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ECB次期総裁にワイトマン就任の可能性が低下か

来年10月に8年の任期を終える欧州中央銀行(ECB)ドラギ総裁の後任として、ワイトマン・ドイツ連銀総裁が最有力と考えられてきたが、その可能性が低下しているようだ。ドイツ政府高官によればメルケル首相は、同じく来年秋に任期切れを迎えるユンケル欧州委員長の後任にドイツ人を充てることがより重要と考えているという。

タカ派として知られるワイトマン氏が指名されることには、フランスやイタリアは否定的だが、フランスに欧州委員長のポストを渡す一方、ドイツはECB総裁のポストを得るという駆け引きがなされるとの見方が従来からなされてきた。今年2月にECB副総裁にスペインのルイス・デギンドス経済相が決まり、南欧出身者が副総裁ポストを得たことで、ドラギ総裁の後任は北部欧州から選ばれるとの見方が強まった。その最有力候補とされたのが、ワイトマン・ドイツ連銀総裁だ。

ECB総裁は、初代がオランダのドイセンベルク氏、次がフランスのトリシェ氏で、3番目のドラギ氏はイタリア出身だ。欧州最大の経済大国ドイツがECB総裁職を未だ得ていないことも、ワイトマン氏の次期総裁就任に有利と考えられてきた理由の一つだ。

しかし報道されているように、メルケル首相が欧州委員長のポストをドイツが得ることを優先するならば、ワイトマン氏が総裁職を得る可能性は後退したと言えるだろう。

総裁人事がECBの政策に与える影響は当面大きくない

メルケル首相が欧州委員長のポストを重視する姿勢に転じたのだとすれば、その背景には、米国との貿易問題が深刻化するなか、欧州連合(EU)の貿易政策に大きな影響力を持つ欧州委員長のポストの重要性がにわかに高まったことが考えられるだろう。他方で、ECBの金融政策は既に正常化の方向に大きく舵が切られたことで、その金融政策運営に関するドイツの関心がやや低下している可能性も考えられる。また、タカ派のワイトマン氏の総裁就任に関して、フランスや南欧諸国の反対が依然として強いことから、メルケル首相が戦略を変えた可能性もあるかもしれない。

既に金融政策の方向転換は定まっていることから、ワイトマン氏が総裁職を得るか否かで当面の政策が大きく変わることもないだろう。そのため、今回の観測が金融市場に与える影響もそれほど大きなものではないのではないか。

EUは選挙の季節に

ドイツのハンデルスブラット紙は、メルケル首相の腹心で経済相のアルトマイアー氏が、新欧州委員長の候補と報じている。それ以外にも、ライエン国防相や欧州会議で最大議席を占める中道右派の党首ウェーバー氏も候補としている。

他方、ワイトマン氏に代わってECB総裁の候補として名が挙がっているのは、リーカネン前フィンランド中銀総裁、レーン現フィンランド中銀総裁、クノット・オランダ中銀総裁、ガロ・フランス中銀総裁、クーレECB理事、ラガルド国際通貨基金(IMF)専務理事などだ。ドイツとフランスが欧州委員会委員長とECB総裁のポストを分け合う形となるのであれば、最後のフランス人3人が有力候補となるのかもしれない。

来年末にはEU大統領(欧州理事会議長)も任期を終える。主要ポストが一斉に入れ替わることから、各国間での駆け引きが本格化する、いわゆる選挙の季節をEUは迎えている。

 

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。