トランプ大統領が金融政策に再び言及
トランプ大統領が、利上げを進める米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長への不満を示したとの報道を受けて、本日の為替市場はほぼ2か月ぶりの水準まで円高ドル安が進んだ。
トランプ大統領は先週末の会合で、利上げを進めるパウエル議長について、「低金利継続を期待して議長に指名したのに、利上げを続けている」などと不満を表明したとブルームバーグ社が報じた。また、ロイター通信社のインタビューに応じたトランプ大統領は、パウエル議長が利上げを継続する方針であることについて、「気に入らない」と述べたという。
今年7月にもトランプ大統領はFRBの利上げに不満を表明し、その直後にムニューシン財務長官は、トランプ大統領と自分は今もFRBを完全に支持していると語るなど、火消しに回った経緯がある。この際には、トランプ発言は政府が中央銀行の政策に介入するものとして多くの批判を受けたが、そこからわずか1か月で、トランプ大統領は同じ問題発言を行ったことになる。
折しも、トランプ政権は現在トルコ政府と対立を強めている。トルコ・リラの下落に歯止めが掛からない大きな理由の一つは、エルドアン大統領が中央銀行の政策に露骨に介入し、通貨防衛を狙った利上げ策の実施を妨げていることにある。トランプ大統領は、こうした点に全く学んでいないことになる。
市場では2つの見方が拮抗か
トランプ大統領の発言が為替市場で円高ドル安を生じさせたことは、市場がFRBの利上げペースが緩やかになる可能性を意識し、織り込んだことを反映している。他方、米国の債券市場、株式市場はともに上昇しており、トランプ発言の影響は明確には見られない。しかしこれは、トランプ大統領の発言についての金融市場の評価が分かれていることを反映している面があるのではないか。
市場の評価の第1は、トランプ大統領の牽制によってFRBは、先行き、利上げペースを落とさざるを得なくなり、その結果、中長期的にインフレリスクが高まってしまう。いわゆるビハインド・ザ・カーブのリスクが高まる可能性だ。この場合には、長期金利が上昇、イールドカーブがスティープ化する。これは株式市場にも打撃となろう。第2は、FRBが政治介入をはねつけ、その独立性を誇示する観点から、むしろ以前よりも金融引き締めに前向きになることだ。この場合、先行きのインフレ期待が低下するとともに景気悪化懸念(いわゆるオーバーキル観測)が浮上し、長期金利が低下、イールドカーブがフラット化する。金融引き締め強化による景気悪化懸念から、株式市場には大きな打撃となろう。
現状はこうした2つの見方が拮抗し、互いに打ち消し合う中で、金融市場の反応が結果として限られて見えている可能性があるだろう。しかしひとたび両者のバランスが崩れれば、金融市場は俄かに不安定化し、株価の下方リスクが高まる可能性がある。
金融市場の反応が大きくないことに慢心し、トランプ大統領が金融政策を牽制する発言を今後も繰り返せば、いずれはこのような大きな市場の反応を招いてしまう可能性があるのではないか。
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