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3月27日の中共中央政治局会議では、新型コロナウイルス感染症の防止抑制と経済政策等が検討された。

会議では、国内外の新型コロナ感染症の防止・抑制と経済情勢に新たに重大な変化が生じつつあり、海外での新型コロナ感染症の拡散・蔓延が加速し、世界経済・貿易の伸びが深刻なショックを受ける、との認識を示した。

そして、マクロ政策の調整・実施を強め、マクロ政策措置のパッケージを出してこれに対応する、としている。

積極財政と穏健な金融政策のポリシーミックスの枠組みは変わらないが、▽積極財政をより積極的にする、▽穏健な金融政策はより柔軟にする、としている。中国は先進国と比べると、財政赤字拡大や利下げの余地が大きい。

財政政策では、具体的に、▽財政赤字の(対GDP)比率を適度に引上げる、▽特別国債を発行する、▽減税・費用引下げ政策を実行する、▽地方政府レベニュー債の規模を拡大し、発行と利用を加速する、▽重点プロジェクトの準備・建設に一段と力を入れる、等がある。なお、特別国債は、特定の目的のために発行される国債で、一例として98年のアジア通貨危機を受けて発行されたことがある(2700億元。4大国有銀行の資本金補充に利用された)。

金融政策では、▽市場の融資金利を低め誘導する、▽合理的で十分な流動性を保つ、▽再貸出・再割引(両者とも人民銀行から商業銀行への融資。再貸出は後述)等の政策に先導的な役割を発揮させる、▽(金融政策の)トランスミッションメカニズムの流れを良くする、▽資金調達難・調達コスト高を緩和する、などである。

この政策パッケージは、国内外の状況変化、特に海外経済の悪化が予想される中で、国内景気の刺激に一歩踏み出したものと見られる。中国における、新型コロナ感染症への経済政策面での対応は、当初の(医療用品生産等での)緊急対応、供給面でのショックへの対応(生産再開のための諸策)を経て、予想される外需減少や失業・収入減等を通じた内需の落ち込みへの対応に進みつつあると思われる。実際、上述の財政・金融政策に加えて、国内市場での需要喚起についても言及されている。

政治局会議を受けて金融政策面で動きがあった。3月30日の公開市場操作で7日物買いオペ金利が2.40%から2.20%へ引き下げられた。これは2003年以来の低水準である。14日物買いオペ金利と合わせて見ると、これは19年11月以降4度目の引下げであり、新型コロナ感染症後では、2月3日に次いで2度目である。引下げ幅も今回は0.2%とこれまでの0.05%や0.1%から拡大した。

新型コロナ感染症拡大後の金融政策を振り返ると、まず、1月末に人民銀行が再貸出の利用を発表した。再貸出とは特定の政策目的の達成のために、人民銀行が商業銀行に低利で融資し、さらに商業銀行が優遇金利で借り手に融資する仕組みである。具体的には、重要な医薬・生活物資を生産・輸送・販売する重点企業に3000億元を提供するものである。

次に、2月26日に、再貸出・再割引をさらに5000億元増加した。支援対象は、農業・小企業支援である。3月16日には、ターゲットを定めた預金準備率引下げにより、銀行システムに5500億元を供給した。具体的には、小・零細企業向け等の金融包摂融資についての基準を満たした銀行の預金準備率を引下げるもので、商業銀行による小・零細企業、民営企業向けの低コストの融資の促進することで、事業継続や生産再開を支援する意図がある。

金利の低め誘導は、これらのターゲットを絞った政策とは異なり、通常の金融政策トランスミッションのメカニズムを利用して経済主体全般に影響を与えて景気を下支えするものである。予てから人民銀行は、公開市場操作における金利変化を通じて商業銀行の融資金利等に影響を与える金融政策トランスミッションのメカニズムを強化しているところでもある。

具体的には、今回のレポ金利の低下は、同じく人民銀行の金融調整ツールであるMLF (Medium-term Lending Facility、中期貸出ファシリティー)の金利低下につながり、さらにMLF金利を基に決められる商業銀行のプライムレートのLPR (Loan Prime Rate、貸出基礎金利)の低下を導く可能性がある。LPRは2月20に、1年物が0.1%、5年物が0.05%低下し、それぞれ4.05%、4.75%となったが、3月20日には据え置かれており、次回4月20日の動きが注目される。

プロフィール

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    神宮 健

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    

    1983年に野村総研入社以来、一貫してマクロ経済調査や資本市場調査に携わっている。東京本社の経済調査部での日本経済の調査の他、90年代にはNRIA(ニューヨーク)で米国経済を調査した。2001年から2004年までNRI(香港)、2004年~2019年3月までNRI北京にて中国経済、金融資本市場・制度、金融業界の動向を調査。2019年4月以降も、NRIにて同調査を継続。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。