長崎県の地銀統合を承認へ
経営統合を計画しているふくおかフィナンシャルグループと長崎県の十八銀行が統合実現に向けて貸出債権を他の金融機関に移す、いわゆる債権譲渡の規模が、1,000億円弱に上ることが明らかになった。これを受けて日本経済新聞は、公正取引委員会が8月末以降に両行の統合を正式に承認する方向にあると報じている。そうであるとすれば、2年半に及ぶ異例の統合審査がようやく決着に向かうことになる。
両行は2016年2月に統合で基本合意したが、両行を合わせた長崎県での貸出シェアが7割を超え、寡占傾向が強まることで、顧客がより高い借入金利を受け入れさせられるといった不利益を被る可能性などに配慮して、公取委は統合を承認してこなかった経緯がある。今回の債権譲渡によって、両行の貸出シェアは相応に低下するとみられる。
貸出譲渡方式の問題点
今回の統合が成立することになれば、他の地域金融機関が経営統合あるいは合併を構造改革の一つの手段としてより前向きに考えるきっかけとなるだろう。
しかし今回の債権譲渡という解決策は、大きな問題を残したのではないか。その手法は、リレーションバンキング(地域密着型金融)という地域金融機関に求められる役割、機能と矛盾する面があるからだ。リレーションバンキングとは、金融機関が顧客との間で親密な関係を長く維持することを通じて、一般に公表されている財務情報などからは得られない顧客企業の潜在性や信用リスクに関する独自の情報を収集し、それに基づいて貸出条件等を決めるというビジネスモデルのことだ。そのもとで、財務面では問題を抱えつつも、高い技術力などを通じて成長のポテンシャルを持つ中小企業などに資金を融通し、地域経済の活性化などに貢献するといった役割が、地域金融機関には強く期待されている。
ところが他行に債権譲渡をすれば、こうした独自の情報が十分に継承されない恐れがある。その結果、債権譲渡を受けた銀行が、成長のポテンシャルを持つ中小企業向けの融資を打ち切ったり、貸出金利を引上げたりする可能性があるのではないか。それは、地域経済の活性化を期待される地域金融機関の機能に逆行し、地域経済の発展を阻害してしまうかもしれない。
地銀統合の基準提示を
また地域金融機関が、構造改革の一つの手段として経営統合あるいは合併を真剣に検討する際には、それが公取委に承認されるという見通しが立つことが必要だろう。仮に今回の長崎県での経営統合が認められるとしても、将来の統合の是非に関する公取委の判断には、大きな不確実性が残されたままだ。そもそも統合のメリット、例えば店舗の統廃合や業務の再構成などは、近隣同士の地域金融機関同士の統合で最も大きくなる。しかし今回は、それがゆえに統合後の貸出シェアが高まり、統合の障害となってしまった。
今回の経営統合の是非を巡っては、銀行の特殊性に配慮すべきとする金融庁の意見と、銀行だけを特別扱いはしないとする公取委の意見との対立が際立った。銀行は金融仲介機能という公的な役割を担っているという点への配慮は必要だが、それ以上に銀行だけを特別扱いする強い理由は確かにないように思われる。しかし重要なのは、銀行だけを特別扱いするということではなく、経営統合の是非を判断する際には、各産業の特性に十分に配慮することが、公取委には求められるのではないだろうか。
地域金融機関が構造改革の一つの手段として経営統合あるいは合併を検討するためには、銀行業の特性に配慮した統合の是非の基準のようなものを予め公取委が提示しておくことが、不確実性を下げる観点から望ましいのではないか。
「市場の番人」とも称せられる公取委は、独占禁止法に照らして経営統合が妥当であるかを最終的に判断する役割を担っているが、その判断の基準や考え方について、より丁寧な説明をしていくことで、その判断に対する納得感を高める努力をしていくことも必要なのではないか。それが、公取委に対する信認向上にもつながるだろう。
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