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中国の2016年第1四半期の実質経済成長率は6.7%増(前年同期比)となった。7年ぶりの低い伸びである。また、昨年の第1四半期以降の経済成長率を四半期毎に見ると、7.0%、7.0%、6.9%、6.8%、6.7%であり、徐々に減速している。

需要項目を見ると、第1四半期は固定資産投資が前年同期比10.7%増(実質13.8%増)と2015年通年の10.0%増から加速する一方、社会小売総額は同10.3%増と2015年の10.7%増からやや減速した。

第1四半期の固定資産投資の内訳を見ると、インフラ投資が19.6%増と全体を牽引している。また、不動産関連投資が6.2%増となり、2015年の1.0%増から加速している。さらに、固定資産投資のうち新規着工分は同39.5%増となり今後の増加を示唆するものとなっている。

ここで、インフラ投資は昨年来、政府が景気下支えのためにインフラ投資を増加させていることがある。不動産投資も同様で、一昨年以来、政府は住宅購入制限令の緩和や住宅ローンの頭金の調整等により不動産市場を下支えしている。

このように固定資産投資には景気下支え策が影響している。国有部門への影響が大きいと見られ、民間固定資産投資の伸びだけを見ると、2015年の10.1%増から第1四半期は5.7%増に減速している。

不動産市場は、長期間にわたると予想される在庫調整の中にあり、本格的な回復は期待し難い。足元の不動産市場を見ると、大都市が好調な一方、いわゆる3、4線の地方都市は調整が続いている。こうした中、新規投資により都市部で過熱状況を生んだり地方都市で新たな在庫を作ったりしてしまうと、短期的な景気刺激効果はあっても、長期的にはかえって問題が大きくなる恐れがある。

また、今年は、鉄鋼・石炭・セメント業等に代表される過剰生産能力の解消が経済政策の重要な任務となっている。鉄鋼・石炭の2産業で200万人近い雇用に影響が出る可能性があり、雇用面から景気下押し圧力は強い。政府は、当面、財政政策を利用して景気の過度な悪化を防いでいる状況にある。ここで財政政策は、営業税の増値税(付加価値税)の適用範囲を広げることに伴う減税による企業の活性化を含む。

一方、最近発表された経済データからは、これまでの一本調子の景気減速とは異なる動きも見え、今後減速の度合いが緩む可能性がある。

第一に、3月の製造業PMI(Purchasing Managers’ Index)は50.2となり、2015年7月以降初めて、製造業景気の拡大・縮小の分水嶺となる50を上回った。生産、受注(国内・輸出)、価格指数等が上向いた。ただし、製品在庫指数は46.0と低位にあり、在庫についてはあまり動きが見られない。依然として在庫積み増しには慎重な姿勢がうかがえる。

第二に、PPI(生産者物価指数)が前月比ベースで3月は0.5%上昇となった。前月比ベースでは、これまで2014年1月以降下落が続いていた。前年同月比ベースでは3月は4.3%下落であり、PPIは2012年3月以降下落が続き製造業がデフレ状況にあることを示している。ただし、ここでも昨年12月の5.9%下落に比べると下落幅が縮小している。内訳を見ると、鉄鋼、非鉄金属等で下落幅が縮小している。鉄鋼・アルミ等の過剰生産能力解消は、今年の経済政策の重要任務となったため最近特に注目されているが、以前から過剰生産能力解消は進められてきた。それらの効果が現れてきた可能性があり、今後の動きが注目される。

第三に、工業企業(一定規模以上)の利益が1-2月期に4.8%増加(前年同期比)と2015年半ば以降初めてプラスに転じた。PPIの下げ幅縮小も背景にあると見られる。

このように足元の中国経済は依然として減速傾向にあるものの、変化の兆しも見られる。当面、構造改革に伴う景気下押し圧力に対して財政政策等により景気を下支えしながら、構造改革の成果が現れるのを待つ展開となろう。

プロフィール

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    神宮 健

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    

    1983年に野村総研入社以来、一貫してマクロ経済調査や資本市場調査に携わっている。東京本社の経済調査部での日本経済の調査の他、90年代にはNRIA(ニューヨーク)で米国経済を調査した。2001年から2004年までNRI(香港)、2004年~2019年3月までNRI北京にて中国経済、金融資本市場・制度、金融業界の動向を調査。2019年4月以降も、NRIにて同調査を継続。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。