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ビットコインの先物取引で明暗が分かれる

仮想通貨ビットコインの価格低迷が続くなか、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)のビットコイン先物が、その取引高を急速に拡大させている。1日当たりの平均取引高は6月の1.5万ビットコイン程度から、7月には3.0万ビットコイン程度へと一気に2倍となった。またCMEでの先物取引高は、米国でのビットコイン現物取引で最大規模のコインベースの3倍近くに達している。

他方で、昨年12月にCMEよりも1週間早くビットコインの先物取引を始めたシカゴ・オプション取引所(CBOE)は、当初から取引高はほぼ横ばいの状態にあり、足もとではCMEの6分の1程度だ。

このようにビットコインの先物取引においてCMEとCBOEの間で明暗が分かれているが、そもそも同じ商品の先物取引が複数の取引所で同時に大きく成長するということ自体が比較的まれなことだ。なぜCBOEと比べてCMEでより多くの取引がなされているのかは必ずしも明確ではないが、第1の背景は、より大手の取引所であるという信頼感の高さを反映しているのではないか。それに加えて、清算価格の透明性も関係しているかもしれない。清算時点での清算価格として、CBOEはジェミニ取引所という一つの取引所のスポット価格を適用する一方、CMEは4つの取引所におけるスポット価格の平均を適用している分、やや透明性が高いと考えられている可能性がある。

現物のヘッジではなく先物取引で儲ける狙い

今年11月には、3番目の取引所がビットコインの先物取引に参入することを計画しており、取引所間での競争はより激化するかもしれない。その取引所とは、ニューヨーク証券取引所を傘下に持つインターコンチネンタル取引所(ICE)だ。仮想通貨ビットコインの新会社を設立するとともに、ビットコインを裏付けとする先物を上場させる計画を明らかにしている。新会社の名称はバックト(Bakkt)で、顧客にビットコインの売買や保管、支払いサービスを提供するとしている。バックトはスターバックスとも提携する計画だ。

ICEの先物は現物受け渡しとなっており、先物保有者は決済時に現金ではなく、ビットコインを実際に手に入れるという点でCME、CBOEとは異なる。

昨年年末以降、コインベースのビットコイン現物取引高が減少するなかで、CMEでの先物取引高は増加傾向を辿っており、両者は逆方向にある。CMEでの先物取引高の増加は、現物購入時のヘッジを主な目的としているのではなく、先物自体の投資(先物取引で儲けること)を主な目的として取引される傾向が強いことを意味しているのではないか。ビットコインを売り建てる場が作られたことで、ビットコイン取引に新規に参入してきた投資家もいるだろう。

他方、先物自体の投資ニーズが高まる中、異なる取引所の先物間での取引が増加する余地もあるのではないか。既に見たように、清算価格は複数成立する、つまり一物一価が成立しないことから、取引所間で先物の裁定取引が生じる余地がある。この場合には、CMEの独り勝ちではなく、CME、CBOE共に取引が拡大していく可能性も考えられるところだ。

ビットコインの価格低迷が続き、現物取引が低迷を続ける中で、先物取引のみ活況を続けるシナリオも考慮に入れておきたい。

 

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。