金利・預金準備率引下げ
人民銀行は8月25日に金利と預金準備率をさらに引下げると発表した。中国景気を見ると、8月の景況感指数がさらに低下するなど減速傾向にあることや株式市場が再び不安定化していることなどを考慮したものと見られる。
昨年以降の一連の金融緩和を振り返ると、以下のようになる。
- 2014年11月22日 利下げ(下げ幅は1年物貸出金利0.4%、同預金金利0.25%)
- 2015年2月5日 預金準備率引下げ(0.5%引下げ。零細企業向け貸出の割合が一定基準を超えた都市商業銀行・農村商業銀行は1.0%引下げ。中国農業発展銀行は4.5%引下げ)
- 3月1日 利下げ(貸出・預金金利とも0.25%)
- 4月20日 預金準備率引下げ(1.0%引下げ。農業・零細企業向け貸出の優遇措置有り)
- 5月11日 利下げ(貸出・預金金利とも0.25%)
- 8月25日 利下げ(貸出・預金金利とも0.25%。26日実施)、預金準備率引下げ(0.5%引下げ。農業・零細企業向け貸出を考慮した優遇措置、及び、消費拡大のための金融リース会社・自動車金融会社への優遇措置有り)
今回、預金・貸出金利(1年物)はともに0.25%引下げられた(26日実施)。昨年11月、今年3月、5月、6月、8月の利下げと合わせると、1年物貸出金利は6%から4.6%へ計1.4%引下げられた。また、預金準備率は、2月、4月に続き0.5%引下げられた(9月6日実施。水準は17.5%)。
一方、8月11日には、人民元レート(対米ドル)の基準値の形成メカニズムの改善(基本的に前日の終値を参考に決める)が発表され、同時に基準値を約1.8%減価する措置も採られた(その後も人民元安となり基準値は8月下旬では累計4.5%元安になっている)。
これらに政策の背景を見ると、第一に利下げについては、企業の資金調達コストを引き下げるために採られているとの状況に変わりはない( 当コラム2015.06.02 参照)。7月時点で生産者物価指数(PPI)は、前年同月比ベースで41ヵ月連続低下しており、7月の低下幅は5.4%となっている。製造業はデフレ状況にあり期待インフレ率もマイナスになっていることから、実質金利を引き下げる必要がある。
第二に、預金準備率引下げの背景には、昨年後半以降の外貨準備の減少がある。これは、人民銀行は、外貨準備増加に伴う市中への資金供給ルート(人民銀行の外貨購入とその見返りとしての人民元の放出)が使えないことを意味する。このため預金準備率引き下げによって市中に資金を供給している。また、上記の人民元レートの水準調整を受けて(資本流出等により)市中の流動性が変動することも考慮した措置である。
なお、預金準備率引下げについては、ターゲットを絞った緩和措置も依然採られている。マクロレベルで流動性の総量を適切に保っても農業や中小企業には資金が流れ難いため、これらの分野への貸出が多い金融機関に預金準備率の引下げ幅を優遇する措置は以前から採られている。さらに今回は、個人消費を促進するために、金融リース会社と自動車金融会社に対しても同様の措置が採られた。
このようにこれまでの金利・預金準備率政策は、物価下落・国際収支構造の変化といった要因に対して、その効果を相殺するために採られている、いわば受動的な側面がある。一部では、金融緩和策にもかかわらず景気減速が止まらないといった見方もあるが、そもそも積極的に景気を刺激してきたわけではない。
その背景には、社会安定の鍵を握る雇用情勢が足元では堅調なことがあろう。今後、景気鈍化の影響が雇用に及んで来るようなことになれば、政府はより積極的な金融・財政政策を打つものと思われる。
金利自由化
また、今回は金利自由化措置も採られた。満期が1年超の定期預金の金利上限が撤廃された。
1990年代に市場金利が自由化された後、2004年10月以降は「貸出金利は下限、預金金利は上限」を管理する方法の下で、金利自由化はこれらの下限・上限を緩和する形で進んできた。貸出金利下限は2013年に撤廃され、現在は上述したように1年物以下の預金金利の上限を残すのみとなっている。その1年物以下の預金金利にしても、既に上限は「基準金利x1.5」(2015年5月実施)まで引上げられており、事実上自由化された状況にある。今年5月の預金保険制度実施から予想されていたことではあるが、金利の完全自由化も視野に入ってきた。
プロフィール
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。