されたほか、家計も、域内国の財政の持続可能性への懸念により、Ricardian効果を通じて消費を抑制する恐れが指摘され、ECBによるサーベイ結果とも整合的とされた。
さらに理事会メンバーは、足元の経済活動は構造要因の重要さを示唆し、設備投資の増加とTFPの改善によって潜在成長率の上昇とインフレの抑制が可能と指摘したほか、低位な潜在成長率は構造問題であり、金融政策では解決できないとの見方を示した。
なお、域内国政府による防衛費の増加の効果については、複雑な問題とした上で、財政乗数ないし生産への寄与は小さいとの見方と、輸入依存度やR&Dへの影響如何では、想定以上の財政乗数となるとの見方の双方が示された。
物価情勢の評価
理事会メンバーは、インフレ率が2%近傍にあり、足元でエネルギー価格の下落の影響が大きい点を確認した。また、賃金上昇の高止まり(第3四半期は前年比4%)が想定外であったと指摘し、この点がサービス価格の減速の鈍さに繋がったと指摘した。
もっとも、サービス価格の高止まりはドイツなどでの旅行関連の価格上昇が主因であるとの指摘や、財価格とサービス価格の上昇率の乖離は生産性の違いを映じたBalassa-Samuelson効果に過ぎないとの指摘もあった。
先行きについては、エネルギー価格の減速を主因に、2026~27年の減速見通しを確認した。もっとも、賃金上昇が、過去のキャッチアップに止まらず、退職者の増加や移民の減少に伴う労働供給の減少と、サービス業や防衛産業等での人手不足によって強まる結果、インフレが上振れするとの指摘もあった。これに対し、賃金の想定以上の上昇は独仏両国に限られ、域内国で状況が異なるとの指摘もあった。
理事会メンバーは、中国からの輸入価格の低下が従来より早い点や海外市場での中国製品の価格競争力の強化に懸念を示した。もっとも、HICPインフレ率への影響は不明確との指摘や、サービスと財のインフレ格差に注目すべきとの意見もあった。
また、住宅価格の上昇がインフレの上振れに繋がるとの見方が示された一方、供給制約に対する調整過程にあるとして、金融政策では重視すべきでないとの意見もあった。
この間、中長期のインフレ期待は、市場ベースとサーベイベースがともに2%近傍で安定している点を確認した。
もっとも、サービス価格の高止まりはドイツなどでの旅行関連の価格上昇が主因であるとの指摘や、財価格とサービス価格の上昇率の乖離は生産性の違いを映じたBalassa-Samuelson効果に過ぎないとの指摘もあった。
先行きについては、エネルギー価格の減速を主因に、2026~27年の減速見通しを確認した。もっとも、賃金上昇が、過去のキャッチアップに止まらず、退職者の増加や移民の減少に伴う労働供給の減少と、サービス業や防衛産業等での人手不足によって強まる結果、インフレが上振れするとの指摘もあった。これに対し、賃金の想定以上の上昇は独仏両国に限られ、域内国で状況が異なるとの指摘もあった。
理事会メンバーは、中国からの輸入価格の低下が従来より早い点や海外市場での中国製品の価格競争力の強化に懸念を示した。もっとも、HICPインフレ率への影響は不明確との指摘や、サービスと財のインフレ格差に注目すべきとの意見もあった。
また、住宅価格の上昇がインフレの上振れに繋がるとの見方が示された一方、供給制約に対する調整過程にあるとして、金融政策では重視すべきでないとの意見もあった。
この間、中長期のインフレ期待は、市場ベースとサーベイベースがともに2%近傍で安定している点を確認した。
金融政策の運営
理事会メンバーは、政策反応関数の3つの要素を順次検討した。まず、インフレ見通しに関しては、インフレ率が2%近傍にあり、変動が少ない点を歓迎した。その上で、ほとんど(most)のメンバーは、リスクが上下双方にあり、通常より不透明性が高いとの評価を維持した。
もっとも、数名(some)のメンバーは下方リスクが大きいとし、関税引上げによる外需減少の顕在化、中国からの輸入圧力、米国の金融政策を映じたユーロ高、AI投資による供給力の増加などを要因として挙げた。また、域内国の財政の持続可能性への懸念による消費の抑制や、賃金上昇の減速等も指摘した。
