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ドイツ銀行がコメルツ銀行をいずれ買収か

ドイツでは、深刻な経営問題を抱える業界1位のドイツ銀行が、第2位のコメルツ銀行を買収するとの観測が燻っている。ドイツ銀行はゼービング新CEOのもとで、米国を中心に海外のホールセール部門、投資銀行部門のリストラを断行しているが、仮にコメルツ銀行を買収する場合には、国内でのリテール部門、商業銀行部門の再編も併せて行うことになるだろう。

ドイツ銀行が単独でコメルツ銀行に買収を仕掛けるシナリオと、外国銀行がコメルツ銀行を買収する動きが出て、それに対するカウンター・オファーの形でドイツ銀行が買収を決めるシナリオとが考えられている。仮に両行が統合されれば、その総資産は1.9兆ユーロとなり、欧州ではHSBC、BNPパリバについで3番目の規模となる。

ただし、両行ともにそれぞれ経営に問題を抱えた銀行であり、それらが統合されても競争力のある銀行は生まれない、との指摘もある。統合のシナジー効果を出すためには、支店の統廃合や従業員の削減などをかなり大規模に進めることが必要になるだろう。またドイツでは貯蓄銀行(シュパルカッセ)など地域金融機関の存在感が高く、欧州では最もリテール部門での競争が激しい市場とも言われている。統合によって、リテール部門での収益性を高めることができる保証はない。

ドイツ銀行は中小・中堅企業向け融資ビジネスの拡大に期待

ドイツ銀行にとって、コメルツ銀行を買収することの最大のメリットは、中小・中堅企業向け融資のビジネスを拡大させることができることだ。ドイツでは、中小・中堅企業はドイツ経済を支える屋台骨(Mittelstand)とされている。コメルツ銀行はこの分野での融資に大きな強みを持っている。他方、ドイツ銀行は大企業向けビジネスに強みがあることから、ドイツ銀行にとってはコメルツ銀行の買収を通じて新たなビジネス領域を拡大し、収益性を高めることができる。

他方、両行の合併・統合は、ドイツ政府の意向にかなり左右されやすい。コメルツ銀行は10年ほど前にドイツ政府に救済され、現在でも政府が15%の株式を保有しているためだ。ドイツ政府は、コメルツ銀行がウニ・クレジットやBNPパリバなど外国銀行に買収されることを警戒しているという。中小・中堅企業向け融資業務を外国銀行に握られ、ドイツ銀行の競争力が一段と低下してしまう可能性もあるからだ。従って、政府はドイツ銀行のコメルツ銀行買収には、比較的前向きだろう。また、規制当局である欧州中央銀行(ECB)も、買収に前向きと言われている。ドイツ銀行は、現在進めているホールセール部門、投資銀行部門の改革にめどが立ち、また市場の評価を回復させることができた時点で、コメルツ銀行の買収を真剣に検討し始めるのではないか。

欧州諸国の銀行は現在、再編の波に飲み込まれている。かつてドイツ第2の銀行であったドレスナー銀行を買収したコメルツ銀行を、さらにドイツ銀行が買収すれば、ドイツのかつての3大銀行は1行にまで統合されることになる。経済的には最も強いドイツで、大手銀行の統合が最も先鋭的に進むのは興味深いところでもある。

 

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。