ベネズエラはデノミと通貨のペグ制を導入
現在、ベネズエラでは、南米史上最悪とも言われるハイパーインフレーションと経済危機が進行している。ベネズエラの物価上昇率は2017年に前年比1000%を上回ったが、現在では年率8万%程度と見られている。国際通貨基金(IMF)は、今年中に物価上昇率が百万%にまで達すると予想している。
原油生産量の減少が財政悪化をもたらし、政府が通貨供給量を急速に拡大させていることが、国内での物価上昇率を高めている。またこれが通貨価値の急激な下落を生じさせ、物価上昇と通貨下落が相乗的かつ加速的に進む事態へと至っている。
事態の改善を図るため、ベネズエラ政府は8月20日に通貨の価値を5桁切り下げるデノミを実施した。旧5千万ボリバルは、新500ボリバルとなる。
さらに、通貨価値の安定回復のために、ベネズエラ政府が独自に発行しているとされる仮想通貨「ペトロ」に自国通貨を連動させるペグ制を導入することが発表された。仮想通貨「ペトロ」は原油価格に連動しているとされているが、取引の実態はほぼないとみられる。従って、このペグ制は、実質的には自国通貨を原油価格に連動させることを目指すものだ。
今後も続く空前のハイパーインフレ
ベネズエラ政府によれば、1ペトロ=3,600新ボリバルになる。また、1ペトロ=60ドル程度であるという。ここから計算すると、1ドル=60新ボリバルとなる。これは、公定レートで計算すると、95%の通貨切り下げに相当する。しかし実際に取引されている実勢レート(闇レート)は、1ドル=5千万旧ボリバルであり、新ボリバルに計算し直すと1ドル=62.5新ボリバルとなる。従って、通貨切り下げといっても、その実態は実勢レートに合わせただけという側面が強い。その結果、国内物価に与える影響もほぼないだろう。
政府が目指しているように、自国通貨を原油価格に連動させることに仮に成功すれば、国内物価を安定させることはできるが、それはかなり難しい。政府が通貨供給を拡大させるなか、通貨の信認は既に完全に崩れているためだ。実際、ペグ制導入後も、通貨の急速な下落は続いている。
通貨価値及び物価の安定回復を図るためには、より信頼性の高い制度を導入することが必要だ。それは例えば、自国通貨をドルに換えてしまう「ドル化」であり、また、国内での通貨発行量を中央銀行が保有するドルに制限し、自国通貨とドルとの固定レートで兌換を保証する「カレンシーボード制」を導入することだ。
しかし概算で、現在のベネズエラのマネーサプライが外貨準備の2倍以上に及ぶ中、「カレンシーボード制」を導入すれば、急激な金融引き締め措置が必要になる等、その現実味は低い。ベネズエラのハイパーインフレ、経済危機は、有効な対抗措置が見いだせない状況が今後も続くはずだ。
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