これに対し、数名(a few)のメンバーは上方リスクが大きいとし、賃金とサービス価格の上昇の高止まり、域内国のインフラ投資や防衛費の増加、財政支出の拡大に対する間接税の引上げ、サプライチェーンの混乱や戦略物資の供給制約、エネルギー価格の高止まり、異常気象などを要因として挙げた。
基調的インフレに関しては、関連指標が2%目標と整合的である点に合意した。もっとも、コアHICPインフレ率の上振れを確認し、 ULCや一人当たり所得の上昇を指摘した上で、サービス価格を注視すべきとした。
最後に、政策効果の波及は引続き円滑で効果的と評価したが、銀行のNBFIへの与信増加に伴う企業向け貸出のクラウディングアウトや金融市場の急激な調整のリスクに対する指摘もあった。
これらを踏まえ、理事会メンバーの全員が政策金利の据え置きに同意し、金融政策が十分な柔軟性を有しているとの考えを確認した。ただし、そうした状況は固定的(static)でなく、特に賃金やサービス価格、消費や設備投資の動向を注視すべきとした。
その上で、下方リスクの減退や自然利子率の上昇の下で政策金利を長期に亘って据え置くことが適当との意見と、景気回復は脆弱であり、インフレ率の下振れはインフレ期待の不安定化を招くとの指摘に加えて、ECBのインフレ目標は上下対称である点を挙げて、利下げに対する柔軟さの維持を示唆する意見の双方が示された。
もっとも、数名(some)のメンバーは下方リスクが大きいとし、関税引上げによる外需減少の顕在化、中国からの輸入圧力、米国の金融政策を映じたユーロ高、AI投資による供給力の増加などを要因として挙げた。また、域内国の財政の持続可能性への懸念による消費の抑制や、賃金上昇の減速等も指摘した。
これに対し、数名(a few)のメンバーは上方リスクが大きいとし、賃金とサービス価格の上昇の高止まり、域内国のインフラ投資や防衛費の増加、財政支出の拡大に対する間接税の引上げ、サプライチェーンの混乱や戦略物資の供給制約、エネルギー価格の高止まり、異常気象などを要因として挙げた。
基調的インフレに関しては、関連指標が2%目標と整合的である点に合意した。もっとも、コアHICPインフレ率の上振れを確認し、 ULCや一人当たり所得の上昇を指摘した上で、サービス価格を注視すべきとした。
最後に、政策効果の波及は引続き円滑で効果的と評価したが、銀行のNBFIへの与信増加に伴う企業向け貸出のクラウディングアウトや金融市場の急激な調整のリスクに対する指摘もあった。
これらを踏まえ、理事会メンバーの全員が政策金利の据え置きに同意し、金融政策が十分な柔軟性を有しているとの考えを確認した。ただし、そうした状況は固定的(static)でなく、特に賃金やサービス価格、消費や設備投資の動向を注視すべきとした。
その上で、下方リスクの減退や自然利子率の上昇の下で政策金利を長期に亘って据え置くことが適当との意見と、景気回復は脆弱であり、インフレ率の下振れはインフレ期待の不安定化を招くとの指摘に加えて、ECBのインフレ目標は上下対称である点を挙げて、利下げに対する柔軟さの維持を示唆する意見の双方が示された。
プロフィール
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井上 哲也のポートレート 井上 哲也
金融イノベーション研究部
内外金融市場の調査やこれに関わる政策の企画、邦銀国際部門のモニタリングなどを中心とする20年超に亘る中央銀行での執務経験と、国内外の当局や金融機関、研究機関、金融メディアに構築した人脈を活かして、中央銀行の政策対応(”central banking”)に関する議論に貢献。そのための場として「金融市場パネル」を運営し、議論の成果を内外の有識者と幅広く共有するほか、各種のメディアを通じた情報と意見の発信を行っている。2012年には、姉妹パネルとして「バンキングパネル」と「日中金融円卓会合」も立ち上げ、日本の経験を踏まえた商業銀行機能のあり方や中国への教訓といった領域へとカバレッジを広げている。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。