&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

はじめに

政策金利の現状維持を決定した1月のFOMCでは、雇用の下方リスクが後退したとの見方が共有された。もっとも、今後の政策金利については、現状維持、利下げの可能性、利上げの可能性の3つに意見が分かれた。

物価情勢の評価

FOMCメンバーは、インフレ率が2022年のピークから顕著に減速したが、2%目標に比べて幾分高い点を確認した。この間、関税引上げによるコア財の上昇が寄与している一方、住居関連を中心とするコアサービスのディスインフレの進行を確認した。

今後については、2%目標に向けて低下するが、ペースや時期に不透明性が残るとの見方や、関税引上げのコア財価格への影響は本年中に減衰し始めるとの見方を共有した。

また、数名(several)が住居費による下押し圧力の継続、数名(several)が技術革新や規制緩和による生産性の高い伸びによる下押し圧力を各々指摘した。さらに、数名(a few)は、企業による自動化等がコスト上昇圧力を相殺し、消費者物価への転嫁ないし企業収益の圧縮の必要性を低下させていると指摘した。

ただし、ほとんど(most)のメンバーは、インフレ率の2%目標への収斂は想定より遅くかつ不均一で、2%目標に対して持続的に高止まるリスクが相応にある(meaningful)との見方で一致した。さらに、数名(some)は本年中の値上げを示唆する企業がある点、数名(several)は持続的な総需要によるインフレの上昇圧力を指摘した。

FOMCメンバーは長期のインフレ期待が2%のインフレ目標と整合的である点を確認した。また、数名(several)のメンバーは、短期のインフレ期待が昨年春のピーク対比で低下した点を指摘した。

経済情勢の評価

FOMCメンバーは経済活動が力強く拡大した点を確認した。また、消費が家計資産の増加によって底堅いとの見方を広く(generally)共有したが、数名(several)は高所得層と低所得層での消費の乖離を指摘した。一方、設備投資はIT部門を中心に引続き力強い点を確認した。

今後については、本年中の力強い経済成長を予想しつつ、見通しの不透明性が高いとの見方も広く(generally)共有した。ほとんど(most)のメンバーは、緩和的な金融環境、財政政策、規制緩和による経済成長の支援に期待を示した。また、数名(several)は、AI関連の高水準の設備投資と生産性の上昇が経済成長に寄与するとの見方を示した。

労働市場についてFOMCメンバーは、失業率が概ね安定する一方、雇用増が低位である点を確認した。ほとんど(most)のメンバーは、失業率、lay off、未充足求人等をもとに、労働市場が軟化後に安定したとの見方を示した。

もっとも、大多数(almost all)は、lay offと新規雇用の双方が低位である点を確認した。さらに、数名(several)は先行きの不透明性やAI等のため雇用を慎重化する動きが見られる点、数名(some)は移民の減少等の供給制約の影響を指摘した。

今後については、適切な金融政策の下で労働市場は本年中は安定するが、見通しの不透明性が引続き高いとの見方を広 く(generally)共有した。また、大多数(vast majority)は、労働市場が安定の兆しを見せ、下方リスクは後退したとの見方に同意した。

もっとも、数名(some)は、雇用機会に関するサーベイ結果や経済的理由によるパート労働の増加は労働市場の軟化を示唆すると主張した。また、ほとんど(most)のメンバーが労働市場の下方リスクの残存を認め、特に数名(some)は、雇用が低調である下で労働需要が一段と低下することによる影響、あるいは雇用増の景気感応度の低い部門への集中に対して懸念を示した。

金融政策の運営

FOMCメンバーは、インフレ率がやや高止まる一方、経済活動が力強く拡大した点を確認した。また、雇用増は低調だが、失業率に安定の兆しがみられる点を確認し、ほとんど全員(almost all)が政策金利の現状維持を支持した。

現状維持を支持したメンバーは、既往の75bpの利下げによって、現在の政策スタンスが中立水準の推計値の範囲にあると判断した。また、今回のFOMCで政策金利を現状のまま維持することは、今後のデータや見通しの推移、リスクバランスに基づいて、金融政策の調整の程度や時期を判断する上で良い立ち位置(well positioned)をもたらすとの見方を示した。

これに対し利下げを支持したメンバーは、現在の政策スタンスは依然として相応に(meaningful)引締め的であり、インフレの高止まりのリスクよりも雇用の下方リスクの方が政策的に重要と主張した。

今後については、数名(several)のメンバーが、インフレが見通し通りに減速すれば、更なる利下げが適当と指摘した。これに対し数名(some)は、今後のデータを精査する間は現状維持が適当との考えを示したほか、ディスインフレが確実に軌道に乗るとの明確な兆しがあるまで利下げは正当化されないと主張した。

さらに、数名(several)は、インフレが2%目標に対して高止まった場合には利上げもありうるとして、(声明文等で)政策金利には上下双方への調整の可能性があるとの表現(two-sided description)があれば、それを支持した可能性を示唆した。その上で、FOMCメンバーの全員は、金融政策には予め決まったパスはない点を確認した。

リスクマネジメントについてFOMCメンバーは、大多数(a vast majority)が、雇用の下方リスクが足元で後退した一方、インフレが持続化するリスクは引続き残ると評価した。もっとも、数名(some)は両者のリスクがバランスしたと評価した。また、数名(several)は、インフレが高止まりする中での利下げは、FRBによるインフレ目標の達成に対するコミットメントが弱まったとの印象を与え、インフレを持続化するとの懸念を示した。

これに対し、数名(a few)は、インフレの減速に対する自信を示しつつ、労働市場が顕著に悪化するリスクを強調した。これらのメンバーは、金融政策の過度な引締めを維持することが労働市場の悪化を招くと恐れがあるとした。その上でFOMCメンバーは、 2つの政策目標の達成のために、リスクを注意深くバランスさせる必要がある点を確認した。

プロフィール

  • 井上 哲也のポートレート

    井上 哲也

    金融イノベーション研究部

    

    内外金融市場の調査やこれに関わる政策の企画、邦銀国際部門のモニタリングなどを中心とする20年超に亘る中央銀行での執務経験と、国内外の当局や金融機関、研究機関、金融メディアに構築した人脈を活かして、中央銀行の政策対応(”central banking”)に関する議論に貢献。そのための場として「金融市場パネル」を運営し、議論の成果を内外の有識者と幅広く共有するほか、各種のメディアを通じた情報と意見の発信を行っている。2012年には、姉妹パネルとして「バンキングパネル」と「日中金融円卓会合」も立ち上げ、日本の経験を踏まえた商業銀行機能のあり方や中国への教訓といった領域へとカバレッジを広げている。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。