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7月20日、人民銀行、銀行保険監督管理委員会、証券監督管理委員会は、今年4月に実施された「金融機関の資産管理業務の規範化に関する指導意見」(以下、指導意見(注1))に関する通知や意見草稿(パブリックコメント募集用)をそれぞれ発表した。

指導意見の不明点を明確化し、指導意見の実施を平穏に行うことが趣旨であるが、背景には、指導意見によるシャドーバンキングの取締りの効果が大きく、景気や金融市場に影響が出たことがあると見られる。

景気面では、今年上半期の固定資産投資の減速がある。特に地方政府の関わるインフラ投資(除く電力・ガス・水)が2017年通年の19.0%増から上半期は前年同期比7.3%増に鈍化し、電力・ガス・水は、同じく0.8%増から10.3%減となった。

金融面では、社会資金調達の増勢が鈍化しているのみならず、内訳を見るとシャドーバンキングに関連する委託貸出・信託貸出・割引前手形が上半期は減少(ネットで返済)に転じている。シャドーバンキングの取締りで地方政府・その資金調達プラットフォームや民間企業にカネが流れ難くなっていると見られる。また、7月18日時点で、今年に入ってから計28の債券がデフォルトした。その中の27の債券格付けはAA+以下(AA+を含む)であった。また、債券発行延期・失敗も多く、信用債(社債等)市場の流動性は低下している。

こうした中で発表された人民銀行の通知「金融機関の資産管理業務の規範化に関する指導意見についての事項の更なる明確化に関する通知」の中で、特に注目されるのは、非標準化債権類資産に関連するものである。(この他にも基準価格算定方法についての見解等がある。なお、銀保監会、証監会の意見草稿は基本的に人民銀行の通知と歩調を合わせている。)

背景を説明すると、非標準化債権類資産とは、例えば不動産プロジェクトに対する収益受益権などであり、資産運用商品に組み込まれる形でシャドーバンキングにおいて重要な役割を果たしてきた。指導意見では標準化債権類資産を、等分化され・取引可能であり、十分な情報開示、集中登記・独立委託管理されていることに加えて「公正価値を定めることができて、流動性があること、銀行間市場・証券取引所など国務院の同意を経て設立された取引市場で取引されること」と定義している。これら標準化債権類資産以外は非標準化債権類資産(非標とも呼ばれる)となる。

資産運用商品の非標準化債権類資産への投資が、指導意見以前に発表されている諸規定によって既にかなり制限されている中で、指導意見は、金融機関は激変緩和措置の過渡期が終了する2020年末までにこれら諸規定に違反する行為を解消することを要求していた。

なお、非標準化債権類資産を利用して資金調達しているインフラ建設等のプロジェクトは期間が長いため、最終的な資金源である個人投資家向けに販売された短期物の資産運用商品(銀行の理財商品等)との間に期間ミスマッチがある。このため、指導意見では、デフォルトリスク等を避けるように、過渡期においては既存資産運用商品での借り換えを認めていた。

そして、今回の通知の非標準化債権類資産に関連する内容は以下の通りである。

  • 公募資産管理商品は非標準化債権類資産に(一定の条件の下で)投資してもよいことが示された。この点は、指導意見でははっきりしていなかった。
  • 指導意見の過渡期(2020年末まで)において、金融機関は既存商品を発行して新たな資産に投資してよいことになった。但し、国家の重点分野・重大プロジェクトの建設継続・中小零細企業の資金調達を優先させる。なお、既存商品の全体の規模は指導意見発表前の水準に抑えること等の条件もある。
  • 既存の非標準化債権類資産のオンバランス商品への切り替えを、マクロプルーデンス評価におけるパラメータ調整により促し、また、オンバランス化により必要となる銀行の自己資本(Tier 2 Capital)の劣後債発行による補充も支持する。
  • 過渡期終了時にオンバラス化できない非標準化債権類資産については、当局の同意を経て、適切な措置を採る。

要は、金融機関による非標準化債権類資産の圧縮ペースを緩める一方、必要な分野での資金調達確保が趣旨であると思われる。

ここで、最近の金融当局の動きを振り返ると、6月24日に、中国人民銀行はターゲットを定めた(定向)預金準備率の引下げを発表した。不良債権処理の一環である「デット・エクイティ・スワップ」や小・零細企業の資金調達難と高コストの問題を緩和することが目的である。また、7月18日には、中国人民銀行が貸出と社債等の投資を促すよう銀行に中期貸出ファシリティー(MLF)資金を供給する、との報道も流れた。

これらを総合して考えると、中国の金融当局は、金融リスク防止という今年の大きな任務は変わらないにしても、足元の景気、金融市場に対する不安感を払拭する方向に動いていると考えられる。

(注1)金融ITフォーカス 「変革期を迎える中国の資産運用業界」 (2018年7月号)参照。

プロフィール

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    神宮 健

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    

    1983年に野村総研入社以来、一貫してマクロ経済調査や資本市場調査に携わっている。東京本社の経済調査部での日本経済の調査の他、90年代にはNRIA(ニューヨーク)で米国経済を調査した。2001年から2004年までNRI(香港)、2004年~2019年3月までNRI北京にて中国経済、金融資本市場・制度、金融業界の動向を調査。2019年4月以降も、NRIにて同調査を継続。

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