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中国における2月以降の新型コロナ対策としての税・財政政策(社会保障等も含む)を振り返ると以下のようである。

第一は、医療費補助や感染防止抑制の重点物資に関連する支出である。患者の自己負担分に対する補助(中央財政が60%)やマスク・防護服等の政府買取りであり、3月21日の時点で中央・地方政府合わせて1,218億元に上る。税制面では、防疫関連企業の設備購入費用が全額、当期損金算入できる等の措置が採られた(他に、影響の大きい産業の企業損失の繰り越し期間を5年から8年に延長すること等もある)。

第二は、企業の社会保障費の減免である。年金、失業保険、労災保険の保険費用が引下げられる。2020年の企業負担の軽減額は5,100億元超とされる。これに従業員医療保険の減免が約1,500億元加わる。既に19年に年金の保険料率(企業負担分)の賃金の20%から16%への引下げが実施されており、これを加えると20年の負担減は1兆元を超える。

第三は、小規模納税者に対する減税措置である。ここで小規模納税者とは年間販売額が500万元以下の増値税の納税者で、営業収入に税率をかけて増値税を計算するが、湖北省以外では、税率を3%から1%に引き下げる。湖北省では3か月間増値税は免税となる。

第四は、輸出増値税の還付率の引上げである。対象は1464品目で、自動車部品、建築部品等に対する輸出税の還付率を10%から13%に、生鮮肉類等に対する還付率を6%から9%に引き上げる。

当初は(医療面等での)緊急対応や供給面におけるショックへの対応(生産者のコスト引下げ等による生産再開の諸策)であり、徐々に需要面にも配慮する流れである。減免税に加えて景気悪化に伴う税収減が予想されることから、20年の財政赤字は拡大しよう。ちなみに19年の財政赤字(歳入-歳出、繰越金などによる調整前)は、名目GDP(国内総生産)比約4.9%である。

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需要面については、輸出税還付の他に、いくつかの地方政府による消費券の配布やサービス業発展資金の利用や等が既に発表されているが、20年後半の景気を見る上では、固定資産投資に関連する国債・地方政府債の動向が注目される。

まず、2月11日に20年の地方政府債務限度(枠)8,480億元が前倒しで認められた。一般債が5,580億元、レベニュー債が2,900億元である。既に19年中に1兆元のレベニュー債枠が既に前倒しで認められているため、合計では1兆8,480億元前倒しされたことになる。

なお、レベニュー債で調達した資金は、収益のあるプロジェクト(有料道路等)に利用され、収益から償還されることになっている(このため財政赤字には含まれない)。また、前倒しとは、従来、3月の全国人民代表大会(全人代)で地方政府債の発行限度が決定されていたため、年前半にはほとんど地方債が発行されず、地方のプロジェクト等の資金調達が難しくなる弊害が生じていたため、19年より前年実績に基づいて一部を前倒しで認めるようになったものである。

20年のレベニュー債の用途は土地購入等の不動産関連に使用してはならず、医療救急施設や公共衛生施設等に利用することになっている。ただし、従来から、レベニュー債で調達した資金が不動産開発等に流用されたり、地方政府による土地の譲渡収入が償還財源であったりという問題が指摘されていることから、景気回復を急ぐ中でどの程度、こうした問題をチェックできるかが重要となる。

次に、3月27日の中共中央政治局会議は特別国債の発行を打ち出した。特別国債は、特定の目的のために発行される国債で、98年のアジア通貨危機を受けて発行され、4大国有銀行の資本金補充に利用された(2,700億元)。07年の中国投資公司(CIC、外貨準備の一部を運用するために設立された国有会社)設立の資本金も同様である(1.55兆元)。これらの特別国債は、財政赤字には含まれず、つまり一般財政支出が償還財源ではなかった(配当金等が償還財源になっている)。今回の特別国債の用途は現時点では未定であるが、財政赤字に含めるのか否かも注目される。

プロフィール

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    神宮 健

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    

    1983年に野村総研入社以来、一貫してマクロ経済調査や資本市場調査に携わっている。東京本社の経済調査部での日本経済の調査の他、90年代にはNRIA(ニューヨーク)で米国経済を調査した。2001年から2004年までNRI(香港)、2004年~2019年3月までNRI北京にて中国経済、金融資本市場・制度、金融業界の動向を調査。2019年4月以降も、NRIにて同調査を継続。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。