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7月24日に開かれた中国共産党中央政治局会議では、2023年下半期の経済政策の大枠が示された。

同会議は、足元の経済が内需不足、一部の企業の経営難、重点分野における隠れたリスク、複雑な外部環境等の課題に直面しているとの認識を示した上で、23年下半期の方針として、内需の拡大・信頼感の向上・リスクの防止を挙げ、経済政策については、マクロ調節・コントロールを正確かつ強力に実施し、カウンターシクリカルな調節と政策の準備を強化するとした。財政・税制政策と金融政策については、▽積極的な財政政策と穏健な金融政策を引き続き実施し、▽減税・費用引き下げ策を継続・改善し、▽総量型と構造的な金融政策ツールの役割を十分に発揮させる。

その後、8月4日に開かれた国家発展改革委員会、財政部、中国人民銀行、国家税務局の共同記者会見で、一部の具体的な政策についての説明があった。

財政・税制政策については、小・零細企業への減税と費用引下げによる支援措置が続いている。7月31日に、小・零細企業や個人事業者(個体工商戸)に対する10項目の支援措置が採られた。既存政策の支援を強めた上で2027年末まで延長するものが4項目(個人事業者の個人所得税半減の条件を拡大した上で延長、等)、単に2027年末まで延長するもの6項目(小規模納税者の増値税に対する減免税の延長、等)がある。なお、23年上半期の新たな減税・費用引下げ等は9,279億元、うち小零細企業と個人事業者を含む民営経済に対する分が7049億元であることが明らかにされた。

金融政策に関しては、主に構造的金融政策ツールについての説明であった(特定の分野にターゲットを絞って資金を供給する構造的金融政策ツールについては、本コラム「 年明け後の人民銀行の金融政策動向について 」(2023/02/20)参照)。2023年6月末時点で、同政策ツールの残高が約6.9兆元に上ることが示された。今後については、農業・小企業向けの再貸出(人民銀行から商業銀行への貸出)・再割引枠の2000億元拡大、小零細企業向け貸出ツールの2024年末までの延長がある(6月発表)。また、グリーン・低炭素関連の構造的金融政策ツール、科学技術革新向け再貸出、さらに、不動産部門における物件引き渡し確保の支援計画も継続する。

このように、財政・税制政策は現時点で減税・費用引下げが主である。金融政策では、ターゲットを絞った構造的金融ツールの利用が主となっている。そして、両者とも、既存措置の延長を含んでおり、基本的には、これまで政策の延長であり、新たに大規模な措置が打たれているわけではないことがわかる。

なお、不動産引き渡しの金融面での支援について見ると、22年8月に政策性銀行を通して2,000億元の特別貸出(専項貸出)の措置が採られ(現在3,500億元)、加えて23年3月に2,000億元の不動産引き渡しの貸出支援計画が出されている。後者は人民銀行が不動産引き渡しのための資金(無利子)を商業銀行6行に提供するものである。

報道によれば、当初の2,000億元の特別貸出を利用したプロジェクトでは60%超が不動産引き渡しにつながっている。なお、全体では、足元で累計165万件超の住宅の引き渡しが完了した。このように、社会安定を脅かしかねないリスクに対しては手が打たれている。

 

プロフィール

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    神宮 健

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    

    1983年に野村総研入社以来、一貫してマクロ経済調査や資本市場調査に携わっている。東京本社の経済調査部での日本経済の調査の他、90年代にはNRIA(ニューヨーク)で米国経済を調査した。2001年から2004年までNRI(香港)、2004年~2019年3月までNRI北京にて中国経済、金融資本市場・制度、金融業界の動向を調査。2019年4月以降も、NRIにて同調査を継続。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。